だって君は未成年


「そういえば、縁とは順調なのか?」


そこそこ問題も落ち着き、今まで通りの時間が戻ってきたある日。俺はお馴染みTRIGGERの八乙女とサシ飲みをしていた。そこで投げかけられた質問に、俺は焼き鳥を咥えたマヌケ面のまましっかり固まった。
いや、固まるのも仕方なくねぇ?だっていきなり姐さんとは順調なのか、って…え?マジで聞いてんの?だって俺、社長達とメンバーにしか言った記憶ないぞ?


 side:大和


いまだ焼き鳥を咥えたまま、何も言葉を発しようとしない俺を見て八乙女は盛大に吹き出したけどな。マヌケな顔だな、ってめちゃくちゃ笑ってる。酔っ払ってんのもあるのか、笑いのツボあっさいな〜コイツ。普段からこんなに笑いやすい奴だったっけ?……あ、笑いやすい奴だったわ。こんな感じだ、いつも。
てか、それはいいんだよどうでも!今大事なのは、何で八乙女が姐さんとのことを聞いてくるのかってことでだな?!でもここで下手なこと口走ると追及され兼ねねぇよな。小鳥遊事務所の関係者以外、俺達の関係を話すつもりなんてこれっぽっちもない。そんなの危険しかねぇだろ、絶対。
八乙女が記者にそれを売るなんてこと、するわけないっつーことはわかっちゃいるけどさ。それでも警戒しておくに越したことはない。こういうのは特に自分で自分の身を守らなくちゃいけねぇんだしよ。それに、…姐さんに嫌な思いをさせるのも嫌だ。


「先に言っとくけど俺と龍、2人の関係知ってるぞ。天には言ってねぇけど」
「………は?」
「覚えてねぇ?俺と龍と和泉兄と飲んだ時、お前ずっとアイツの名前呼んでたんだぞ」


いつもの姐さんじゃなくて、リアルに名前。
そう言って何でもないような顔でグイッとビールを煽る八乙女を、呆然と眺めることしか俺にはできなかった。コイツの吐いた言葉を反芻して、噛み砕いて、理解した頃には一気に酔いも醒めて血の気が引いていく。おいおいおいおい…!マジかよ、俺!てか、ミツの奴そんなこと一言も言ってなかったぞ?!うーわ、これ姐さんにバレたら本気で怒られるパターンじゃねぇか。


「八乙女さん、…マジっすか」
「マジっすわ」
「…うーわぁ、殺されるかも…」
「そんなに恐ろしい女じゃねぇだろ。項垂れちゃいたけど、怒ってはいなかったぜ?」
「……ん?」
「あ?」


ちょっと待て。八乙女と十さんに関係バレたこと、姐さん知ってんの?だってあの飲みの場にあの子、いなかっただろ。そんな俺の疑問を感じ取ったのか、八乙女はまたもやしれっとした顔で迎えに来てくれたの縁だぞ、と教えてくれましたとさ。何でも酔いつぶれた俺が、迎えはあの子がいいって駄々こねたんだと。ガキか!八乙女もそれで素直に呼ぶなよ、姐さんを!!!そんでもって来ちゃうあの子もあの子だけど!

(…いや、普通に考えたら来るか。俺達のマネージャー補佐だもんな)

来ない方が問題か、と思い直して、ビールを一気に煽った。
あー、ここまでしっかりバレちまってるんだったら隠す必要もねぇか。姐さんも隠さなかったっぽいし、八乙女の言い方だと。でも本当、教えて欲しかったなーバレてること…まぁ、あの飲みの後も相変わらず目の回る忙しさでゆっくり話す時間なんて皆無だったけど。仕事以外で顔合わせてねぇもんな、今も。


「順調って言っていいのかわかんね」
「へぇ?」
「公にできねぇ職業だろ?俺ら。なかなか気軽に会ったりできねぇし、それに有難いことに仕事もたくさんあるしなー」
「まぁ、それは覚悟の上だろ?お前も、あっちも」
「そうなんだけどなー…話す時間も皆無っつーのはさすがに堪える」


わかっちゃいたんだ。一緒に過ごせる時間なんてそう簡単には作れないだろう、ってこと。でも実際にその状況につき合ってすぐに陥ってみろよ、覚悟なんて粉々に砕け散るから。


「けど、意外だな。二階堂はもっと淡泊かと思ってた」
「俺もビックリしてる。でも考えてみりゃ、ここまで好きになったのあの子が初めてかもな…」
「ああ、『本気の恋』ってやつか」
「…お前が言うとカッコ良く聞こえんのなんで?」
「抱かれたい男ナンバーワンだからじゃねぇ?」
「うっわームカツクわー、この男」
「ははっ」


まぁ、時間は追々作っていきゃあいい。俺も今撮影してるドラマが終われば、少しは落ち着くだろうし。そこはそこまで深刻な問題ではない。
もっと深刻なのは、…姐さんに手が出せないってこと。マネージャーもだけど、あの子しっかりし過ぎててついうっかり年下だってことも、未成年だってことも忘れそうになるんだよなぁ。今はまだそこまで一緒にいることもないし、2人きりになることもないから何とかなってるけど…抱きしめるとか手を繋ぐとか、それ以上のことするのはちょっと犯罪になりそうっつーか…マズイよなってなってる。


「未成年、なんだよなぁ…」
「あ?…ああ、縁のことか。忘れそうになるよな、アイツの歳」
「おー」
「…さすがに躊躇するか、手ェ出すの」
「当たり前じゃんよ。下手に手ェ出してみろよ、クビになる可能性大だぞ」
「互いに了承してりゃいい気もするけどな」


俺もそう思わないでもないけど、当人達が良くても法律はそうもいかないだろ。誰が見てんの、って感じではあるけど!それでも俺はアイドルグループの一員だからなぁ…下手に行動できねぇんだっつーの。それは八乙女だってわかるだろ。


「じゃああと2年待つのか?」
「……うーーーーーん」
「ふはっ!本当、意外だなぁ二階堂」
「まぁ、でもさー…触れたい気持ちはあれど、大切にしたい気持ちもあんだよなぁ」
「わからないでもねぇな。本気なら尚更だ」


姐さんはどう思っているのかわかんねぇけど、少なくとも俺は本能に任せて触れたくはないっつーか…もっと雰囲気とか?そういうのも、大事にしたいって思うし。何より、今まで恋愛経験が少ないと苦笑していたあの子を怖がらせたくはないと思ってしまう。泣かせたくもないし。どうせなら笑ってもらいたいって思うから。
だったら、いつかそういう話に自然となる日まで―――…待ってみるのもアリ、かもな。そんな話をあの子とする日が来るのか、それだけは激しく疑問だけど。
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