君への秘め事
ふらりと立ち寄った花屋さんで見つけた、1つの花。
ナデシコというらしいその花は小ぶりで、可愛らしくて、何でかわからないけど…とても惹かれて。なんとなーく目を奪われてしまった。
「…それで買ってしまうって、僕、何考えてるんだろ…」
せっかくだから、と誰かにプレゼントするわけでもないのに、店員さんがこれまた可愛らしいブーケにしてくれました。
うーん、こうやってくれたのなら自分用にするのももったいないよなぁ。かと言って、一緒に旅してる彼らは全員男だから花なんてもらっても嬉しくないだろうし。(あれ?モコって性別どっちなんだろ…)
それにこの花、一番似合いそうなのは姫さんか…さくらだよね。うん。まぁ、いない人のことを思っても仕方ないんだけれど。
はてさて、本当にどうしようかなぁ。この花。
「ただいまーぁ」
「おかえり、…って、どうしたんだ?それ」
「へ?」
「その花だよ。…誰かに、もらったのか?」
寝泊まりしているホテルに戻れば、出迎えてくれたのは黒鋼くん。
だけど、僕が手に持っている花を見た途端、眉間にシワを寄せて不機嫌顔になってしまいました。
その後の言葉から察するにー、…この花を誰かからもらった、と思ってるから不機嫌ってことでいいのかな?嫉妬してくれてる、って思っていいのかな?こんな可愛らしい理由で拗ねてるんだって勘違いして、自惚れちゃうよ?
「違うよ、自分で買ったの」
クスクス笑いながらそう教えてあげれば、あからさまにホッとしたような表情を浮かべた。
ああ、これは勘違いではないかもしれないなぁ。さっきの推測。
でもやっぱり本人の言葉で聞きたくて、意地が悪いとはわかっているけれど「嫉妬、した?」と問いかけてみれば、一気に顔が真っ赤になっちゃって。それだけでも嬉しすぎるのに、ぶっきらぼうに悪いかよ、って言われちゃったらもうね!更に喜んじゃうよ。
今思えば…気持ちが通じ合う前も、ファイくんに嫉妬したりしてたんだよね?この人。
本当に真っ直ぐに想いを伝えようとしてくれてたんだよなぁ…僕はずっと彼から目を背けようとしていたから、そんな都合の良いことあるわけないって信じなかったけどさ。
でも今はちゃんと信じられるし、嫉妬してくれるのも素直に嬉しいって思える。だからこそ、ずっとこの人の傍にいられたらって願って止まないんだ。
「(…あ、そういえば花屋の店員さんが、)」
ふと脳裏によぎったのは、花屋の店員さんが言っていた言葉。僕が買った花の、花言葉だ。
チラリ、と黒鋼くんに視線を向けてみれば。もう平静を取り戻したらしく、ソファでくつろぎながらお気に入りの雑誌であるマガニャンを読んでいるようで。
あの花言葉を思い出したからには、この花…どうしても黒鋼くんに受け取ってもらいたいな。彼自身は嫌がるかもしれないけど、…僕の気持ちだから。
そっと彼の隣に腰を下ろせば、マガニャンから視線を外すことはしないまま、僕の頭を黙って撫で始めた。
…ほーんと、スキンシップ増えたよなぁ。僕は嬉しいからいいんだけど。
「ねー、黒鋼くん」
「あ?」
「これ。キミにあげる」
「………俺は女じゃねぇぞ」
いや、それはさすがにわかってるよ。
苦笑気味にそう言えば、なら何なんだと言わんばかりの瞳で僕の顔を見つめている。手にはしっかりと渡したブーケを持って。
文句は言いつつもちゃんと受け取ってくれるあたり、さすが黒鋼くんって感じだよね。うん。
「受け取ってやらねぇこともないが…理由、あんだろ?」
「あー…ハッキリ言えば、何もない、が正解なんだろうけど」
「はぁ?」
「…けど、花言葉がね?僕の気持ちそのもののような、気がして。だから、キミに受け取ってほしいの」
にっこり笑ってそう告げれば、眉間のシワを更に深くした彼。
意味がわからない、説明しろって言いたいんだろうけれども…うん、ごめん。さすがに恥ずかしすぎて言えないデス。無理。
だから今はね、笑って誤魔化すことを許してください。
-78-
prev|back|next