貴方の愛に埋もれている
2/14はバレンタインだ。毎年、この時期になると主の婚約者であるエリザベス様が、チョコレートを手にファントムハイヴ家を訪れる。それは今年も変わらずで、主も口では「忙しい」とか言ってるけど、やっぱりどこか嬉しそうなんだよねぇ。何だかんだ言っても主は、婚約者様を大事にしていらっしゃるのだ。
ご本人は大切なものとか、人とか、そういうものは弱みに繋がるから増やしたくないと思っていらっしゃると思うけど…僕からしてみれば、どんどん増やして頂きたい、と思っちゃうんだよね。
「ああなまえ、此処にいたんですか」
「セバス?どうしたんだよ。何かトラブル?」
エリザベス様は夕方にお帰りになったし、主はもう自室に戻っていらっしゃる。ということは、使用人’sが何かしたのか?でも派手な物音は聞こえてないし、時間を考えるとー…個人に仕事を割り振っているとは思えない。だってもうすぐ真夜中だもの。割り振っているとすれば、戸締りと屋敷内の見回りくらいだと思う。
「トラブルは何も。ただ、貴方を捜していただけですよ」
「僕を?」
またもや頭上にクエスチョンマークを掲げることになった。トラブルが起きていないなら、何で僕を捜す必要があるんだ?割り振られた仕事は全部終わらせたし、今日は珍しく明日の仕込みまで終わっている状態だ。もうやることなんてないと思うんだけど…日誌はセバスがいつも書いてるから、僕はノータッチだし。
わけわかんないなぁ、と首を傾げれば、こちらへ来てくださいと手を引かれた。説明なしかよ、と思いつつも大人しくついていく。だってついていけば、理由も自ずとわかりそうな感じだし。それだったら無理に聞き出すよりも、行っちゃった方が早い。
大人しくついていった先は、誰もいない薄暗いキッチンでした。まぁ、彼らがいなければ薄暗いのは当たり前なんだけど。大体使ってるのはセバスと僕だしさ。
…ん?仄かにだけど、甘い香りがする。夕食に作ったデザートの残り香かな?でもチョコレートのお菓子はおやつの時間に出したから、夕食のデザートは三色アイスだったはず。だけど、キッチンに残っている香りはチョコレートに間違いないんだけど。
「セバス、チョコレート作ってたのか?」
「やはり貴方相手では、香りでバレてしまいますか」
「いや、僕じゃなくてもわかるんじゃないかな。チョコレートの香りって、意外と残るから」
「実は貴方に差し上げたいものがあるんです」
「え?なに」
どうぞ、と置かれたのは、様々な形を模ったチョコレート。ハートとか、星とか、更にはショートケーキのような形をしたものまで。
うん、すっげぇなぁと思うけど、…これを僕に、ってこの悪魔は言いやがったか?
「今日はバレンタインですから」
「いや、うん…そうなんだけどさ、何でセバスが僕に?普通は逆だろ?」
僕の方が―――というか、『あたし』があげるべきイベントなんじゃないか、と思うんだけど。そう呟けば、知らないのですか?と首を傾げられた。つーか、質問したのは僕なのに、逆に聞き返されるってどういうことよ。
だけど、セバスの質問の意味とか意図がわからないから何が?と更に聞き返すと、何でもアメリカでは男から女へ贈り物をするのが主流らしい。今日のセバスのようにね。
「へぇ…そうなんだ。初めて知ったよ」
「本来なら花やカードを贈るそうなんですが、貴方はそういうものよりスイーツの方が喜ぶでしょう?」
「…お前が僕のことをどう思ってるのか、よーくわかったわ」
否定できない所が悲しいけどね!だってセバスの言う通りだし?!
まぁ、花は嫌いじゃないさ。庭のバラ達をフィニと一緒に世話するの、結構楽しいし。それに花をもらっても喜べるとは思う、思うけど…チラッとさっきのチョコレートを見れば、やっぱりこっちの方がもらう側としてみれば嬉しいかもな、と思ってしまうのです。セバスの作るスイーツは、本当に美味しいし。
「ほら、口を開けて」
「む、…自分で食えるってば」
「今日くらいは甘やかしたっていいでしょう?」
「普段から2人でいる時は、甘やかされてると思うけどね?僕」
2つ目を強請るように口を開けば、ハート型のチョコレートが押し込まれ、間髪入れずに唇を塞がれた。チョコレートを溶かすように口内を蹂躙する舌に、ゾクゾクと体が震える。
「ん、んんっ…!」
「ああ…甘すぎましたかね」
「…いいよ、たまにはこういうのも」
セバスの首に腕を回せば、瞳が妖しく光る。僅かに宿った情欲の炎に、自然と口角が上がった。こんな場所で何をしているんだ、と思わないわけじゃないけど、今はそんなことどうでもいいくらいに―――溺れていたかった。
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