本当に、本当に、大好きでした
3月最後の日。今日で、この町で過ごすのは本当に最後。
それは、貴方との別れの日。
「はー…すごかったねぇ、綺麗だった!」
「本当。何て言うか、…本当に星に囲まれてる感覚だった」
ずっと、ずーっと行きたいと言っていたプラネタリウム。行く機会はきっと何度でもあった。だけど、祓魔師と講師をしながら学生でもある雪男は、突然呼び出されることも少なくなくて、デートがキャンセルってこともたくさんあったの。だから、なかなか行けなかったんだよね。
私自身も塾や学校の課題もたくさんあって、彼ほどではないけど、それなりに忙しい日々を過ごしていたから。
でも、それも…今日で終わり。
私は明日、バチカンへ行く。本部で祓魔師として勤務することが決まっているから。日本支部や京都支部で働くことも考えなかったわけじゃない。外国語は不得意で、向こうで上手くやっていく自信もない。正直言うと、不安しかないんです。
それでもバチカンへ行くことを希望したのは、私自身の足で立ちたいと思ったからだ。
此処はとても居心地がいい。安心して、私として笑っていられる唯一の場所だった。…でも、でもね?甘えてばっかりじゃダメなんだよ。雪男に支えてもらって、塾生の皆に支えてもらって、それでようやく立っていられるようじゃ、私はきっとこれ以上成長出来ない。だから、この町で得たもの全てを置いて、私は旅立とうと決めたんです。
「……ごめんね、雪男」
何も別れる必要はないだろ、と本気で怒ってくれたのは、雪男本人ではなく兄の奥村くんだった。
どうして、と泣いてくれたのは、しえみちゃんと出雲ちゃんだった。
ちゃんと2人で話をしろ、と諭してくれたのは、勝呂くんと志摩くんと三輪くんだった。
それでも最後に笑って許してくれたのは、やっぱり君だったんだ。雪男。
「私ね、初めてだったの。大好きな人の隣で笑えたの」
「うん」
「こんなにも好きになれたのも、離れたくないって思ったのも、ずっと一緒にいたいって思ったのも、」
全部、何もかも、
「雪男が、初めてだった…っ!」
泣かない、と決めていたはずだったのに、視界が涙で歪む。拭っても拭っても、止まることを知らない涙は、地面をじわりじわりと染めていく。
止まらない涙を指でそっと拭ってくれたのは、これで何回目だろう?微笑んで大丈夫だよ、と抱きしめてくれたのは、これで何回目だろう?泣き止むまで傍にいてくれたのは、これで何回目だろう?
「ありがとう、なまえ。僕を好きになってくれて、最後まで想ってくれて」
「好き、好きだよ雪男…大好きだよ、」
「うん、僕も君が大好きだ。今までも、…きっとこれからも」
繋いでいた手を離すのを決めたのは私自身。この優しい大切な人を、此処に置いてきぼりにすると決めたのは私自身。
それなのに離れたくない、と泣く私はきっと滑稽だ。馬鹿だ。…でも、それが本当の私なんだ。そんな馬鹿な私を、好きだと言ってくれてありがとう。愛してくれて、ありがとう。
さよならは、言わない。その代わりに―――――
「貴方に出会えて、幸せでした」
最高の笑顔を、贈るから。
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