貴方に誓う
鬼灯様の恋人となって早5年。長寿である私達鬼にとっては短い時間ではあるけれど、きっと現世では長い、と言われる年月なのでしょうね。
けれど、恋人になったからと言って別段、関係が変わるわけではありません。もちろん、今までよりは甘い関係だとは思っていますが、…上司と部下でもありますので、世の中の恋人のように常に甘い雰囲気を纏っているわけではないんです。
…元々、鬼灯様はそういうのを得意とされるお方ではありませんしね。イベント事を祝ったりだとか、そういうものは今までもあまりしてきませんでしたから。閻魔庁を巻き込んでのイベント事は別、ですが。
なので、あのお方から何でもない日に贈り物を頂くってことは、今までに一度もなかったんです。
「なまえさん、差し上げます」
「まぁ、綺麗なお花…桔梗ですね。ありがとうございます」
珍しく残業をせずに帰ってきた鬼灯様は、手に花束を持っていらっしゃいました。紫色をしたとても綺麗な桔梗の花。
誰かにもらったのでしょうか、と考えていたら、どうやら私に下さるようで。どうして急に、とか聞きたいことはたくさんありましたが、それ以上に嬉しい気持ちが大きかったので素直に受け取らせて頂いたんです。ふふ、本当に綺麗だわ…枯れてしまう前にお水につけてしまいましょう。
花を飾ったことがない我が家には、残念ながら花瓶がない。明日、仕事終わりに買ってこなければいけませんね…今日だけはこの桶で我慢して頂かなくては。
桶に水を張り、その中に頂いた花をそっと入れる。しばらく桔梗の花を眺めていると、不意に名前を呼ばれました。何かご用でしょうか、と顔を上げた途端、唇に柔らかい何かが触れた。いえ、目と鼻の先に鬼灯様の整った顔があるので"なに"が触れているのかなんて聞くまでもありませんが。
だからといって、平静を装えるかと言ったら答えは否、です。本当に。
「ほ、鬼灯様…!」
「相変わらず不意打ちになれませんね、貴方は。何年付き合ってると思ってるんですか」
「5年ですけど、ん…っ」
はぁ、と溜息を吐きつつ問われた言葉に反論しようとすれば、うるさいと言わんばかりに口を塞がれてしまいました。…もちろん鬼灯様の唇、で。
触れるだけの口づけが何度か繰り返され、ぬるりと唇を割って舌が入り込んできた。ああ、本当に何年経とうともこの感触に慣れることがなく、肩が思いきりビクリと跳ねる。それに気を良くしたのかはわかりませんが、舌を絡め取られた挙句、甘噛みされたり、吸われたり、…いい加減、苦しくなってきました…!
ギュッと着物を掴んでいた手で胸元をトントンと叩いて、ようやく唇が離れていった。鬼灯様のお顔に浮かぶのは物足りない、と言わんばかりの不機嫌な色でしたけれど、それはまぁ見ないフリ。口づけされるのが嫌いなわけではありませんが、あのままですと完全に腰が抜けてしまいますので困るんです。
「は、っ…はぁ…!」
「ああ、ずいぶんと色っぽい顔をしてらっしゃいますね。抑えが効かなそうです」
「そ、こは効かせて頂けると嬉しいのですが…!」
まだご飯も食べていませんし、お風呂にも入っていないのですからやめてください切実に。
「そうですね、貴方を食べるのは後程と致しましょうか」
「食べられるのは決定事項なんですか…いいですけど」
ボソリ、と言葉を紡げば、表情は変わっていらっしゃいませんが、どことなく嬉しそうな雰囲気を纏っていらっしゃる鬼灯様。ふふ、こんな時くらい笑って下さったらいいのに…と、いつも思うけれどこれがこのお方なのだと思うと、別にいいかと思ってしまえるのだから不思議よね。
…でも、本当に時々。私の前では表情を崩して下さったら、と思うのも本当なんですよ。
「ところで、どうして急にお花を買っていらしたんです?」
「……たまには、良いのではと思った。それだけです」
そう言ってふい、と視線を逸らしてしまった鬼灯様の頬は、少しだけ赤みを増していた。
結局、理由はお話して頂けませんでしたが、…桔梗の花言葉を知った上で贈って下さったのなら、どんなに嬉しいことでしょう。
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