とある宿での一コマ
(『その瞳は哀しみを宿して』その後)
「あ、雪…」
ふっと窓の外へ目を向けると、はらはらと白いものが舞っていました。何だろう、と思って近寄って目を凝らしてみれば、白いものの正体は雪。どうりで寒いはずですよねぇ…そういえば、宿のご主人もそろそろ雪が降る頃だって仰っていましたっけ。
買い出しに出かけていった皆さんは、大丈夫でしょうか。悟空は喜んでいそうですが、悟浄くんと三蔵様は機嫌が悪くなっていそうだなぁ。その光景を頭の中で描き、自然と笑みが零れた。お茶の準備でもしておこうかしら、きっと体は冷え切っているでしょうから。
生憎、お茶菓子は何もないですが…まぁ、大丈夫でしょう。
「うあーっ寒ィ!!」
「ふん、情けねぇな」
「オメーだって寒くて縮こまってんじゃねぇか!」
「おかえりなさい」
「ああ」
「おう、ただいまなまえちゃん」
案の定、悟浄くんと三蔵様は不機嫌です。これでもつき合いが長いですから、何となく想像ついちゃいますよね?どんな反応するか、なんて。
それでもおかえりなさい、と声をかければ、きちんと返してくれるのはさすがだと思います。
「ただいまなまえ!外、雪降ってきた!」
「ええ、さっき窓から見たわ」
「大分冷え込んできてましたからねぇ…ただいま」
「おかえりなさい、八戒くん」
少し遅れて入ってきた悟空と八戒くん。2人にもおかえり、と声をかけ立ち上がった所で目に入ったのは、少し大きな白い箱。一体、何を買ってきたんでしょう…今日の買い出しメモを思い返しても、当てはまりそうなものはない気がするんです。
首を傾げたのが見えたのか、悟浄くんがどうしたんだ?と声をかけてくれました。
「あ、いえ…その白い箱、何だろうなって」
「白?ああ、八戒が持ってるやつか」
「これクリスマスケーキなんですよ」
「さっき買ってきたんだ!」
クリスマス、……そういえば、今日はそういう日でしたっけ。旅をし始めてからというものの、日付感覚がだんだんとなくなってきていたんですよね。ほら、日付を気にする必要がないので。余裕がない時もありますし。
まぁ、日付がわからなくても大して支障もありませんからねぇ。
「せっかくですから乗っかってみるのもいいかな、って」
「ちょうどお茶を淹れようと思っていたんです。おやつにしましょうか」
「やった!」
「紙皿とフォーク買ってきたから。包丁かナイフってあったっけか?」
「簡易キッチンはありますけど、あったかなぁ…最悪、私の刀で切りますか」
「やめろ。」
あら。三蔵様に止められちゃいました。さすがの悟空も青褪めた表情で、必死に首を横に振っているし…これは本気の拒否ですね。残念。
「いや、無理だろ…あれでめちゃめちゃ妖怪斬ってるじゃん…食えねぇって」
「僕も勘弁してもらいたいです…」
「やだなぁ、ちょっとした冗談ですって」
にっこり笑ってそう言っても、4人揃って「冗談に聞こえない」と真顔で返されてしまいました。
そんなに?そんなにですか君達!!
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