沢山の思い出を胸に抱いて

幼なじみ。家族。…恋人。
私達を繋ぐ言葉は、きっとたくさんこの世に存在するんだろう。どれも正しくて、どれも正しいと思う。だけど、どれもきっと―――ずっと一緒には、いられない。





あと二週間。桜が咲く季節になったら、私はこの町を出ていく。慣れ親しんだ町を、家を、大切な家族を、友達を仲間を、恋人、を…私を創り上げてくれた全てのものを切り捨てて、新たな一歩を踏み出すんだ。
そんな私を誰も責めなかった。おめでとう、すごいねって。新しい場所でも頑張ってねって。怪我しないでねって。たまには連絡ちょうだいねって。…そんな温かい言葉だけを、くれたんだ。泣いちゃった友達もいたけど、それでも最後には笑って元気でいてね、って言葉をくれた。

どうして、どうして誰も私を責めないの。

「責めてほしかったの?」

困ったように笑った大好きな人が言う。その言葉に何も返せない私に、ゆっくりと両手を握って、視線を合わせて、もう一度同じ言葉を繰り返した。責めてほしかったの?って。
きっと、違う。自分のことのように喜んでくれたことも、心配してくれたことも、励ましてくれたことも、ちゃんと嬉しいって思えた。そんなの上辺だけでしょ、なんて、捻くれた考えにもならなかった。…それだけ、私はこの町で成長できたんだと思う。

「あのね、なまえ。確かに離れ離れになるのは嫌だって思ったし、最初はどうしてって思った」
「…うん」
「けど、それが君が悩んで、考えて、そして決断したことなんでしょう?安易に出した結論じゃ、ないんだよね?」
「…うん」
「なら、」

僕は何も言えない。それが君のしっかりとした意思なら。
そう言って微笑んだ君は、同い年のはずなのにやけに大人びて見えた。

「ゆき、」
「応援したいんだ。君がやりたい、って思ったことは…僕が一番、応援してあげたい。だから…そんな風に、自分を責めないで」

置いていくのは何も悪いことじゃない。いつかは切り捨てなきゃいけない時だって、来るんだから。
やっぱり君は私と同い年だなんて思えない。そんなにしっかりとして、大人びていて、何よりも真っ直ぐだ。

そんな君に泣いて縋ってほしい、だなんて…そんなの、ただのわがままだね。

「あと二週間。短いかもしれないけど、なまえが旅立つその時までは…僕だけの君でいて?最後の一瞬まで、沢山楽しい思い出を作ろうよ」
「おもい、で」
「そう、思い出。しえみさん達がなまえの送別会を開いてくれるんだって。それにもうすぐ桜も咲き始めるだろうから、それを2人で見に行こう。あと…ずっと行きたい、って言ってたプラネタリウムも行こうか」
「でも、雪男、仕事は…?祓魔師の仕事」
「なまえが旅立つ日までは、あんまり呼ばないでくださいってフェレス卿に言ってあるよ。だから、よっぽどのことがない限り、呼び出しされない」

それを横暴だ、と言う人もいるかもしれないけど、仕事人間って言われてもおかしくないくらいに真面目な雪男が自分から仕事をいれないでって言うの、すっごく珍しいんだよ。私を一番に優先してくれたこと、すっごく嬉しい。


あと二週間。それまでは目一杯笑って過ごそうと決めた。
-74-
prevbacknext