キミに贈る

昨日、降り立った新しい国。とても栄えていて、争いとか…悲しいことが何も起きていない所。この国に住んでいる人は、皆口を揃えて「とても良い国だ」と言っているくらい。そして、宝石が有名なんだって。


「暖かくて、良い所だねー」
「はい。皆さん、とても素敵な笑顔です」
「この国には羽根の気配はないみたい」
「じゃあ、さっさと移動するか」
「んー…本来ならそうするべきなんだろうけどさ、たまにはのーんびり過ごすのもいいんじゃない?」
「モコナ、だいさーんせーい!」
「オレもさんせーい!小狼くん達は?」
「え、あの…」
「せっかくだし、のんびりしよう?小狼くん」


姫さんの問い掛けに柔らかく笑って、頷いた小狼くん。キミは今日まで誰よりも、頑張ってきていたんだから…少しくらい休んでも誰も怒らないよ。むしろ、休まない方が僕は怒るからね。もちろん姫さんも。
早く羽根を集めたいのはわかるけど…だからって、根を詰めて倒れてしまったら大変だもの。幸い、この国は平和みたいだしね。気兼ねなくゆっくり出来るでしょ!


「小狼くん、あっちにたくさんお店があるみたい!」
「賑やかですね…行ってみますか?サクラ姫」
「いいの?!」
「はい。俺で良ければ、お付き合いします」
「やった!じゃあ、行こうっ」
「2人共、気をつけてねー」
「オレもぶらぶらしてこようかなぁ。モコナ、一緒に行くー?」
「行くー!なまえ、黒鋼、またあとでねー!!」
「うん、あとでね」


姫さん、すっごく嬉しそうだったなぁ。小狼くんと一緒に、この国を回れるからでしょう。確実に。今までに行った国は、何気に色々とあったし、ゆっくり出来ることも少なかった。だから尚更、一緒に過ごせることが嬉しいんだと思う。
ファイくんとモコも行っちゃったし、僕も何処か行ってみようかな。…そういえば、黒鋼くんはどうするんだろう?
チラリ、と隣に立つ彼を見上げてみれば眠そうに欠伸をしていた。天気も良くて、気候もちょうど良いもんね。眠くなるのもよくわかるかも。彼のことだから、宿に戻ってお昼寝とかかな?


「お前はこれからどうすんだ?」
「んー…テキトーに歩いてみようかなぁって。色んなお店があって楽しそうだし」
「……じゃあ、一緒に回るか?」
「!い…いいの?」
「することねぇし、付き合ってやるよ。お前を1人にすると迷子になってそうだしなぁ?」
「な?!ひっどーいっ!!!」


ひょんなことから、黒鋼くんと一緒に回ることになりました。平静を装ってるけど、実はかなり嬉しかったりします。だって、大好きな人だし。
そんな人と2人きりで街を歩くことが出来るなんて、普通思わないじゃない?だから結構、ウキウキしてるのです。珍しく。


「で?何か見たいもんとかあるのか?」
「特に欲しいものがあるとかではないけど、こうもたくさんお店があるとさ?色々見て回りたくなるじゃない」
「…そういうもんか?」
「人それぞれだとは思うけどねー」
「ま、時間は有り余るくらいある。いくらでも付き合ってやるよ」
「ありがとー!とりあえず、お昼ご飯食べようよ!お腹空いたでしょ?」
「そうだな、そうするか」


…今くらい、少し大胆になってもいいよね?「よし!」と意気込んで、黒鋼くんの手を握って走り出す。
突然のことで彼はビックリしたみたいだけど、すぐに意地悪く笑って、僕を追い越していく。その姿が少し楽しそうに見えて、僕も楽しくなるんだ。
あぁ、やっぱり黒鋼くんの隣は心地良い。本当に楽しくて、嬉しくて、自然と笑顔になれる。改めて、僕は彼が好きなんだなって思う。
いつか―――いつか、この想いを口に出来たらいいのに。
言葉は鎖。時には人を縛り付けるものだから、安易に口には出せないんだ。僕の告白が…彼を縛り付けてしまうものなら尚更のこと。だから、だからね?せめて隣にいることだけは許してね…。


「黒、鋼くん…?」
「んな顔してんな。大丈夫だから」


―――――優しい。
いつもそうだ…キミは僕が欲しい言葉をくれる。そして優しく頭を撫でてくれて、僕の不安を取り除いてくれるんだよね。嬉しい反面、心配をかけてるんだってわかって…申し訳ない気持ちになるのも事実だけど。


「…ちょっと座って待ってろ」
「へっ?黒鋼くん…っ!」


行っちゃった…しかも走って。一体、どうしちゃったんだろうなぁ。急に。ま、突っ立ってても仕方ないしね。言われた通りに座って待ってましょうか。
キョロキョロと辺りを見渡せば、木陰に設置されているベンチが目に入った。うん。あそこで待ってよう。あんまり遠くに行っちゃうと、黒鋼くんが見失っちゃうかもしれないし。ストン、とベンチに腰を下ろす。サワサワと微かに吹く風が気持ちよくて、そっと目を閉じてみた。


