それでも好きなんだもん
好きな人がいます。とても、とても好きな人がいます。
でもその人と、結ばれることはありません。
何故なら―――その人には別に、好きな人がいるからです。
「黒鋼、先生…」
誰もいない教室で、私は1人窓際の自分の席に座って窓の外を見ていた。私の教室はグラウンドに面していて、部活動をしている様子がよく見えるのです。
…そう。私は毎日、此処から先生の姿を見てるの。
体育教師で、運動関係の部活の総顧問。黒鋼先生。
得意なのは剣道らしいんだけど、最近は陸上部の大会が近いらしくてそっちのコーチをしてるって聞いた。部員に真剣な表情で指導している姿は、とてもかっこ良くて、生き生きしてる。その姿を見ているだけで幸せになれるんだけど…見れば見るほど、この気持ちは膨らんでいって。
胸の奥がギュッと痛くなって、どうしようもなく切なくなるの。叶わないって、わかってるから尚更。
「…どうして、私は生徒なのかなぁ」
黒鋼先生にはとても可愛くて、素敵な幼なじみがいる。
よく廊下で話しているのを見かけるし、誰が見ても美男美女のお似合いカップルだと思う。
その人も生徒ではあるけど、"彼の幼なじみ"っていう最強のスペックを持っているから。それがただ、羨ましい。
何度、早く大人になれたらと願っただろう。
何度、先生の笑顔を一人占め出来たらと願っただろう。
何度―――生徒じゃなかったらと…願っただろう。
どんなに願っても現実は変わらないし、この歳の差じゃ…私が生徒で、彼が先生でなかったら出会うことすら出来なかったと思う。だから…全てを否定したいわけじゃない。むしろ、否定してはいけないんだ。
「…はぁ…」
「なに溜息なんかついてんだ」
「?!」
突然聞こえた声にビックリして振り向いてみれば、扉に寄り掛かっている黒鋼先生が立っていた。
「え?え?な、何で黒鋼先生が…部活は、どうしたんですか?」
「部活ならとっくに終わった。もう下校時刻だぞ」
えっ?下校時刻?教室の壁に掛けられている時計を見てみれば、確かに6時を回っていて。完全下校時刻まで30分をきっていた。さっきまでたくさんの人がいたグラウンドは空っぽで、陽も沈んで暗くなってる。
考え事をしててボーっとしてたんだ…部活が終わったことにも気付かなかったなんて。きっと黒鋼先生に声を掛けられなかったら、ずっとこのままだったかも。
この時間じゃ、校内にも生徒はほとんど残っていないだろう。私も早く帰らなくちゃ。横に掛けてあるカバンを持って、私は席を立った。先生に会えたこと、声を掛けられたことは嬉しかったけど…今、2人でいるのは気まずい。
余計なことばかり考えちゃって、変なことを口走ってしまいそうだから。だから、そうなってしまう前に早く此処を出よう。
「もう帰るのか?」
「帰ります。もう暗いし、完全下校時刻まで時間ないし…」
「……急ぎか?」
「へ?…いや、急ぎではないですけど…」
「なら、少し待ってろ。家まで送ってやるよ」
「?!い、いいです!いいです!1人で帰れますからっ」
てか、送ってもらう理由がないし!!!そんなことしてもらっちゃったら、私の心臓は確実に破裂してしまいます!!!
「お前の家、結構遠いだろ。この時間じゃ暗ぇし、人通りも少ないから危ねぇぞ」
「…私なんかより、幼なじみのあの子を送ってってあげればいいじゃないですか」
「幼なじみ?…あぁ、アイツのことか」
「それに!そういうことは好きな人にしてあげるものです」
「あ?だから、今そうしてんじゃねぇか」
…………へ?今、私とんでもないことを聞いた気がするんだけど。
えと…聞き間違い?夢?私の願望が見せた幻?それとも妄想ですか?だって、だって…そんな都合の良いこと、起きるはずがない。
「せんせ、何言って……」
「あー…まだ言うつもりなかったんだが、仕方ねぇか…」
「え…?」
「俺は―――なまえが好きなんだよ。生徒だからじゃなく、1人の女としてな」
「う…嘘……!」
「こんな恥ずかしい嘘、誰がつくかっ!本当は、お前が卒業するまで黙ってるつもりだったんだが…あと半年もねぇし、別に構わねぇよな」
そう言ってニヤリと笑う先生は、誰にも負けないほどに…かっこ良かった。
ずっと、ずっと恋焦がれていました。ただ見つめることが出来れば、満足でした。一言でも、言葉を交わすことが出来れば嬉しかったんです。
だけど…こうなることを、望んでいなかったわけではありません。心のどこかで、こうなってほしいと思っていたんです。
先生相手だろうが、歳の差があろうが…関係ない。それでも好きになってしまったんだから。
(…で?お前の返事は?)
(わ、私も…先生のことが好き、です……!)
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