欲張りな俺は嫌いですか

2/14はバレンタインと俺の誕生日。今までは興味なかったっつーか、どうでも良かったんだけど…アイドリッシュセブンの一員になってからは、アイツらが嬉しそうに祝ってくれるもんだから割と楽しみになってきちゃったんだよな。
そしたら、姐さんからも欲しいとか思うようになっちゃって。ほーんと人間って欲深い生き物だよなぁ。


 side:大和


バレンタインが間近に迫った週末。俺達、アイドリッシュセブンはバレンタインイベントに呼ばれていた。それ自体は大成功だったし、イベント会場に設置してもらっていたプレゼントボックスには大量のプレゼントが入れられていたらしい。今日は事務所で電話番をしている姐さんからもグルチャでたっくさんの段ボールの写真が届いている。ちなみに、それは俺達へのバレンタインのプレゼントらしい。
同じく事務所に残っている万理さんと仕分け&チェック中してるから、帰りに事務所に寄ってくださいだってさ。毎年のことながら、有難いことだよなぁ。こうやってもらえるっつーのは。


「大和さんは誕生日でもあるから、またすごい量なんじゃないんですか?」
「あー、そうみたい。でも俺はテレビでお酒好きとか言ってたから、チョコのプレゼントは減ったかなー」
「去年は癒しグッズが妙に多かったよな」
「そうそう。ラジオか何かでポロッと言ったんだと思う」


甘いものは嫌いじゃない。けど、得意でもない。この時期の雑誌の取材とか、ラジオ番組にゲスト出演とか、バレンタインが話題に上りやすいからさーそこでポロッと言ったことが、割とファンからのプレゼントに反映されてるんだよね。だからタマには王様プリンのグッズとかがよく送られてくるし。
テレビとかラジオとか雑誌の影響力って、思っているよりすごいんだと思う。ファンにとってはそこに映っている俺達の姿が全てだから、尚更。


「今年は私となまえちゃんからチョコレートをご用意してますよ」
「えっマジ?!やった!」
「うわー、どんなのか楽しみだなぁ」


イベントによって上がったテンションのまま、メンバーは楽しそうに会話を続けている。それを耳にしながら、俺はスマホに視線を落としてラビチャのトーク画面を眺めていた。そこに文字を打ち込んでは消して、打ち込んでは消して、を何度も繰り返している状態です。相手?そんなの言わずもがな、姐さんだっての。
はー…なんか俺らしくねぇなぁ。いつもだったら用件をさっさと打ち込んで、送信できてるのに。でも、…今回ばかりはそれをできそうになくって溜息をつきたくなる。明日、少しでも会えない?なんて…まるで催促しているような気もしちまって。
会いたいけど、メンバーが誕生日を祝ってくれることを知っている彼女は、きっとあいつらと過ごしてって遠慮してしまうだろう。かと言って、寮に呼ぶわけにもいかねぇし…何とも悩ましい。結局、メッセージを送れないまま事務所へと到着した。


「おかえり。お疲れ様、皆」
「おかえりなさい。奥に届いたプレゼントを分けてあるので、持ち帰ってください」
「うっわ!今年もすっげー!」
「あ、すごい。メンバー全員にっていうのもあるよ」
「有難いですね」
「ファンタスティック!ここなもあります!」


おお、案の定、すげぇな。そりゃタマも大声を上げるわ。
さて、どう持ち帰ろうか…と考えていると、デスクに向かっていたはずの姐さんに声をかけられた。少し屈むように言われて言葉通りにすると、そっと顔を寄せられ思わず身を引きそうになる。…寸での所でとどまったけど。いや、急に近づかれたらビビるだろ。


「あ、あの…明日のお昼頃、お時間ありますか?」
「へ…?!」
「お渡ししたいものがある、ので…事務所に来て頂けると嬉しいです」


彼女はそれだけ言ってそそくさとデスクに戻って、何食わぬ顔で仕事を再開した。ただ、耳はバッチリ赤くなっててすげぇ可愛い。つーか、これはもしかしなくてももしかする…?否が応でも期待しちゃうんですけど、お兄さん。





「こんちはー」
「あ、二階堂さんお疲れ様です」
「お疲れ。…ひとり?」
「はい。万理さんはお休みなんですよ」


ああ、成程。マネージャーはリクとイチの撮影に付き添ってて朝から不在、万理さんはお休みだからこの時間に呼んだってわけか。社長はいるだろうけど、多分あの人は社長室で仕事中だよな。
…実は今、緊張で心臓バクバクいってんだけど。期待なんてし過ぎない方がいいっつーのが、昔からの考えなんだけどあんな風に言われたら期待せずにはいられなくて。必死に感情を押し殺そうとしたんだけど、気がつくと勝手に顔がニヤけちまうんだから困ったもんだよな。ちょっと待っていてくださいね、と席を外した姐さんを見送り、俺はソファへと腰を下ろした。


「…心臓破裂しそ」
「なにか仰いましたか?」
「んーん、何でもないよ。それで渡したいものって?」
「あ、はい。こちらなんですけど…」


そっと差し出されたのは、小さな紙袋。中を覗いてみれば綺麗にラッピングされた箱がひとつ、入っていた。紙袋に書いてある名前は俺でも見覚えがあるくらい、チョコが有名な店。


「本当は手作りしようと思ったんですけど!で、でも手作りが嫌いな方もいらっしゃると聞いたことがあったので今年は安全牌でいかせて頂きました…!」
「どっちでも嬉しいよ。なまえが俺のことを思って選んでくれたんだろ?」
「う、…そういう言い方はズルイと思うんです」
「でもできれば、来年は手作りが欲しいな」
「ど、努力致します」
「ははっ無理はしないでいいんだけどな」


開けていいか、と尋ねれば、真っ赤な顔で頷く。その姿がまた可愛くて仕方なくて、事務所だってことを忘れて抱きしめたくなる。うん、しねぇけどな。いつ・誰が来るかもわかんねぇし。いくら何でもそのくらいの分別はありますよーっと。
ガサガサと開ければ、中から出てきたのは日本酒が入っているチョコだった。へぇ…ウイスキーボンボンは知ってるけど、日本酒のもあるんだ。初めて見たかも。


「日本酒って珍しいな」
「最近はよくあるみたいです。このお店のチョコは美味しいって評判ですし、きっとハズレないだろうなって思って」
「…ん、美味い。これハマりそう」
「ふふっお気に召して頂けたなら良かったです」


姐さんにも食わせたいって一瞬思ったけど、結構アルコール強いし…この子は未成年だし、やめておいた方がいいかもな。


「それと、…もうひとつお渡ししたいものがありまして」
「まだあるの?あ、あいつらへのチョコとか?」
「いえ、それは昨日お渡ししましたから」


ゴソゴソと自身のデスクの下から取り出されたのは、またもや小さな紙袋。さすがにチョコ2連発ってことはないだろうけど、…でもそれ以外に何かあるのかって言われると言葉に詰まる。
とりあえず受け取ったものの、これは何なんだろう。チラッと姐さんに視線を投げてみるけれど、彼女はただ一言、開けてみてくださいとしか言わなかった。これは大人しく開けてみるしかなさそうだ。


「―――…ブレスレット」
「キーケースとか、お財布とか悩んだんですけど…皮のブレスレットとか、似合いそうだなぁって思って」
「うん、シックでカッコイイな。普段使いするのにいい」
「なので、誕生日プレゼント…です。おめでとうございます」
「ほーんとお前さんって、俺のことを喜ばす天才だわ…!」


こんなにも簡単に欲しいものをくれるとか、敵わねぇなぁ。
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