意外な一面

『今日は夕方から激しい雨が降り、所により雷も鳴るでしょう』


朝の天気予報でそんなことを言っていた記憶がある。けど、窓から見える空は真っ青で綺麗な青空。それはもう申し分ない程に。
こんなに良い天気なのに、本当に激しい雨なんか降るのかしら?それに雷も鳴るかもしれないなんて、


「それが本当なら憂鬱でしかないわね…」


バスケ部の練習は運良くお休みだし、授業が終わったら図書館に寄り道をせずに真っ直ぐ帰ることにしよう。それでさっさと家に引きこもってしまえばいい。そうすれば外の様子なんて、気にすることはなくなるだろうから。
学校に着くまでの間、私はそんなことを考えていた。だけど、教室に着くまで大事なことを忘れていたのです。今日は、日直だということを。
重大事実に内心、泣きそうになりながらも授業はいつも通り淡々と進み、気が付いたらお昼休み。空は相も変わらず綺麗な青を映し出していて、予報士のお姉さんが言っていた雨は一向に降る様子がない。
このまま降らないでくれればいいのに、と思わずにはいられない。


「みょうじ?さっきからずっと空見てどうしたんだよ」
「え?あ、…」
「何か気になるものでもあったんですか?」
「あ、ううん。今日は綺麗な青空だなー、と思って」


苦し紛れにそう言ってみれば、単純な火神くんはすぐ納得してくれたんだけど…テツは以外にも聡くて不思議そうな顔をして私の顔をじっと見ていた。その視線から逃れるようにお弁当へと向き直れば、そのうち聞くのを諦めたみたいだけれど。
…別に、隠すようなことを考えていたわけじゃないんだけど…どうしても、恥ずかしいというか何というか…言いたくないな、と思ってしまうのはある意味プライドってやつなのかしらね。きっと素直に告げてしまえば何でもないことなんだろうし、テツなんかバカですねって苦笑するんだろうなぁ。

午後の授業も滞りなく進んでいく。授業が進むスピードに倣ったのかどうかはわからないけれど、あんなに綺麗に晴れ渡っていた空には次第に雲が広がっていって。あっという間に今にも雨が降りそう、という感じの空へと変わっていった。
そしてHRが始まる頃にはザーッと大きな雨粒が地面に叩き付けられている音が響き始めていたのです。…すごい、天気予報は大当たりね。降らないかもしれない、と思って折り畳み傘にしてしまっていたんだけど、これは大失敗だったみたい。こんなことなら大きな傘を持ってくれば良かったわ…。


「すごい雨ですね…」
「本当。そのせいか皆、あっという間に帰ってしまったわね」


いつもならあれだけ賑やかな放課後の教室も、今日はしーんと静まり返っている。口内に残っている生徒も少ないようで、時折、廊下を走る音や話し声が聞こえてくるだけだ。
雨の音だけが響く教室内で、私はテツと一緒に日誌を書いている。あとはこれさえ提出すれば帰ることが許されるんだし、さっさと書いてしまいましょう。まだ雷は鳴っていないし、早く終わらせられれば鳴り始める前に家に帰れるかもしれないもの。
逸る気持ちを表に出さないように気を付けて、でもなるべく早く書き終えて、さあ職員室へ提出を、と立ち上がった時だった。大きな音をたてて何かが光ったのは。


「っ、」
「ああ、雷まで鳴り始めてしまったんですね…なまえ、早く提出して―――…なまえ?」


ダメだ。一度鳴り始めた雷は、立て続けにゴロゴロと音をたてて空には稲光が。それはしばらく鳴り止む様子がない。
たかが雷、と言われるかもしれない。けど、私は幼い頃から雷が大嫌いで、ひどいと歩くことも出来ずに蹲ってしまうこともしばしば。天気が良くない日はなるべく家に引きこもって、布団に包まっていたから人に見られたり、迷惑をかけることもなかったんだけど…今日は生憎、家の中ではなく学校だ。しかもテツが一緒にいる。
迷惑をかけてしまうのが、目に見えている。


「…もしかして、雷がダメなんですか?」


耳を押さえて蹲ってしまった私に優しく声をかけてきた彼は、私が頷くのを見届けるとそっと立ち上がらせて教卓の後ろへと引っ張っていった。何が何だかわからないままそこへ座らされ、テツも同じように隣へと腰を下ろした。
どういうことか聞こうと思った瞬間に、また大きな音と共に空が青白い光に包まれる。うう、今の音は絶対にどこかに落ちてしまった音でしょう…!有り得ないくらいに大きな音だったもの!ああもう、目尻に涙まで滲んできちゃった。


「大丈夫ですよ、雷が鳴り止むまで一緒にいますから」


これ、一緒に聞いて待ちましょう。落ち着きますよ。
そっと肩を抱き寄せられ、イヤホンの片方を渡されたので大人しく耳にはめ込む。そこから流れてきたのはとても綺麗なピアノの音。…あ、これは確かに落ち着くかもしれない。元々、こういうクラシック音楽が好きなのもあるけれど。
片耳から流れ込んでくる音楽に。優しく触れてくれる掌に。徐々に気持ちが落ち着いていくのを感じていた。怖いものがあると知られたくないと思っていた反面、こうして怖がる私の傍にいてくれるのも悪くないかもしれない…そう思う自分もいて、そっと口元に笑みを浮かべた。
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