微睡み

野宿生活が続くと、皆さんのテンションがダダ下がりになる。それは僕も例外ではないし、普段はにこにことしていることが多いなまえも仏頂面と言いますか…表情が消えてしまうんですよね。スッと。
でもそれを僕達に見せてくれるのは、決して悪いことではない。それだけ気を許してくれている、ということなのだろうから。

 side:八戒

全員の機嫌が最高に悪い日が続いて、今日で5日目。ようやく大きな街に辿り着くことができました。襲撃もそこそこに多く、疲弊しているのは明らか。走り続けていたことでジープもかなり参っているようだ。
三蔵もそれをわかっているのか、それとも自分の疲れを癒したかったのかはわかりませんが―――恐らくは後者でしょう―――3日程、この街に滞在することが決まりました。
時間は有限ですし、急ぐ旅であるのは十分にわかっているつもりです。ですがそれで倒れてしまったり、最悪な場合、死んでしまったりしたら元も子もないですからね。休息はしっかりとっていかねばいけないわけです。

「ッあ〜〜〜〜…!屋根がある場所で寝るの久々だぁ!!」
「個室じゃねぇのが残念だけどな」
「仕方ありませんよ。大きな街ではありますが、宿屋が少ないらしいんですもの」
「そうなんだけどよ…俺ァあの生臭坊主がさも当然のようにベッドを占領してんのが解せねぇんだけど?」

あはは…そうなんです。宿を確保できたのはいいんですが、この街に宿屋は3件程しかないらしくて。しかも今は旅人が多い時期でもあるらしいので、空いている部屋が此処しかなかったんです。
普通の個室よりは少し広めなので、布団を4組借りて床に敷くことになりました。ひとまず。もし、部屋が空けば移動させてもらえるそうなので。
まぁ、野宿でないだけで有難いですよね。雨風を防げる屋根と壁がありますし、床に敷くことになったとはいえふかふかの布団もありますから。十分だと思います。久しぶりにしっかりとした食事にもありつけますしね。

「というか、ベッドが1つしかない時に三蔵様以外がベッドで寝たことなんてないじゃないですか」
「まぁ、今更ってやつですよねぇ」
「…布団で寝れるだけマシか。野宿じゃねーもんな」
「今日はたらふく食って、風呂入ってゆっくり寝る!」
「そうですね。夕食まで時間もありますし、先にお風呂行きますか」





お風呂にのんびり入って、夕食を食べて、売店で買ったお酒を飲んで、気がつけばそのまま寝てしまっていたらしい。
先に布団を敷いておいて正解だったかもしれないな。三蔵はしっかりベッドに潜り込んでいるでしょうが、悟浄や悟空はそのまま床で転がっていてもおかしくはないから。
体を起こして周りを確認しようとしたら、すぐ近くに誰かの気配があることにようやく気がついた。

「…え、なまえ…?」

僕のすぐ隣ですやすやと寝息をたてているのは、間違いなくなまえだった。寝起きなのもあるし、隣で彼女が寝ていることに驚きすぎて上手く思考が働かない。
え、何がどうしてこうなっているんでしょうか?寝る前の記憶も朧げすぎて、全くわからない。お酒を飲んでいい気分になったことまでは、薄ら覚えているんですが…ダメだ、どれだけ頑張って思い出そうとしても全く思い出すことができない。
普段ならあのくらいのアルコールで酔うことも、記憶をなくすこともしないんですが、やはり野宿生活が続いて疲労が溜まっていたんですかね。

「んん、…はっかいくん……?」
「あ、すみません。起こしちゃいましたか?」
「だいじょぶ…眠れませんか…?」

見上げてくる瞳は眠たそうにトロン、としている。恐らくはまだ半分夢の中なんでしょう。すぐにでもまた眠りに落ちてしまいそうなくらいに。そっと頬を撫でれば、気持ち良さそうに目を細めて笑う。
ああ、起きている時よりふわふわしていて可愛さが増している気がしますね。

「眠れないわけじゃないですよ、目が覚めてしまっただけです」
「一緒に、寝ましょ…?朝までまだ時間、ありますから…」

僕の手を引く力は決して強いわけではない。それでも抗う気は不思議と起きなくて、大人しくそのまま横になれば彼女はまた嬉しそうに笑ってくれて僕も自然と笑みが漏れる。
なまえの頭を撫でてゆるりと抱きしめれば、すぐに安らかな寝息が聞こえ始めた。ああ、やっぱり眠気が限界だったんですねこの子。
朝起きたら、ビックリしたりするんですかねぇ…その光景を思い浮かべると笑ってしまいそうです。きっとその顔も可愛いと、僕は思ってしまうんでしょう。
ゆるゆると意識が微睡んでいく中、そんなことを思っていた
-154-
prevbacknext