幸せの爆弾

本来の名はとうの昔に捨てていた。ダンヒーリー殿の厚意でずっとウェラーを名乗らせてもらっていたし…だから、結婚したと言っても特に変わるものなんてないと、そう思っていたのだけれど。





「目が覚めたらコンがいるというのは…存外、慣れないものだな」


普段の起床時間より大分早いのだろう。部屋の中はまだ薄暗く、コンもまだぐっすり夢の中。腰に回っていた手をそっと外して起き上がってみるものの、城内もまだ静かだな…もしかしてまだ夜更け前なのか?
時間を知りたくてカーテンを開けてみれば、陽が昇る一歩手前だったようで遠くの空は薄らと明るくなり始めていた。ああ、本当に夜更け前だったわ…何でこんなに早く目が覚めてしまったのだろう?昨夜だってそんなに早く休んだわけでもないというのに。大体、毎日同じ時間に目覚めるようにサイクルが出来上がっているからこういうことは少ないのだけれどね。

カーテンを閉めてからベッドへと腰掛けた。その時にギシリ、と音を立てたけれど、コンは微かに身じろいだだけでまた寝息を立て始める。良かった、起こしてしまったらどうしようかと思ったよ。この人は人の気配に敏感で眠りが浅いから、ぐっすり眠れているのならまだゆっくりしていてほしいもの。
そっと髪に触れてみれば、ダークブラウンのソレはとてもサラサラだ。何も特別なことはしていない、と言っていたけれど、男の髪にしてはとても綺麗だと思う。

(変わったことといえば、毎朝、隣にコンの姿があるということだろうか)

もちろん、結婚する前にそれはわかっていたし、幸せなことだろうなって思ってもいた。どちらかといえば、私がコンに求婚したのは『同じ部屋で暮らせる』という利点があったから。それだけ?と思われるかもしれないけど、私からすればしっかりとした理由なんだ。
血盟城で暮らしていれば顔を合わせることなんて容易いけれど、…でもやっぱり、会わない日だって存在していたから。けれど、同じ部屋で暮らしていれば何かしら痕跡が残っているから、彼が長期の任務に就いたとしても寂しく感じないだろう?
うん、でも…いざ一緒に暮らしてみると、思っていた以上に恥ずかしいものなんだなぁ。特に起きてすぐコンの顔が目に映るというのは、幸せだけれど恥ずかしかったりする。


「なまえ…?」
「すまない、起こしてしまったか?」
「いや、大丈夫だ。どうした?まだ起きるには早いだろう」
「何もない。自然と目が覚めてしまっただけだ」
「そうか…だったらもう少し眠ろう。おいで」


…寝起きのコイツは、まだ少し夢見心地で、でも私の顔を見ると嬉しそうに笑うから…心臓が痛くなる。


「毎度思うが、その言い方は非常にズルイ」
「はは、ズルくないよ。それに…これはルナの特権だと思うけど?」

―――ぎゅう、

「私以外にこうしていたら、さすがに傷つく」
「そうだね。…大丈夫、そんなことしないよ。この命尽きるまで、ずっとね」


相変わらずキザだなぁ、コンは。だけど、それも様になってしまうのだからすごいと思う。
目を覚ました頃よりもずっと強い力で抱きしめられ、でもどこか安心して徐々に瞼が重くなってきた。二度寝はできそうにない、と思っていたのに…人の体温というのはすごいんだなぁ。それとも相手がコンだからだろうか。うとうとし始めた頭ではもう、しっかりとしたことを考えるのは難しいらしい…次第にいいか、どちらでもという結論に達したくらいだ。
すり、とコンの胸に擦り寄れば、頭上でフッと笑みを零したような気がして、何でかわからないけれど私まで笑顔が零れた。胸の奥が温かいような、でもきゅうっと締め付けられるような…この甘い痛みがきっと幸せ、という感情なのかもしれないなぁ。こんな感情、彼に愛されるようになるまであまり実感がなかった。確かに感じていたことのはずなのに。


「愛しているよ、なまえ」
「ん、…うん、私も愛してる…コンラート…」


そして私の意識は、そこでプツンと途切れた。
だから知らなかったんだ、眠りに落ちた私の横でコンが真っ赤な顔をしていたことを。


「本当…爆弾を簡単に落としていくよな。君は」
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