My dreams start moving again.
あの日、ステージの上から見た光景を。今までに見てきた光景を。私はきっと、忘れることはないと思う。
―――2年後…
「あれ、姐さん?」
「おはようございます、三月さん」
「約束の時間って11時じゃねぇの?大和さんがそう言ってたけど…」
出迎えてくれた三月さんが首を傾げながらそう口にした。それを聞いて私は苦笑することもせず、ただ溜息を吐くしかできない。あの人…まーた寝惚けながらラビチャしてましたね?私はきちんと10時にお迎えに行きますので、って打ったのに。
念の為にラビチャを開いてメッセージを確認してみると、うん、10時って打ってる。良かった、間違ってなかった。11時ではないですね、とようやく苦笑を浮かべれば、三月さんはひっくい声で「あのおっさんは〜…」と呟きを零す。あー…ちょっとお怒りモードかな。
「大和さん!アンタ、時間見間違えてんじゃん!!」
「えっ?!急に何よ、ミツ」
「姐さんが来る時間!11時じゃなくて10時だってよ!!」
「うっそ?!…………あ。」
今の間は確実にラビチャのメッセージを確認していたんでしょうね。うーん、やっぱり待ち合わせの時間などを決める時はラビチャより電話の方が確実かなぁ。メッセージを残しておいた方が、後で見返せて楽だし、忘れることも間違えることもないと思っていたんだけど…そもそもやり取りをしていた時に寝惚けていたりすると、どうしようもなくなりますよね。見返すことが少ない人なら尚更。
そんなことを考えながらどうしようかな、と思案していると、バタバタと走ってくる音。そしてリビングへ通じるドアから顔を出したのは、焦った顔をした大和くんでした。
「悪い、縁!時間間違えてた!!」
「ええ、全部聞こえてました」
「あ、ですよね…リビング入って待ってて。すぐ準備するから」
「はーい」
再びリビングへ引っ込んだ大和くんを追うようにして中へ入ると、ちょうど朝ご飯を食べている四葉くんと一織くん、それからお茶を淹れている三月さんの姿があった。
七瀬くん、六弥さん、逢坂さんは朝からロケが入っていたんでしたっけ…残りの4人は貴重なオフだったはず。
「おはようございます、縁さん」
「おっはよー姐さん」
「おはようございます、お邪魔します」
「姐さん、紅茶淹れたから飲んで待っててよ。朝飯は?食った?」
「食べてきましたので大丈夫ですよ」
かき込むようにして朝ご飯を食べている大和くんの隣に座り、温かな紅茶に口をつけた。ゆっくりと染み渡っていく温かさに、ホッと息をつく。
「姐さんとヤマさん、どっか出かけんの?」
「ええ、家具を見に行くんです」
「ふーん…………えっヤマさんここ出てくのか?!」
納得したような感じだったのに、急に叫ばないでよ四葉くん。ビックリしちゃたじゃない…!彼の隣でご飯を食べていた一織くんも、突然の大声にビックリしたらしく目を大きく開いてぱちくりと瞬きを繰り返していた。うん、あの声量はビックリするよね…私もしたもの。
質問を投げかけられた大和くんは、お味噌汁の入ったお椀に口をつけたまま固まってしまっている。だ、大丈夫かな…?
「いや…俺、出ていく予定ないけど。えっ出ていけって思われてんの?」
「それはないと思うけど。姐さんが家具見に行くって言ったから、2人が一緒に住むって思い込んでんじゃない?」
「みっきー当たり!!」
「ああ、そういう…一緒に住む予定もないよ。縁が一人暮らしするらしいから、それで」
そうなんです。つい先日、私と紡くんは無事に20歳の誕生日を迎え、成人したんです。私は成人したら実家を出ようとずっと考えていて。気に入った物件も見つかったので、あとは引っ越しの日を迎えるだけなんですよ。
ベッドやチェストは今まで実家で使っていたものを持っていくつもりだったんですけど、お父さんと紡くんにこっちに帰ってきた時に寝る場所なくなっちゃうでしょ!と力説され、チェストや本棚はともかく…ベッドだけは新調することにしたんです。まぁ、小学校高学年くらいから使い続けてきたものだったから、買い替えるにはちょうどいい機会かなって思ったのもあるので。
なので、ベッド探しを大和くんにつき合ってもらうことになったのです。ついでにデートしよう、と言われました。相変わらず、さらっとそういうことを言えちゃう人のようだ。
「一人暮らし…するんですか?」
「成人したら出ようって決めてたんです。何かあったわけじゃありませんよ」
「そう、ですか。…それでどの辺りに?」
「最初は事務所の近くにって思ったんですけど、即座に却下を食らったのでここから車で20分程のアパートです」
あはは、と苦笑を漏らせば、リビングにいた全員が「そりゃ却下するわ」と深く頷いていらっしゃった。え、そんなにダメですか?だって出勤するの楽じゃないですか。
「この辺りで一人暮らしって…実家出る意味あんまりないじゃん。ここから縁の実家までそう遠くないだろ?」
「それに姐さんってただでさえワーカーホリックなのに、事務所まで徒歩圏内の所に引っ越したら余計に残業増えそう」
「言えてる」
「絶対に残業増えますね。断言しましょう」
「…皆さんの言い草ひどくないですか」
少し冷めてしまった紅茶を口にしながらぼやいてみたものの、全員でひどくない。って首を横に振りやがりました。何かもう色々と解せないんですけど。とはいえ、反論した所で無駄なような気もしているので…このまま黙った方が得策なのかもしれない。むう、と唇を尖らせながらも、大人しく紅茶を飲むことにした。
まったりした時間が流れる中、食べ終わったらしい大和くんが食器をシンクに置いてバタバタとリビングを出ていきました。もう今更なのでそんなに急ぐこともないのに。そう声をかけたとしてもきっと、大和くんは急いで準備をしてくれるんだろうなぁ。
出会った頃と比べると、大分素直に感情を出してくれたり、色んな表情を見せてくれてちょっと楽しい。大部分を知ったつもりでいましたけど、まだまだ知らない部分があるんだなって今でも思う。それを見つける度に嬉しくなってしまうんだ。
「お待たせ。行こう」
「あ、はい。三月さん、紅茶ごちそうさまでした」
「いーえ。むしろ、大和さんがごめんな」
「ちょっとミツ…」
「ふふっ平気です。案外、待つのも楽しいですから」
クスクスと笑みを零せば、大和くんにジロッと睨まれてしまいました。でも怖くありませんよー。
「んじゃいってくるわ」
「おー、いってらっしゃい」
「お邪魔しました」
何故か総出で送り出してくれた皆さんにお辞儀をし、私達は寮を後にした。
ドアを閉めて振り返れば、大和くんがおもむろに右手を差し出してくる。つき合い始めの頃の私だったら、これがどういう意味なのかわからなくて首を傾げるばかりだったと思う。でも今は、それもちゃんと理解できるんです。
彼の右手に左手を重ねれば、そっと指を絡められてくすぐったいような、嬉しいような、ドキドキするような…不思議な気分。だけど嬉しいが一番強いのかな?だって顔が勝手にニヤけてしまうから。
「大好きですよ、大和くん」
照れたように笑う彼を見て、私もまた一層笑みを深くする。