願って、想う
「コンラッド、花屋さんに行きたいんだけど…時間取れる?」
執務に取り掛かりながら、いつもの如く傍に控えてくれている名付け親兼護衛のコンラッドに声をかけた。ら、ひどく驚いた顔で応と答えてくれました。
うん、突然声をかけた俺も悪かったとは思うけど…んな驚かなくてもいいんじゃない?
side:有利
今日の分の書類も、謁見も、執務に関することは全て片づけて(グウェンには驚かれ、ギュンターには泣かれた)、俺はコンラッドと一緒に城下へと赴いていた。今回はお忍び、ってことなので変装してます、コンラッドも一緒にな。だって俺だけ変装してても、コンラッドがそのままだったら絶対バレるだろ?この人だって顔が知れてんだしさ。
…まぁ、俺としては別に変装する必要ないと思ってるんだけど…急に魔王様が現れると皆、びっくりして焦っちゃうんだって。
だから、視察じゃない時は極力変装しろ!って臣下の方々達に口を揃えて言われてしまったのです。うん、その気持ちもわからんでもないんだけどね。
と、そういう内部事情は置いておくとして。俺が今日、いっそいで執務を終わらせて城下に来ている理由は、花屋さんに行きたかったからなんだ。
行きたい、とだけコンラッドに言ったら、何かよからぬ勘違いをしたらしくて一瞬フリーズされた。ヴォルフはすげー剣幕で怒り始めるし、グウェンは意外だって顔するし、ギュンターなんか気絶しやがったんだ。ヨザックは「坊ちゃんも大人になられたんですねー」ってカラカラ笑ってたよ。
ヨザックのその言葉を聞いて、俺はようやく皆が『女性に贈る花を買いに行く』って勘違いしてることに気が付いたわけだ。てか、何でそうなるんだよ、俺、付き合ってる人なんかいないぞ?それは臣下である彼らがよーーーくわかってるはずなんだけどなぁ…。
「ったく、…ヴォルフの奴、ほんっと容赦ねぇなぁ」
「すみません。一度、頭に血が昇ると手が付けられない奴で…」
「長い付き合いだからそれはわかってるけどなー。けど、アンタまであんな勘違いするとは思わなかった」
「あはは、…急に貴方が花屋に行きたい、と言うものだからつい」
つい、って何だよコンラッド。オイ。
そう。俺が花屋に行く理由は女性に贈る為に、ではない。あ、いや、女性に贈るっていうのは間違ってねーんだけど…その相手は、故人だから。
ウェラー・なまえ。
5年前に自らの命を投げ打って、この国の未来を守ってくれた人だ。
助けて、あげたかった。あんな酷い運命を歩ませたくなんてなかった。もっと一緒にいたかった。もっと色んな話をしたかった。もっと色んな場所に行きたかった。もっと…たくさんの笑顔を見たかった。…挙げたらキリがないくらいだよ、本当に。
そして、何よりもコンラッドと2人で幸せな人生を歩んでいってほしいって心から思ってたんだ。
付き合ってはいなかったみたいだけど、どう見たって相思相愛の2人だったからね。大好きな2人が一緒になって、幸せですって笑ってくれたらいいなぁってずっと思ってたんだよ。結婚します、って報告が聞けたら国をあげて祝福してあげよう!とか…考えてたんだけどなぁ。
だけど、その全てをぶち壊したのは俺の一言だ。誰も責めやしないけど、何も言わないけど…けど、俺はきっとこれから先、死ぬまでずっと自分で自分を責め続けると思う。
なまえもコンラッドも、他の皆も優しい人達ばっかりだからそんなことはやめろ、って言うかもしれない。でもさ、それくらいは負うべきなんだよ。罰として。
「ユーリ、また眉間にシワが寄ってる。考えすぎはダメですよ」
「あ、…うん、そうだな」
「なまえの墓に供える花を買うんでしょう?どんな花にするんですか?」
「んー?コレ」
「これは…ガザニア、だったっけ」
コンラッドの問いに頷きを返して、お店の人を呼んで花束をお願いした。
せっかく供えるんだし、大きいやつにしよう。今まで一度も、お墓参りに行ってあげられなかった罪滅ぼしも兼ねて。今だってまだ辛いけど、…でもいい加減、その事実も受け入れなくちゃいけない。これ以上、俺がくよくよしているわけにもいかねーし。
俺が密かに決意を新たにしていると、コンラッドが一点を凝視していた。何を見てるんだろ、と後ろから覗き込んでみれば、薄紫の可愛らしい花がたくさん並んでいて。どうやらコンラッドはその花を熱心に見ていたらしい。…欲しい、のかな?彼なら花を持っててもカッコイイだろうけど。めっちゃ絵になりそう。
「コンラッド、その花欲しいの?一緒に買う?」
「あ、いえ………でも、そう、ですね…」
すみません、この花も一輪ください。
ちょうど包み終わったらしいお店の人に新たに注文して、お金を支払って俺達は店を後にした。大きなガザニアの花束と、一輪のシオンの花を手にして。
「喜んでくれる、かな。なまえ」
「ええ、きっと」
願わくば、なんて…身勝手かもしれないけれど。せめて天国では幸せに暮らせていますように、と思わずにはいられない。
ねぇ、なまえ。俺は君が守ってくれた未来で生きてるよ。君が守ってくれた未来は…笑顔と温かい人達で溢れてるから、安心しろな?
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