プレゼントはいくつまで?
「綴くん!」
聞き慣れた声で名前を呼ばれて、思わず足を止める。振り返ると、そこにいたのはやっぱり東雲さんだった。
「お疲れっす、東雲さん」
「うん、お疲れー。ねぇ、今時間ある?」
大学内で会うことはそうそう珍しいことではないけれど、こんな風に時間はあるかって聞かれるのは珍しい気がする。用事がある時は大体、寮にいる時に声をかけられる方が多いし…何か困ったことでもあったのか、と思ったけれど、東雲さんは特に困った表情を浮かべているわけではなかった。どちらかというと、楽しそうな感じか…?
ますますわからなくて、用事に見当もつかなくて首を傾げてしまう。まぁ、自分で無理に正解を探さなくともすぐに彼女が説明してくれるんだろうけれど。気になるものは気になるから、考えちゃうけどな。
「時間はまだありますけど…」
「じゃあ、ちょっとお昼につき合ってほしいな」
「はい…?」
昼?昼メシってことでいいのか?
歩き出した東雲さんの後を追いかけていくと、辿り着いたのは食堂。ああ、やっぱり昼メシにつき合って、ってことだったのか。でもいいのか?俺で。伏見さんや友人ではなく。
ぼそりと呟いたそれは、この喧騒の中でもしっかり東雲さんの耳に届いていたらしく、くるっと振り向いた彼女はにっこり笑って「君でいいじゃなくて、君と食べたいんだよ」と言った。
「東雲さんってよく伏見さんや監督のことを人タラシって言ってますけど、」
「うん?」
「あんたも十分人タラシだと思うっす…」
「ええ?急になんだよ、綴くん」
あの2人の方がタラシでしょーよ。ってジト目で俺を見てくるけれど、いやいやあんただって十分とんでもねーと思います。俺からしてみれば。
「ま、それはさておき。綴くんは何にする?今日は奢ったげる」
「えっ?!いいっすよ、自分で払うんで…!」
「だって今日って君の誕生日でしょ?そのくらいさせてよ」
にんまりと笑った口元。そう言われてしまったら、これ以上は断りづらい…あまりにも拒否し続けるのも失礼になるだろうし。でもすんなりお願いします、ってするのも何だか申し訳なくて、眉間にシワが寄る。
そんな俺を見て東雲さんは、楽しそうにクスクス笑っているけれど。笑い事じゃないっすからね?
「ほらほら、選ばないと私のオススメにしちゃうよ?」
「ええ…時々、めちゃくちゃ横暴っすよね…」
この人なら本当にしかねない。
「じゃあ…日替わりで」
「ん、リョーカイ」
あ、本当に俺の分まで会計したわ。半信半疑だったとか、そういうわけじゃないけど…東雲さんってこういう嘘は絶対つかない人だし。でも実際に目の当たりにして、改めて実感したというか…そんな感じだった。
誕生日だから、と子に人は言ったけれど、今日の夜に開かれる予定の俺の誕生日パーティの料理やケーキを作ってくれるのは、伏見さんと東雲さんだ。
それはどの団員の誕生日でも変わることがない。それがもうすでに立派な誕生日プレゼントになっているのに。だから本当はこんなことまでしてくれなくても、俺は十分もらっているんだ。
でもそう言った所できっと、自分がしたいからしているんだって笑うんだろうし…譲れないんだ、と言い包められてしまうんだろう。伏見さん曰く、気を許した相手にはとことん甘くなるというこの人相手では。東雲さんはそういう人だ、と短いつき合いながらも少しずつ理解してきている。
言うだけ無駄なんだろうけれど、それでも悔しい気持ちがないわけではないし…甘やかされることに慣れていなくて、言い返してしまうんだ。それすらも楽しそうに笑うんだけどな!この人!
「東雲さんには敵わないっすよねぇ…」
「そんなことないでしょ。私以上に食えない人ばっかりの劇団で、脚本家として、役者として生きているクセに」
「それとこれとは別っすよ」
「ええ?そんなことないと思うけどなぁ」
昼メシを食い終える頃には、食堂は大分人が少なくなっていた。時間を確認するともうすぐ講義が始まる時間で、そりゃ人も少なくなるわけだ。そういえば東雲さんは次は空きなんだろうか?
向かいに座っている彼女へ視線を向ければ、特に焦った様子もなくリュックの中をごそごそと漁っている。何か探し物か?
「探し物っすか?」
「ん?うん、これをね、探してたの」
はいどーぞ。と手渡されたのは、ラッピングされたカップケーキ。んん?何で急にカップケーキ…?
「臣くんと一緒に作ったものだから、味の保証はするよ。大丈夫!」
「いや、そこは全く心配してませんけど…」
「誕生日プレゼントその2です」
「その2?!」
「そう。その1はこのお昼で、それがその2だよ」
いやいや、ちょっと待ってください?!あんた、いくつ準備してるんです?
さすがにこれ以上はもうないですよね…?!って、恐る恐る尋ねたら何も言葉は返ってこず、ただにっこり微笑まれただけだった。それはもうめちゃくちゃいい笑顔だった。
言葉にはされなかったけれど、これはきっと間違いなく―――その3があるんだろうな、と察してしまう。
「どう返したらいいんですか、俺…」
「見返りが欲しくて渡してるんじゃないってことくらい、わかるでしょう?」
「それでももらってばかりじゃ嫌に決まってるじゃないっすか…!」
絞りだした必死過ぎる言葉にも、彼女は楽しそうにあははと笑うばかりで。知り合いが楽しそうに笑っているのを見るのは決して嫌いではないけれど、今日ばかりは恨めしく思ってしまう。
絶対、この分はきっちり返してやる。
(ほんっとうに3つ目あるし…)
(綴、主役が眉間にシワを寄せてどうしたんだ?)
(伏見さん…あの人の人タラシっぷりどうにかならないっすか…?)
(ああー……諦めてくれとしか…)
(幼なじみ兼恋人の伏見さんでも、匙投げるんすね…)
(気を許した相手にはとことんだから、どうにもならないんだよ。無意識だしな、あれ)