My fair lady!

神様。私は何か悪いことをしたんでしょうか…別にね、いいことだけをしてきた人生だなんて思っていないんですけども。だからといって、この目の前で繰り広げられている修羅場?はいくら何でもひどいと思うんですよ。


「何を言っているんですか、赤井!工藤にはこういうセクシーなドレスの方が似合うに決まっているでしょう!」
「君こそ何を言っているんだ、安室くん。アイツにはもう少し落ち着いたものが似合うに決まっている」


淑女だろう、と秀一は言っているけれど、すみません、多分私淑女には分類されないと思います。年齢的にはそうであるべきなんだろうけど、品位とかそんなものは備わってない。あったら私が一番ビックリだ!!というか、いい歳した男性2人が女性のドレスを手に大声で言い合いとか…ほんとなにしてんのコイツら。

(めちゃくちゃ逃げ出したい…)

はぁ、と溜息を吐き出して頭を抱える。でもそんな私に気がついたのは義姉さんと新くんだけで、気がついてほしい人達はいまだ言い合いの真っ最中です。
もう口を挟むのも面倒だから言わないけど、私の意見はまるっきり無視するつもりなのかな。着るの、私なんですけど。


「なまえちゃん愛されてるわねぇ…」
「この現状を見てそう言える義姉さんがすごいと思う」
「はは…まさか赤井さんがここまで突っ掛かるとは思わなかった」
「ふふっ愛情なんでしょう?あれも」


うん?愛情?…この言い合いが?
一層、ワケがわからなくて首を傾げると楽しそうな笑みを浮かべた義姉さんが、耳打ちで教えてくれた。好きな人に自分じゃない男性が選んだドレスを着てほしくない、ってことじゃないって。多分、最後にハートや音符がついていたと思います。まぁ、一種の嫉妬心だとしても…当の本人をほっぽっておくっていうのはどうかと思っちゃうけどね。…嬉しくないわけでは、もちろんないけど。

秀一の手にあるのは赤色のシンプルなワンピース。赤といってもワインレッドだから、そんなに派手な印象は受けない。むしろ、落ち着いた感じかなぁ。丈も膝がギリギリ隠れるくらいの長さだから、いい感じかも。
そして安室くんの手にあるのは青色のドレスなんだけど…胸元が開いているタイプで、スリットもガッツリ入っているものだった。うん、デザインとしては素敵だと思うんだけどね?何でそれを選んだのかものすっごく問い質したい…!


「工藤!」
「なまえ!」
「ひっ?!」


急に名前を呼ばれたもんだから、どこから出たのって声が飛び出した。新くんが俯いて肩を震わしているけれど、今は無視だ、無視!


「な、なんですか2人共…!」
「貴方は僕とアイツが選んだドレス、どっちを着たいですか?」
「ここはお前に選んでもらうのが一番だろう、となってな」
「ええー…」


ここまできて私に決定権委ねるの?!これさ、どっちを選んでも地獄を見るアレじゃない?嫌だよ、私の選択で居候している工藤邸がめっちゃくちゃにされるの!!義姉さんがいるからそんなことしないとは思ってるけど、可能性がないとは言い切れないじゃん。この人達、頭に血が上ると周りが見えなくなるタイプの人達だし。
ああもう、こんなことなら最初から自分で選ぶべきだった…!なんて、今更後悔しても遅いんだけどねーと遠い目をした。
赤と青…どっちが好きか、と聞かれれば、色としては青が好き。でもどうしたってあんなドレス着たくないし、着こなす自信だってない!安室くんが何故、あれをごり押ししてくるのかがわかんないし!
秀一はさすがというか、私の好みをわかってるんだなぁ…と、素直に感動しています。パーティーに潜入する時は、あんな感じのドレスを選ぶことが多いしね。


「いいですか?今回は潜入ですよ!なら、普段の姿から想像できないものを身に纏うのが一般的でしょう」
「そうは言うがな、安室くん。君が選んだドレスだと悪目立ちしすぎる。それじゃ潜入の意味がなくなってしまうんじゃないか?」
「お、赤井さん正論」
「なまえちゃんのスタイルだったら、どっちもバッチリ似合うだろうけど…今回はお仕事ですものね」
「プライベートでもあんな露出が多いドレス願い下げしたいですよ…!」


ボソッと呟いた言葉は、またもやヒートアップしている2人は届かなかったようだ。いいのか悪いのか…。


「ねーえ、もうそろそろ準備し始めないと間に合わないんじゃない?」
「…もう、大人気ないんだから。あの人達は」


正直な所、このままあの2人を放って仕事に行きたい気分。けれど、そうもいかないし…いい加減、2人の言い合いを止めると致しましょうか。
カップをローテーブルに置いて、秀一と安室くんに見捨てられた(って言うと語弊があるけれど)ドレス達の中から、走る羽目になっても問題がなさそうなドレスとそれに合うストールを引っ張り出した。あと靴…は黒でもイケるかな。アクセサリーはわからないから、着替えてから義姉さんに選んでもらうことにしよう。
無言で選び上げ、それを抱えた私を秀一と安室くんはきょとんとした顔で眺めている。あら、静かになったと思ったら言い合いは終了していたのね。何よ、と声を掛けても良かったんだけど…私これでも怒ってるんです。
敢えて何も言わずに視線だけを向け、背中を向ければ―――案の定、腕を掴まれた。感触的に安室くんかなぁ?秀一じゃなさそう。


「え、ちょ、工藤?」
「…なぁに?安室くん。早く着替えないとメイクする時間ないんだけど」
「いやいやいや!僕か赤井が選んだの、って話してただろ?!」
「されたけど、…潜入捜査するにはちょっとねって思ったから」
「だが、前にこのドレスに似たやつを着ていなかったか?」


そう呟いた秀一の顔は、ちょっとだけしゅんとしていて笑いそうになった。なにあれ可愛い。


「秀一が選んでくれた一式、私の好みなので仕事が終わったら着させてくださいね」
「!…わかった、楽しみにしていよう」
「えっ僕のは全面却下ですか?!貴方のスタイルなら似合うでしょう!」
「……君、私の歳わかってる?」
「32歳ですよね?大丈夫、全然イケ―――ごふっ!」


レディの歳をそう簡単に口にすんなバーカ!
顎に思いっきりアッパーを入れて、私は着替える為にリビングを後にした。



(ねぇ、赤井さん。なまえさんだったら青のドレスでも似合うんじゃない?)
(ん?ああ、安室くんの選んだドレスか?俺も似合わない、とは思っていないさ)
(じゃあ何で?確かに捜査向きのドレスじゃないとは思うけど…)
(不特定多数の目に触れるんだ、なるべく露出は避けたいだろう?…なまえの肌を見るのは俺だけでいい)
(……思っていた以上に、嫉妬深いんだね。赤井さんって)
(ク、男なんてそんなものさ)
((わかんねーでもねぇけどな……うん))
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