らしくない、

今日は朝からついさっきまで、1日走り回っていた。何故かすんげぇ忙しかったんだよな。
普段はそんなでもない。仕事の量は多いけど、走り回るようなもんでもないし、お客人が来る時はあらかじめわかってることだからおもてなしの準備は前日までに粗方、終了してることがほとんどだ。
それなのに、何故今日はこんなに忙しかったかと言うと…イレギュラーな訪問が相次いでいたから、だったりする。
連絡なしにやって来た劉様と藍猫様、それから王子とアグニさん。一組だけでも大変だっつーのに、何故か立て続けにやってきやがりまして。それだけで色々と予定が狂うからセバスの機嫌は最っ悪だし、主の機嫌も良くはない。
それなのに通常業務はこなさなきゃなんねーし、使用人'sもいつも通り失敗してくれるから、その後片付けとフォローもしなくちゃいけないわけですよ。

そしたらぜーんぶ片付いて、ようやく一息つけたのが夜中とか!
しかもこれから明日の朝の仕込みもしなくちゃなんないし…!いっくら人外だっつっても疲れはするんです。つーか、今日みたいな状況じゃ疲れない人いないと思うんだよな。うん。

「うあー…さっすがにしんどい」
「確かに今日はひどかったですね…仕込みは私がやっておきます。貴方は先に戻っているといい」
「え、でも…」
「1日頑張っていましたからね、ご褒美ですよ」

仕込みだけなら1時間程度で終わりますから。
愛想笑いではない笑みを向けられて、更に優しく頭を撫でられたらもうそれに従うしかなくなるじゃないか…恋人同士になってからというものの、スキンシップが増えたように思う。特に2人きりになると(皆がいる所では必要以上に触るな、って言ってるからだろうけど)。
こうやって笑みを向けてくれるのも、触れてくれるのも、すごい嬉しいんだ。嬉しいんだけど、

「ちょっと、…甘くない?僕に」
「おや、そうですか?これでも他の方々と同じようにしているつもりですよ?仕事に関してはね」
「そうかもしんないけど…明日の仕込み」
「ああ…なまえが珍しく疲れた顔をしていたものですから、つい。それに、」
「?」

―――早く仕込みを終わらせて、貴女に触れたいんですよ。
ふと手を止めて、そっと近づいてきたセバス。耳元に顔を寄せてきたかと思えば、そんなことを艶めいた声で紡ぐもんだから思いっきり後ずさりしちまった。
うあー…絶対、顔真っ赤になってる!だってセバスがクスクス笑ってんもん!!
でも、あんな腰にクる声であんな台詞言われたら…誰だって顔に熱が集まるだろ。ちくしょ、…僕まで、セバスに触れたくなっちまったじゃねーか。
こうなってしまったらもう僕は緊張とかそういうもんで役立たずになる。したのはセバスだけど。…てか、さっさと済ませるんならセバス1人の方が効率がいいかもしれない。
そう結論付けた僕は、お言葉に甘えて先に部屋へ戻ることにした。

部屋の扉を開けてまず飛び込んできたのは、花の香り。
…ん?花?僕らの部屋に花なんか飾ってなかったはずだけど…何でだ?つーか、朝までは確実になかったはずなんだけど。
不思議に思って部屋の中を見渡せば、僕の机の上に花束が置いてあった。何でこんな所に花束が?というより、一体、誰が置いていったんだろう?
けど、フィニもメイリンさんもバルドさんも、そしてタナカさんだって僕の本当の正体を知らない。此処では護衛兼執事、女ではなく男。つまり彼らが花束を置いていくのは、恐らく有り得ない。
女だって知っているのは主とセバスのみ、だけど…

「主ではないだろうなぁ…あの方が此処にわざわざやって来るっていうのは、どうも想像つかないし」

消去法でいくと確実にセバスなんだろうけど…意図がわかんねぇなぁ。
バサリ、と花束を持ち上げてみると、たくさんのチューリップが包まれていた。これ…庭にたくさん咲いてたやつだよな。そこから摘んだんだろうか?
ああ、でもすごく綺麗だ。

「…気に入りましたか?」
「ッ?!…セバス…いつの間に」
「少し前、ですよ。貴方がとても優しい顔をしていたので、声をかけそびれてしまいました」
「何だよそれ、……まぁいいや。これ置いたのってアンタ?」

綺麗なチューリップの花束を見せてそう問いかければ、はい、と頷かれた。
やーっぱりセバスだったか。でもどうして急に花束なんか…何か記念日ってわけでもないし、誕生日でもない。つーか、僕、自分の誕生日覚えてないし。
どれだけ考えてもこれを僕にくれる理由がわからなくて、うーん?と首を傾げていると、セバスがタイを外しながら「理由が気になりますか?」と聞いてきた。気になるからずっと考えてるんだし、素直に頷けばまた楽しそうな笑みを浮かべる。

「セバス?」
「…特別な理由があるわけではないんです。ただ、フィニ達から花言葉というのを教えて頂きまして」
「あぁ、あるな。でも何で急に花言葉?」

気になって問いかけてみれば、どうやら花の手入れをしている時にそんな話になったんだとか。
博識なセバスだけど、必要のないものは記憶してないらしくてさ?花言葉は初めて聞いたんだって。別に知らなくても執事の仕事にはさほど影響はないんだろうけど、いつか主が女性に花を贈るようになった時に役立つかもしれない、と思って詳しく聞いたみたいだね。
ははっなんつーか、理由がセバスらしいような気がする。

でも花言葉かー…そういえば、前にそんな本を読んだような記憶があるな。薔薇は本数でも花言葉が変わるとか書いてあったっけ。
そこまで思い出してはた、と気が付いた。さっき、セバスは何て言ってた?確か、フィニ達から花言葉を教えてもらって、って言ってたよな?それが僕にこの花束を贈った理由だとすれば。
贈られた花は、チューリップ。そしてチューリップの花言葉は―――…

「―――――ッ?!」
「ふふ、顔が真っ赤ですよ?なまえ」
「え、だっ、て…おま、これ…っ!」
「少々私らしくない、とは思ったんですがねぇ…花言葉を聞いて、どうしてもなまえに渡したいと思ってしまいまして」
「これ、反則だよバカセバス……!!」
「喜んで頂けた、と思ってよろしいので?」
「んなの、喜ばないわけがないだろっ…!」

悪魔は"愛"なんぞ必要としない生き物だ。
だから、こうして彼に愛されることは奇跡に等しいことだと言うのに、それなのにこんなことまでされてしまったら、僕は―――あたしは、尚更この人を離せなくなる。離れられなくなる。
セバスはそれをわかってやっているのだろうか?

泣きそうなほどに嬉しくて、セバスに触れたくて堪んなくて、花束を投げ捨てて目の前で楽しそうに笑うコイツの体に思いっきり抱き着いた。
体温なんか感じないけど、それでもじんわり温かい気がするし、何よりセバスの香りがして…落ち着く。

「せっかくのプレゼントを投げ捨てられるのは良い気がしませんが」
「そのくらい許せ。今…アンタに触れたくて仕方ねーの」
「!………ですから、貴方はどうしてそう爆弾発言をするんですか…」
「へ?」

ぎゅうっと抱きしめられたかと思えば、そのままの勢いで唇が重なった。
荒々しく重なったかと思えば、繰り返されるキスはいつも以上に優しくて、いつも以上に…甘い。
あー…僕、めちゃくちゃ幸せだ。
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