後悔はしてないけど、反省はしようと思う。


「ねぇ、何かいいことあったの?」
「…へ?」


私は今、TRIGGERの天くんと一緒にスイーツビュッフェに来ています。何故かって?そんなの誘われたからですよ、割かし無理矢理に。
だって突然ラビチャでこの日の午後空けておいて、迎えに行くから。だよ?私の意思なんて一切無視だからね!反論も聞かないって感じだったし。それはもう頑張ってスケジュール空けるしかないじゃん…偶然にも私は1日事務仕事の予定だったから、何とかかんとか半休をもぎ取りましたとも。社長も万理さんも滅多にそんなこと言わないのに!と嬉しそうに、そしてあっさりと休みをくれましたよ。ねぇ、ちょっと複雑ですよ?


「最近、ずっといい顔で笑ってる」
「そう、だったかな」
「そうじゃなかったら言ってないし、楽と龍も言ってたよ」


そして思考は冒頭の天くんのセリフに戻ります。いいことがあったのか、と聞かれれば、あったと言える。確実に肯定できるのだけれど、果たして素直に認めてしまっていいものなのだろうか。いいことというのは言わずもがな、つい先日、好きな人と気持ちを通じ合わせたことなんだけれども…まだ妹である紡くんにすら言っていないことだし、隠さなくてはいけない関係だというのもよくわかっているから、尚更どう答えたらいいのかがわからない。
言葉に詰まっていると、じっとこちらを伺うように見つめていた天くんが不意に私の口へイチゴを押し込みました。いきなりすぎて変な声が出たのはスルーしてください。


「むぐ、…なに、急に」
「眉間にシワ寄せない。跡になったらどうするの」
「私、もう表舞台には立たないんだけど…」
「でも君はマネージャーだ。それなのに眉間にシワ寄せて、プロデューサー達に挨拶に行くの?プロ失格だよ」
「うっ…」


彼の言うことはごもっともだ。初めて会う人にも、普段からお世話になっている人にも、変な顔を見せてしまってはアイドリッシュセブンとMEZZO”の評判を落としてしまう可能性がある。昔からだけど相変わらず、天くんのプロ意識はすごいと思う。裏方に回った今でも学ぶことがたくさんだ。
ありがとうとごめんを伝えて、目の前のケーキに手を伸ばす。うん、美味しい。さすがホテルのスイーツビュッフェなだけあって、どれもハズレがないなぁ…フルーツも新鮮だし。生クリームも甘さ控えめで、どれだけ食べても飽きがこなさそうな味です。


「…でもまぁ、君がちゃんと笑えるようになって良かったよ」
「今までもちゃんと笑ってたと思うけど」
「笑ってなかった。愛想笑いもいいとこだったからね、言っておくけど」
「手厳しいなぁ」
「厳しくない。君が無頓着なだけだってば」


無頓着、無頓着かぁ…紡くんにも言われたような気がするなぁ、大分前だけど。


「心配してくれてありがとう。今度、…ちゃんと話す機会を設けるよ」
「期待しないで待っていようかな。そろそろ行こう」
「あ、うん」


失礼な言葉を言いながらもさり気ない仕草で伝票を持っていかれ、私が彼に追いつく頃にはもう支払いは済まされていた。お金を払おうとしてもいらないって即却下されるし…確かに天下のTRIGGERの1人だけど、だからといって素直に奢られる要素はどこにもないわけで。私だって同じように働いている社会人なのだから、割り勘したって何に問題もないのに。
文句をつらつらと並べていると、ボクだって男なんだからかっこつけさせてよ、って言われちゃいました。それも天使のスマイル付きで。むー…その笑顔を浮かべられると何も言えなくなる、ってわかっててやるんだもんなぁ、天くんって。今度、食事に行く機会があったら絶対にこっちが払ってやる!


「じゃあね。楽達も会いたがってるし、今度は4人で」
「…都合が合えばね。多忙でしょ、そっちも」
「―――君には笑顔が似合うから、曇らせないでよ」
「えっ……あ、行っちゃった」


とんでもないセリフを残し、颯爽とタクシーに乗り込んでしまった天くん。それはさながらドラマのようだと思った。
しばし呆然としていたけれど、カバンの中に入れっぱなしにしていた携帯のバイブ音でハッと我に返る。表示されているであろう名前も見ずに出ると、その相手は二階堂さん。ドキン、と胸が高鳴るのは、仕方ないことだと思うんです。だって嬉しいものは嬉しいもの。


『あ、姐さん?今日、午後休んでんだって?』
「はい。ちょっと用事がありまして…万理さんに聞いたんですか?」
『そうそう。さっき事務所に寄ってさ、その時に。自発的に取ってくれたんだよーってすげぇ嬉しそうに』
「あはは…話を切り出した時もそんな感じでした。社長共々」
『それだけ姐さんは休み取らねぇって証拠。……あのさ、用事ってもう済んだ?』


彼の言葉に思わずきょとん。でも用事は確かについさっき済んだので、素直に済みました、と返すと、今度は今いる場所を聞かれました。
いる場所と言われても、わかりやすいのはさっきまでケーキを食べていたホテルくらいしかない…駅まで20分くらいかかる距離だし、ホテル名を言ってしまうのが一番早いか。なのでホテル名を告げると、一瞬だけ空気がビシッと凍ったような気がします。あ、あれ?これはマズイことをしたか…?!


「あの、二階堂さん…?」
『色々と聞きてぇことはあるけど、とりあえず今から行く。近くにカフェある?』
「ええっと、……あ、はい。あります」
『じゃあそこにいて。あとでラビチャにカフェの名前と住所、送っといてね』
「わかりました」


1時間後に本当に現れた二階堂さんに、色々と聞かれる羽目になりました。



(別に出かけんなとか、会うなとか言わないけど…いきなりホテル名言われたらビビるから)
(すみません…目立つ建物が他になくって)
(いや、確かに有名なホテルだけどな?!…てか、俺より先に九条とデートしちゃうとか)
((二階堂さん拗ねてる?…可愛い!))
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