「眠ィのか?」
「っひゃ?!」
「くくっ変な声」
「キミが驚かすからでしょーっ?!」


いつの間にか戻って来た黒鋼くんは、買ってきてくれた冷たい飲み物を…僕の頬にピトッとくっつけてくれました。
ええ、そりゃあもう驚きますよ!だって冷たかったんだよ?!それをいきなり頬にくっつけられたら、誰でもビックリするでしょうよ。
それなのに、いまだに笑いを堪えてる黒鋼くん。もういっそのこと、思いっきり笑ってくれないかなぁ。


「…とりあえず、ありがと。ご飯も買ってきてくれたの?」
「おう。この国じゃあ、歩きながら食うのが普通らしいな」
「そうなの?……あ、本当だ。皆食べながら歩いてる」
「色々と店見て回りたいんだろ?行くぞ」


飲み物とサンドイッチを渡されて、彼はさっさと先を歩いて行ってしまった。勝手に行動する時は、絶対に待ってくれないんだよね。この人。…でも歩くスピードは、いつもより遅くなってることに本人は気付いているのでしょうか?ふふっ何か無意識のような気もするんだよねぇ?
横に並んで、買ってきてもらったサンドイッチをパクリと一口。ん、美味しい。


「美味いか?」
「うん!…あ、そうだお金…」
「あー…別にいい。そのくらい奢ってやるよ」
「ふふっありがと!」


サンドイッチを頬張りながら歩いていると、綺麗な石がたくさん並んだお店を発見。吸い寄せられるようにウインドウを覗いてみると、指輪とかイヤリングとか…可愛いアクセサリーも並んでて。
光が反射して、キラキラ光ってる…どの石もすっごく綺麗。僕が夢中になって見ていると、突然腕を引っ張られた。


「ど、どうしたの?黒鋼くん…」
「気になんだろ?入るぞ」


いや、あの、確かに気にはなってるんだけど!別に買う気があるわけでもないんですけれど?!中に入っちゃうと、何も買わないで出て行くのが気まずいんだよぅ…。
そんな僕の気持ちを知らずに(言ってないんだし、知らなくて当然ですが)、黒鋼くんはドアを開けて中に入っていく。
…だけど、中に入ってしまえばそんな考えはどこへやら。
ウインドウに飾られてたのも綺麗で、可愛かったけど…中に飾られてるのも、すっごく素敵!
わぁ…こんなに素敵なものがたくさんあると、1つくらい買いたくなっちゃうなぁ。蝶のイヤリングはしてるけど、ブレスレットかネックレスが1つ欲しいなって思ってはいたんだ。指輪でもいいけどー…何となく、抵抗があったりする。
どうしてかわからないけど、恋人がいる人がつけるイメージがあるんです。僕の中では。

何か良いのはないか、とウロウロしていれば。ピンク色の可愛い石がついたネックレスが目に留まった。すっごく可愛くて、僕はどうやらそのネックレスに一目惚れをしたようです。可愛いし、欲しいけど…やっぱり値段は高めだなぁ。


「(今回は見送ろうかな…必要なもの、ってわけでもないし)」
「買わないのか?気に入ったんだろ、それ」
「んー…可愛いなとは思うんだけど、ちょっと値段が…」


だから今回はいいや、と告げて僕は店の外へと出ることにした。入る時は何も買わないで出るのは…なーんて思ってたけど、出てしまえば案外そうでもなかったりするんだね。少し心苦しいから、あんまりしたくないけど。

さて、この後は黒鋼くんの見たいものを見て回ろうか。
そう思って振り向いてみたら、そこに彼の姿はありませんでした。
……え?いない?何で?!さっきまで一緒だったのに、何で急に忽然と姿を消してるの?!!僕が置いてきちゃったの?それとも置いてかれたの?!でも今し方出てきたお店は、すぐ後ろにあるし…もう、本当にどういうことですか?!!


「…何、1人で百面相してるんだよ。なまえ」
「っ黒鋼くん?!何処行ってたの!!!」
「何処って、今までいた店にいた。ちょっと用事があってな」
「用事?」
「やるよ」


ズイッと差し出された、小さな袋。開けていいのか?と目で問い掛けてみれば…視線を逸らされた。勝手にしろってことでいいのかな。きっと。
カサカサと開けてみると、中から出てきたのはさっき僕が見ていた、ピンクの石がついた可愛いネックレス。値段が高かったから諦めたのに、買ってきて…くれたの?
思わぬサプライズに胸がじーんと熱くなる。絶対にこういうことをしてくれる人じゃないのに、期待…しちゃうじゃないか。


「ありがと…大切にする。ずっと」
「…おう」
「あれ…さっき見た時は、こんな透明な石ついてなかったけど…」
「店主がつけてくれた。オマケだとよ」
「そうなんだ?これも綺麗な石だね」



ネックレスについていた石は、ピンクジルコンとキンバーライト。
石言葉は―――――苦しみからの救い と 貴方を守る愛

密かに彼女を想う彼からの、密やかなメッセージ。
いつかは届けたいと願う…愛の言葉。
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