もう泣かないって決めたから

3月中旬。私達は正十字学園と祓魔塾を無事に卒業した。
祓魔師の認定試験にも全員合格して、これで一人前の祓魔師にもなった。赴任先も決まって、4月になったら皆―――自分自身の、道を歩く。





「あっ来た!なまえちゃーん、雪ちゃーん!こっちだよー!!」

ぶんぶん、と大きく手を振ってくれているのはしえみちゃん。今日の送別会の発案者、らしい。
塾で仲良くしてくれていた彼女は、私が卒業したらバチカンに行くって聞いて、どうしても最後に皆で騒いで思い出を作りたいんだ!って、他の皆を巻き込んで相談してくれたらしいの。そしたら、送別会を開くのは?って意見が出て、即決。…と、苦笑いした雪男から聞いた。

正直、すごく嬉しい。嬉しくて、嬉しくて、始まる前から泣きそうになるくらいには感動してます。この前までは何で皆は責めないんだろう、って思ってたくせに。
だけど、雪男としっかり話して、それでようやく自分を責めても仕方がないんだって気が付いたの。自分で自分を責めたら、応援してくれてる皆の気持ちを踏みにじってしまうから。
悶々と悩んで旅立つ日を迎えるより、笑って、楽しんで旅立つ日を迎えた方がずっといい。そう言ってくれたのも、隣でしえみちゃんに手を挙げて応えている雪男だったりする。

「何処でやるのかと思ってたけど…旧男子寮だったんだね」
「うん!此処なら燐が料理作ってあげられるから、って」
「え、奥村くんが作ってくれてるの?」
「どうしても作る、って聞かなくてさ。まぁ、材料費は全部フェレス卿が出してくれたけど…」

おお。意外と太っ腹だ、あの理事長。
しえみちゃんに案内された旧男子寮の食堂には、もう皆が揃っているらしい。扉の前まで行って、彼女にちょっと待っててね?って、可愛らしいウインクをされたら大人しく待つ他ないと思います。
中にしえみちゃんが消えて行って数分経過。もういいよー、という声に押されてそっと扉を開ければ、パンパーンッと何かが割れるような音が響いた。何が起こったのかわからないし、音にびっくりして固まってしまったけれど、ひらひらと落ちてくる紙テープを見てようやくクラッカーの音だったんだ、と気が付いた。
呆然と横にいる雪男に視線を移せば、ごめんねって表情でクラッカーを持っていました。君も鳴らしてたのか。いや、いいんだけど。

「てか、何でクラッカー…」
「え?だってなまえって4月からバチカン勤務なんだろ?それってすげーめでたいことなんじゃねぇの?」
「せやから、クラッカーで出迎えよーてことになったんやけど…嫌やった?」
「ううん!びっくりは、したけど…」
「いきなり大きな音で出迎えられたら、そら驚きますわ。みょうじさん、こっち座ってください」
「若先生はみょうじの隣でええですか?」

三輪くんと勝呂くんに席に案内されて、大人しく座れば、大きなテーブルの上には所狭しと料理が並べられていた。品数の多さと1つ1つの盛り付けの綺麗さに感心していると、ことり、とグラスが置かれて。その先に立っていたのは出雲ちゃん。

「はい、飲み物。オレンジ好きだったでしょ?」
「うん。ありがとう、出雲ちゃん」
「…今日は、とことん笑いなさい。そうじゃなきゃ許さないから」
「!…うん」

奥村くんお手製の料理をお腹いっぱい食べて、何故か皆の一発芸…というか、出し物を見て、大笑いして、思い出話に話を咲かせて。
片付けが終わる頃には、外にはもうまん丸の月が顔を見せていた。

「わ、綺麗な月…!」
「もう真っ暗やな。片付けも終わったし、そろそろお暇しよか」

ガタガタと立ち上がる皆に倣い、私も椅子から立ち上がるけれど…どうしても寂しさが拭えない。寂しい、って言える立場じゃないのはわかってるけど、それでも大好きな皆とこれっきりになるのが嫌だって思ってしまった。でも泣いたらダメ、と涙を堪えていると、奥村くんと志摩くんが忘れてた!と大声を上げた。
何だろう?と首を傾げると、ずいっと目の前に何か包み?が差し出される。正直、近すぎてよく見えてないんだけど…プレゼント、なのかな?
受け取っていいのかわからず、大きな包みと彼らの顔を交互に視線を巡らせていると、苦笑じみた声で受け取ったってください、と三輪くんの声が届く。

その声を合図にようやく包みを受け取ると、しえみちゃんと出雲ちゃんが私達からのプレゼントだよ、と教えてくれた。
餞別やな、と笑う勝呂くんに、開けてみたら?と頭を撫でてくれる雪男。どうしてか胸の奥がぎゅっと苦しくなって、それを誤魔化すように包みをそっと開くと、そこにはたくさんのプレゼント。

「えっとね、お花のブレスレットと髪飾りは私から。
星と月のストラップと栞は神木さんから。
猫の小さなぬいぐるみは三輪くんから。
王冠のついた小物入れは志摩くんから。
薄いピンクのマフラーは勝呂くんから。
ヘアピンのセットは燐から。
本とブックカバーは雪ちゃんから。
あと、色紙とアルバムは皆からなんだよ!」

どれもなまえちゃんのこと考えて選んだんだよ。大事にしてあげてね。
そう言ってにっこり笑ったしえみちゃんの顔を見て、ついに我慢できなくて、頬を一筋の涙が流れた。
私はこんなにも大事にしてもらえていたんだって、友達だって思ってもらえていたんだって…それを改めて実感したの。
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