会いたいのに、会えない
MANKAIカンパニーの寮にお世話になるようになって、臣くんと恋人になって、彼とこんなにも顔を合わせない期間が長くなったことはないと思う。つき合う前はね、私が避けてたこともあったけど…いや、つき合い始めもあったな。でもここまでじゃなかったはず、うん。
何でそんなに顔を合わせていないかと言いますと、臣くんも私も卒論だったり、カンパニーの公演の準備だったり、その他諸々で割と忙しい時間が続いているからである。いや、同じ寮に住んでいるわけなので全く顔を合わせていないわけではないんだ。朝食の時には顔を合わせることも多いけど、そんなにゆっくり話せる時間を作れていないんだよねぇ。
だから正しくは『顔は合わせてるけど、2人の時間がない』って感じです。
無理矢理に作れればいいんだろうけど、今のスケジュール状態ではなかなかに難しいんだよなぁ。かと言って、臣くんに無理をさせたくはないし…せめて忙しいのがどちらかだけなら、まだ良かったんだけど。
「ゆっくり話す時間がないことがこんなにキツイとは思わなかった…」
「大分キてるねぇ、しの。珍しい」
「高校時代だって会わない日くらいあったし、話さない日だってあったのに…」
「その時とは状況が違うじゃない。今は相思相愛でしょう?貴方達」
ぐでん、と机の上に伏せた状態で呟けば、隣で卒論で使う資料を読み込んでいる千鶴が苦笑してそう言った。
曰く、片思いであった高校時代と両思いである今では、状況や気持ちが違うだろうって。言われてみれば…そうなのかも?片思いの時だって話したいなぁ会いたいなぁと思いはするけど、確かにちょっとだけ状況は違うのかもしれない。大分参っていてちゃんと理解できていない気もするけど。
「構内ですら会えてないの?」
「会えてないねぇ…図書館に行けば会えるかもだけど、そんな余裕ないのが現実」
「それもそうか。伏見くんだって卒論に追われてるって話だもんね」
卒論だけでなく、まだレポートだったり試験だったりもあるからねぇ…プラス就活とか。
サークルはこの前卒業公演を無事に終え、4年は引退したけど写真部はどうなんだろうな。まだ活動してたり、…さすがにないか…?そこまで聞いてないからわからないけれど。
「カンパニーはこの前夏組が終わったばかりだから、脚本の準備・執筆期間に入るけど…」
「次は秋組だから、自主練やらも始まるねぇ」
「そうなんだよ。その前に時間作れればと思うんだけど…」
別に無理に時間を作って話をする必要はないんだろう。つき合っているとはいえ、お互いのプライベートを優先させるべきだとは思ってるし。それらを全部蹴って私に時間を割け、なんてことは言わないし、言いたくもない。
でも―――なら寂しくないか、と問われたら、それはまた別の話。聞き分けのいいフリ・物分かりのいいフリをしてはいるけど、寂しくないわけがない。理由とかは特になく、『私が臣くんに会いたくて、話がしたい』の。ただそれだけで、言うなればわがままみたいなものなんだろうね。
会わなくても、話さなくても死にはしないよ?生きていく為に必要なエネルギーではないからね。でもきっと、心は段々とすさんでいくと思うんだよね。まぁ…他人からすればそんなこと知ったこっちゃねぇ!だと思うけども。
「話したいなー…」
「案外寂しがりだったんだね、しの。そういうの口に出せるようになって安心したよ」
「そんなに言わないっけ?私…」
「しのはあんまり人に頼ることしないでしょ。無意識に避けてる節があったし…伏見くんとつき合い始めてからは、ちょっと変わったけど」
「そうかなぁ…」
千鶴はそんな風に言って笑ったけれど、自分ではよくわからないというのが本音。人に頼っていないつもりも全然なかったんだけど…臣くんが甘やかすから、割と甘えただぞ?私。
でも臣くんに見せる私と、千鶴達友人やカンパニーの仲間に見せる私では…少なからず違う部分があるのかもしれないとはちょっと思った。昔はそんなことなかったかもしれないけれど、今は―――臣くんとの関係性は、変化しているから。そこまで考えて私はリュックに顔を埋めた。千鶴がびっくりするくらいの勢いで。
だってさぁ…臣くんと会えないなぁ、会いたいなぁ、話したいなぁとか考えてたら、余計に会いたくなったとかバカじゃないの?っていうね!!余計に寂しい気持ちが膨らんで、ダメージが増加したわ私のバカ野郎。完全に自業自得なので、どうしようもないんだけどさ。本当なにしてるんだろう、私ってば…。
こういう時、同じ学部だったらもう少し会えたり話したりできていたんだろうか…まぁ、同じ寮で暮らせているだけ幸せだと思うけども。私の場合。
「しの、先生来たよ。起きな」
「はーい」
ひとまず、講義に集中しなければ。この講義の単位を落としてもギリギリ卒業はできるけれど、ギリギリは怖いからね。リュックの中から必要なものを取り出し、頭を切り替えた。