バイトとお客さん
コンビニでバイトを始めて、もうすぐ2年になる。仕事もそこそここなせるようになったし、顔見知りのお客さんも増えてたまに声をかけてもらえるようにもなった。これが意外と嬉しいんだよねぇ…名前覚えてもらえるのもそうだけど。
しみじみと思いながら新商品の品出しをしていると、それを後ろからひょいっと持って行った人がいる。普通ならお客さんなんだから、すぐさまにいらっしゃいませーって言わなくちゃいけない所だけど、…相手が彼だとわかっていると何故か軽い口調になっちゃうのよね。店長にバレたら怒られること間違いなしだけど。
「あ、やっぱり貴方だったんですね。こんばんは」
「ドーモ。ま、毎週来てりゃ顔も覚えられるかな」
「決まって新商品のお菓子を買っていかれますからね。…お一人ですか?」
「ん?…ああ、アイツのこと?うん、今日は爆睡してる」
毎週、決まった曜日の決まった時間に必ずやって来る男性2人組。そして必ず新商品のお菓子と、煙草―――確かセブンスターだったかな?それを買っていくんだよね。
新商品は絶対に美味しくないでしょ!ってバイトの私でも思うものまで、買い逃すことはしないんだよ。この眼鏡の人。今日はいいないけど、一緒に来ている人に「げっ!くぼちゃんそれ買うのか?!」って言われてる。
("くぼちゃん"って呼ばれてたよね、この人)
お客さんは自己紹介なんてしないから、顔見知りになっても基本的には名前は知らないままだ。この人みたいに名前を連呼されていれば、自然とインプットされちゃうとは思うけど。…それを覚えるかどうかは、本人のさじ加減次第ってやつだろう。私は覚えてしまったクチ。一緒に来る人の名前は、残念ながらあまり聞いたことがないからわかんないんだけどね。
このお客さんとさっきみたいに話すようになったのは、今日みたいに人がまばらだった時のこと。レジに置かれた新商品のお菓子があまりにもアレな代物で、思わず「食べるんですか?これ」って言ってしまったのがきっかけ。
今思えば、お客さんに向かって大分失礼なことを言っているなぁって思うんだけど…その時は本当にそう思ってて、品出しの時からこんなの買う人がいるのだろうか、って思ってたから口に出しちゃったんだろうなぁ。でもお客さんは怒る素振りもなく、普通に「食べるよ?」って首を傾げたんだ。
一緒にいた人は私の言葉に同意したらしく、「やっぱコイツの味覚おかしいよな?!」って前のめりになってたのを覚えてる。さすがにそれに同意することはできなかったけど。
「お姉さん、会計お願いしてもいい?」
「あっはい!…セブンスターは?買ってきます?」
「ん〜…そうだね、2つちょーだい」
「お2つですね、了解しました」
今日入ったばかりのお菓子と、煙草2つと、カロリーメイト(チーズ味)。それと…珍しいなぁと思ったのは、パックのカフェオレと最近人気なチョコを1つずつ。
連れの人がいる時はバリエーション豊かだけど、1人で来ている時は大体、新商品のお菓子と煙草くらいしか買わないのに。もしかしたら、頼まれたのかもしれないけどさ。
お釣りを渡して、商品を入れた袋を渡そうとしたら―――何故か、袋をもう1枚ちょうだい、って言われちゃった。疑問に思いながらもカウンター下から取り出した袋を渡す。すると、さっき買ったカフェオレとチョコを別の袋に入れ替えて、それをズイッと私の目の前に差し出したんです。
………え?なんで?
「あの…?」
「頑張ってるお姉さんにプレゼント、ってとこ」
「いやいやいや…!もらえませんって!!」
「もらってもらえないのは、悲しいんだけど?」
「う、……」
何か捨てられた子犬みたいに見えちゃって、それ以上拒否の言葉を紡ぐことはできず…受け取ってしまったぜ。カフェオレとチョコ。
実はどっちも好きな銘柄のものだから、内心、めっちゃ嬉しいんだけどね!!
「ありがとうございます…」
「いーえ。じゃあまた来週、かな」
「あ、はい。いつもありがとうございます」
ヒラヒラと手を振って出て行った彼。しばらく放心状態の私の手の中には、さっきもらったカフェオレとチョコが入った袋。どんな意図があって、これを買って、私に渡していったのかはどんなに考えてもわからないけど…でも、ときめいちゃったのは、真実だったりする。何だよあれ…スマートにやってのけちゃってまぁ。
「さーて、お仕事お仕事!」
バイト終わりに飲んだカフェオレも、家に帰ってから食べたチョコも、いつもより甘い気がした。
「久保ちゃん、なんか楽しそーだな?」
「ん?そう?」
「おう。新商品の菓子、当たりだったのか?―――うわっマズ!!!」
「あれ、意外とイケると思うんだけどなぁ」
「イケねーよ!味覚バカ!!」
これをあのコンビニのお姉さんに食わせたらどんな顔するんだろ、…なーんて。どうかしてるかもね、俺。
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