可愛いあの子は、
とある町。夕方近くに辿り着いた僕達は、ひとまず宿を探すことにしました。何とか大部屋が1つ空いている宿を見つけ、これで野宿せずに済む―――と、安堵していたんですが…宿の御主人が三蔵に気がついてしまったんですよね。偉いお坊様だ、って。
そこからは本当にトントン拍子に話が進んでいって、今僕達は、町長さんのご好意でパーティーに参加させて頂いてます。…何故か。
side:八戒
今日はたまたま町をあげてのパーティーが予定されていて、そこにちょうど良く僕達はやってきてしまったらしいということです。それだけならば別に何も問題はなかったんだと思うんですが、如何せん、三蔵が最高僧だと知れ渡ってしまったので…パーティーの席でお経を読んでほしい、と言われてしまったんですよ。
場の空気に合わないような気はしたんですけど、それと引き換えに宿代をタダにしてもらってしまったので…ついでに個室まで用意してもらっちゃったんです。ほら、断りようがないでしょう?
「パーティー自体はいいんですけど…」
「ん?」
「あとで三蔵様の雷が落ちそうです」
「あはは。その前に部屋に戻ってしまえばいいんですよ、個室なんですから」
「まぁ、そうなんですけど」
三蔵がお経を読んでいる最中、僕達4人は少し離れた所で聞き慣れた声を聞いていた。相変わらず、三蔵の読むお経はすごいなぁと思うんです。初めて聞いた時だって、全ての迷いを打ち消すかのような声で驚いた記憶がある。今もその印象は変わらない。
いくら暴言を吐こうが、やっていることが生臭坊主だろうが、あの人には人を惹きつける力があるんでしょうねぇ…カリスマ、ってやつですか。
「さて、三蔵のお経も終わったみたいですから料理を取りに行きましょうか」
「やった!俺、もう腹ペコだよ〜」
「てめーはいつだって腹空かせてるだろうが」
「ほら、喧嘩しないでくださいね?2人共」
料理に向かって一目散に走っていく悟空。真っ先に喫煙所へ行った悟浄。
ぽつんと残された僕となまえは、彼ららしい行動だなぁ、と苦笑を零した。だってあの人達、何処に行ったって自分のペースを崩さないんですから…笑うしかないでしょう?…まぁそれも個性の1つなんでしょうけど。ひとしきり笑って、僕達も食事と飲み物を取りに行くことにしました。
町をあげて、と言っていたから、フォーマルな格好ではないと勝手に思っていたんですが、違いました。普段着ではさすがに、と苦笑されてしまい、三蔵を除く僕達4人は町長さんに着替えを借りることに。
そして借りたスーツに袖を通し、今に至るわけなのですが―――チラリ、と隣を歩くなまえに視線を落とす。薄いピンクのドレスに白いストールを羽織っている彼女は、見た瞬間にドキッとしてしまったんです。絶対に内緒ですけど。
(こんな旅をしていますから、スカートをはくことなんてなかったんですが…)
とても、似合っている。滅多に結われることのない髪も、今日は緩く巻かれてバレッタで上げられていました。化粧もほんのりですがしているみたいですね。
全て町長さんの奥さんがしてくれたらしくて、とちょっとだけ顔が青褪めていましたっけ。多分、申し訳ないって思ったんだろうなぁ。真面目な彼女のことだから。
「ここのお料理、どれも美味しいです…!」
「どれが美味しかったですか?」
「私の好みで言えば、このサラダですかね…あとお肉」
「本当?じゃあ僕もあとで取ってこようかな」
「あ、よろしければ―――どうぞ?」
はい、と口元に差し出されたフォーク。僕は思わず、動きを止めました。
「えっと、…」
「食べないんです、か………あああっす、すみません!私ってば……!!」
ズザーッと思いっきり後退りしかけた彼女の手を掴んで、迷いに迷っていた差し出されていたフォークを口に含んだ。僅かばかりの羞恥心はあるけれど、でも僕達の行為はきっとパーティーの喧騒に紛れてしまってわからないでしょうから。
「は、…はははは八戒くん?!」
「どもり過ぎですよ、なまえ。…ん、美味しいですね」
「あ、え、はい、美味しいですよね…」
諦めたかのように笑っているけれど、頬も、耳も真っ赤になっていて、くつりと自然と笑みが零れる。最初に(無意識に)やってきたのは自分なのに、こんなにも照れちゃうんですねぇ。そういう所も好きなんです、と言葉にしたらもっと真っ赤になっちゃうんでしょうか。
試してみたい所だけれど…それをやったら最後、しばらく口をきいてくれなくなってしまう気がするから却下かな?ああもう、…本当にこの子は可愛くて仕方がない。
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