麗らかな午後を過ごしましょう

今日は珍しく八戒も私も、仕事も用事もない日だった。天気も良かったから朝から2人で家中を掃除して、洗濯をして、気がつけばあっという間にお昼を過ぎていた。
普段はしっかり掃除をする時間なんてなかったから、つい張り切りすぎてしまった気もする。
そして今は、遅めの昼食を食べ終えて食休み中。穏やかで、静かで、更に隣には八戒がいるという何とも言えない幸せを噛みしめている。

「何処か出かけますか?」
「え?」
「ほら、僕らのお休みが重なることってあまりないでしょう?」

本へ向けていた視線を八戒に向ければ、読んでいた文庫本をパタリと閉じた彼が僅かに苦笑を浮かべながらそう言った。
お出かけ、お出かけねぇ…確かにまだ時間はそう遅くはない、天気もいいし気温もちょうどいいと思う。絶好のお出かけ日和という日ではあるんだろう。外に出ることは嫌いではないし、彼と恋人という関係ではあるがあまりデートというものもしたことがない。きっと片手で事足りる程だ。
それでも私は、それを淋しいとも不満だとも思ったことはない。だって別に八戒がそこにいるのなら、どっちでもいいから。出かけても、家でのんびりしても、どっちでもいいの。あまり出かけられていないことに八戒は、罪悪感を抱いているのかもしれないけれど。

「私は不満に思ったことはないよ」
「ですが、…恋人らしいことを少しでもしたいじゃないですか」
「それは外に出ないとできないことじゃないでしょ?」
「まぁ…」
「八戒と出かけるのは好きよ。でもこうして家でのんびり本を読んだり、お話するのも好き」

にっこり笑ってそう伝えれば、八戒はようやく納得してくれたのかホッとした顔になった。
そうですか、と相槌を打つのも忘れずに。

「何となく、何処にも連れて行ってあげられないような甲斐性なしでは飽きられてしまうかなって思ったんですよね」
「ふふ、意外。八戒はあまりそういうこと気にしないタイプだと思ってた」
「うーん…僕もそう思っていたんですが」
「悟浄に何か言われた?それともテレビや雑誌で見かけた?」

彼は別に素直じゃないとか、人の言うことをすんなり受け入れられないタイプではないし、かと言って全てを信じ込んで鵜呑みにしてしまうようなタイプでもない。
自分でしっかり咀嚼して、考えて、そして最後にようやく腹の内へ入れるような人だから。だから、悟浄に何か言われたとしてもさらりと躱してしまうようなタイプだと思っていたんだけど…どこか引っかかるようなことがあったんだろう。
本人は困ったように笑っているだけで、あまり深刻そうな顔をしていないから大丈夫だとは思うけどね。

「まぁ、言われたと言えば言われたんですが…ここ最近、僕自身も考えていたことではあったので」
「人生は十人十色。考え方も同じで、恋人に対してそう思うかどうかは人それぞれだよ」
「…ええ、そうですね」
「私はね、八戒。貴方がいてくれれば、何だっていいのよ」
「そ、れは……ずいぶんと素敵な殺し文句だ」

だって本当だもの。嘘なんてひとつもない、これだけはずぅっと変わらないでいる自信がある。八戒へ対する想いも。それだけ惚れ込んでいるのだから。

「なまえ、僕も同じです。貴方がいてくれれば、何処だって、何だっていい」
「ありがとう。両思いね、私達」
「そうですね、ずいぶん前からずっと両思いですよ」

クスクスと笑う八戒が愛おしくて、可愛くて、抱きつきたくなる衝動を押さえ込んで口角を上げるだけに留めた。ああ本当に…今日はひどく幸せで、甘い日だと思う。それこそ悟浄がこの場にいたら、胸焼けを起こしそうだと眉を顰める程には。
そうだ、夕食の買い出しついでにお菓子の材料も買って、彼と一緒に作るのもいいかもしれない。そして出来立てのお菓子でお茶をするというのも、なかなかに魅力的なことでしょう?

「八戒、気が変わったわ。出かけましょ」
「ええ?」
「お菓子を作りたくなったの、買い出しにつき合って」
「おや、珍しいですね。僕もご相伴にあずかっても?」
「いいわよ。手伝ってくれるのを対価に」
「あははっええ、もちろん買い出しからお菓子作りまでお手伝いしますよ」

読みかけの本はそのままに、私達は出かける準備をする為に立ち上がった。
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