今回くらいは、なんて@

「えっなまえちゃん臣くんにあげたことないの?!チョコレート!」
「あげたことないわけじゃないですよ、…『手作りの』チョコレートをあげたことないだけです」

バレンタインまであと数日。いづみさん・東さん・幸ちゃんに誘われて、私は東さんオススメのお店にランチへ来ています。
割と珍しいメンバーのように見えるけど、結構この4人でお茶したりランチ行ったりしてるんだよね。東さんと幸ちゃんにオススメの化粧品とか教えてもらったりもしてる。
予定が合えばここに莇くんも加わることもあるんだけど、実現した回数はそう多くはない。寮ではメイクを教えてもらったり、実験台になったりすることもあるけどね。

「じゃあチョコレートはあげたことあるんだ?」
「まぁ…幼なじみですし、あっちもくれるし」
「臣くんは手作り?」
「そうですね」
「なまえのことだから手作りは気が引ける、って作ったことなかったんでしょ」
「ううん、…あー…それもないわけじゃないんだけど…」

臣くんが料理上手なのは前から知ってたことだし、今更気にすることもないんだけど…手料理は食べてもらったことあるし、今だって当番の時は作ってますし?
お菓子だって気まぐれに作っては食べてもらってるから、大体の私が作るもののの味とかそういうのはアイツも知ってると思う。そういうことではなくて、

「手作りって、異性に渡すにはちょっと重いじゃん…!」

臣くんへの気持ちに気がついたのは割と昔のこと。チョコレートはその前からバレンタインにあげてたけど、その頃はまだ料理なんてできなかったから既製品をあげてたんだよね。
でもお母さんの手伝いをするようになって少しずつできるようになって、でも臣くんも元々才能があったのかメキメキと料理の腕をあげて…それに気がついた時、「臣くんには手作りのお菓子をあげるのはやめよう」って思ったんだよ。アイツの方が断然上手だし、美味しいし。
それから臣くんへの恋心に気がついて―――何かで見たんだよね、手作りは重いとかもらっても困るとか。そしたらさ、怖気づくじゃん。手作りのチョコレートを渡すの。なので今までに一度も、臣くんに手作りのチョコレートは渡したことがない…というか、渡そうと思ったことがないのです。

「一般論としてはそういう意見もあるだろうけど、人それぞれなんじゃないかなぁ」
「オカンはそういうの気にしなさそう。なまえ相手なら喜びそうなもんだけど」
「そう、かなぁ…」
「臣くんはなまえちゃんのこと大事に思ってるし、それに恋人でしょう?」

確かに今は紆余曲折あり、幼なじみから恋人という関係にランクアップしたけれども。果たしてそうなんだろうか…いや、東さんの言う通りあれは一般論で、全員が全員そう思っているわけではない。
劇団員の皆だって臣くんや私が作ったお菓子を美味しそうに食べてくれてるし。人によっては手作りが苦手、というだけで。臣くんもそれに必ずしも当てはまるというわけでもない。
それはわかってる、よぉーーーくわかっちゃいるんだけども…長年、既製品を渡してきたのに恋人になった途端に手作りを渡すってのも何か変じゃない?!
頭を抱えてそう呟けば、3人とも「ちっとも。」と即答してくださいました。ああそうですか、返答ありがとうございます…!!

「なまえは変な所、臆病だよね」
「臆病…なのかなぁ」
「恋愛に関してというか、オカンに関することに」

幸ちゃんの言うことは一理あるかもな、と思う。
殊更、臣くんに関することだけは…何となく、怖気づいてしまうというか何というか。嫌われたくないんだよなぁ、アイツにだけは。愛想を尽かされた時を想像するだけで泣きそうになるくらい。

「手作りかぁ…」
「臣は口に出しはしないだろうけど、多分、なまえからのチョコレートを待ってると思うよ?」
「あげはしますけど、…うーん……」

味に自信が全くないわけではない。臣くんには負けるけど、勝てるはずもないし勝つ気も全くないけど、そこそこ美味しいものは作れると思う。この寮で料理を作るようになって、美味しいって笑ってくれる皆の顔を見て多少の自信はついたから。でもそれとこれとでは話が違うというか!!
結局、ランチ中にもその後のお茶会でも覚悟は決まらず仕舞い。どうするか悩んでいるうちにバレンタイン前日となり、今は中学時代からの親友である千鶴の家にいます。

「気にしないでしょ、伏見くんは」
「千鶴まで断言するんかい…」
「だってなまえにベタ惚れのあの伏見くんがさ、しのの手作りチョコを拒否するわけないじゃない」

ベタ惚れって、…アイツそんなにわかりやすい態度とってる?私には全然わからん。

「わかりやすいわけじゃないと思うよ。伏見くんは普段から人当りいいし、笑顔の方が多いと思うし。でも時々、なまえに向ける視線や笑顔が甘いから」

千鶴はそう言って笑い、なまえもだけどねーと更に爆弾を落としてくれやがりました。
なんなの?私を殺したいの?貴方は。

「まぁ、それはおいておくとして…結局、作るんでしょ?その荷物を見る限り」
「…劇団の皆に作るかもしれんじゃん」
「それならウチに来る必要ないじゃない。寮で作ればいいもんね」
「うっ…」

そうですよー千鶴の言う通りですよー!ギリギリになって作ることだけは決めたけど、寮で作るのはどうにも恥ずかしくて(この材料は明らかに1人分だから)。
門前払いされるのを覚悟で、彼女の家に突撃しました。キッチン貸して!!って。

「ま、好きなだけ使いなよ。私も作るし」
「うん、ありがと」

もう半ばヤケのようなものだ、ここまできたら。失敗したり、少しでも嫌な顔をされる気配がしたら自分で食べてしまえばいい。そして臣くんには既製品を買って渡せばいい。毎年、既製品をあげてたんだから変な顔されることも、変に思われたりすることもないでしょ。
千鶴と一緒にチョコレートと格闘すること約1時間、とりあえずできましたー。千鶴も巻き込んで味見はして問題なさそうだし、…うん、あとは渡すだけだ。逃げずに。

「うあー…怖い、めっちゃ怖い」
「そんなに怖がらずとも大丈夫だと思うけどなぁ。美味しかったし」
「千鶴にも用意してあるから、明日渡す…」
「ありがとー。私もラッピングしてから渡すからね」

ひとまず今日は帰りなさい、と頭を撫でられた。時計を見てみれば、あっという間に18時を過ぎていて。確かにそろそろ帰らないと夕飯に間に合わなくなってしまう。
夕飯いらないとは言ってないし、出かける旨もちゃんと言ってきてるから食いっぱぐれることはないとわかってはいるけれど。問題はそこではなく、ひとりで食べるご飯を寂しいと思ってしまうことなのです。
皆と一緒に食べることに慣れちゃったからなぁ…帰りが遅くなってひとりで食べる時、結構寂しいんだよね。まだ談話室にお酒飲む組が残ってくれてたりすると気が紛れるけど。

「押しかけてごめんね、キッチン貸してくれてありがと」
「いーえ、このくらいお安い御用だよ。気をつけて帰って、また明日ね」
「ん、また明日」

千鶴の家を出て、家路を急ぐ。ガサリ、と音を立てる紙袋がその存在を主張しているようで、何とも言えない気分になるし、更に言えばものすっごく逃亡したい気分にもなるけど、これ以上は逃げたくない。
逃げクセをつけることは、アイツを傷つけることだってもう痛いほどに理解しているから。
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