気分転換をしよう!


卒論とのつき合いはしばらく続くけれど、最後の課題を先ほど提出したのでこれでようやく課題地獄から解放された…!
臣くんに連絡をしてみたら、どうやらあっちも今日無事に卒論以外の課題が全て完成し解放されたらしいです。

「お、お疲れ。はる」
「臣くんもお疲れ様!もう帰れるの?」
「ああ。もう講義もないしな」
「こんなに明るい時間に大学出るの久しぶり…」
「俺もだ。…せっかくだし、寄り道していくか?」

時間はまだ夕方にもなっていない。疲れは残っているものの、この解放感をそのままに寮へ帰るのはちょっとだけもったいない気がする。
寮で臣くんとゆっくりするとか、凝った料理を作るとか、お菓子作りをするっていうのも魅力的ではあるが…せっかく明るい時間に帰れるのなら、少しばかり恋人らしい時間を過ごしたいと思ってしまう。
ああでも遊びに行くのもいいけれど、今日はカフェでゆっくりお茶でもしたい気分だな。その後、一緒に買い出しをして―――一緒に料理をしたい。

「カフェ行って、買い出し行きたい。それで夕飯は一緒に作ろ」
「そんなことでいいのか?」
「いいの。臣くんと出かけること自体、久しぶりなんだもん。料理だってそうでしょ?」
「まぁな。正直、作りたくてうずうずしていた所だ」
「ふふっ気分転換にもなるしねぇ」

自然と絡まる指。大好きな人の自然な笑顔。
何でもない、当たり前のような光景が改めて大事だなぁと思ってしまった。これもきっと、大学を卒業してしまったらなかなか難しくなるんだろうなぁ。今回のようなことがもっと長い期間続くことだってあるだろうし、…そんな時、私は大丈夫なのだろうか。
思った以上に臣くんと話す時間がないのは、精神的にやられてしまうということに気がついてしまったのに。まだ先のことだ、と思いたいけれど、その瞬間は刻一刻と近づいてきている。

「はる?どうかしたのか?」
「ううん、何でもない―――行こ、臣くん!」
「おっと…!急に走ると転ぶぞ!」

色々と考えなくちゃいけないこととか、やらなくちゃいけないこととかたくさんあるけれど、今日は、今日だけは全部忘れてしまいたい。それを人は現実逃避と言うのだけれど。





「ん、美味い」
「もう少し甘いのかと思ってたけど、そんなこともなかったね」
「だな。甘さがちょうどいい」

少し前から新しいドリンクが始まった、とどこかで見かけて気になってたんだよね。課題を全部終わらせたら絶対行こうって決めてたから、嬉しい。臣くんと一緒に来ることもできたし。
ドリンクを飲みながら話題にのぼるのは、今日の夕飯の献立だったり、気になっているお店のことだったり、作ってみたいお菓子だったり…きっと他愛のない話なんだろうけれど、ここ最近はずっとパソコンや本とにらめっこしていることが多かったからこういう何でもない会話がすごく嬉しかったりする。自然とニヤけてきちゃうよね。
課題以外の話をするのだって、実は久しぶりだったりするし。友人達との会話もずーっと課題や卒論に関することだったしねぇ…余裕がなかったんだと思う、他愛のない会話をする。

「…手の込んだ料理が作りてぇ」
「気持ちはわかるけど、…あ、でも今日はまだ時間に余裕あるか」
「これから買い出しして仕込みしても、ギリギリ間に合うと思うんだ」
「ロールキャベツ食べたいし、作りたい」
「ああ、いいな。確かひき肉の安売りしてたよな…」

よく覚えてるね、あんた。
私も買い出しに行く時は特売のチラシをチェックするようにはしてるけど、あとでどこのお店だったっけ?ってド忘れするんだよね…メモすれば一発解決するのはわかってるんだけど。何となく覚えた気になって出かけちゃうんだよねぇ。

「ロールキャベツとサラダとー…」
「もう1〜2品欲しい所だよな。あとスープとか」
「そうだね。何がいいかなぁ…」

こうやって何を作ろうか、と考えるのも久しぶりで、何故かワクワクしてきた。ずっといづみさんと綴くんに朝と夜の当番をお任せしっぱなしだったから、しばらくはお休みさせてあげたいなぁ。
何より臣くんも私も、料理が気分転換になるので作りたいのだ。作らせてください、と土下座してもいいくらいだったりする。驚かせてしまうだろうから、そんなことしたりしませんけれども。

「あと何かデザート…」
「臣くん、臣くん。ストレス溜まってるのはわかってるけど、さすがにそこまでの時間はないからね?」
「…イケるかなって」
「同時進行してもいいけど、多分すごいことになるからやめとこ」

夕飯の香りとお菓子の甘い香りが混ざると、多分気持ち悪くなっちゃうから。そっちはまた後日にしましょう。まぁ、今日みたいに時間がある日があとどれだけあるかはわからないけれど…さすがにここしばらくの忙しさを越えることは、そうそうないと思うし。お菓子は私も作りたいし、何とか時間捻出しよ。
珍しく眉間にシワを寄せて、どうにかならないかと考え込んでいる臣くんの頭を撫でれば、きょとんとした顔をされてしまった。ふふ、その顔可愛いなぁ。

「なんだ、急に…」
「せっかくひと段落したんだから、そんなに眉間にシワ寄せないの」
「…そんな顔してたか?」
「してたよ。悪人顔とまではいかないけど、それなりに険しい顔」

そんな顔もカッコ良くて、私は好きだけれど。恥ずかしいから言葉にはしないけどね。
さて、今日の夕飯の献立も決まったし…あとは買い出しをして帰ろうか。もう少し寄り道していってもいいんだけど、臣くんも私も手の込んだ料理を作りたい気分なので、あまり遅くなってしまうと準備が間に合わなくなっちゃうし…何より、いづみさんや綴くんが寮にいた場合、もう夕飯の準備を始めてしまっている可能性もあるから。できればその前に寮に帰っておきたい所である。

「…なぁ、はる」
「んー?」
「忙しいの承知で聞くけど、週末どっちか空いてるか?」
「週末?今の所、何も用事はないよ」
「じゃあ何処か行かないか?バイクで」

珍しいお誘いにちょっとだけ固まってしまった。しかもバイクで出かけるなんて、本当に久しぶり。彼がまたバイクに乗るようになって、何度か後ろに乗せてもらって出かけたけれど…回数はそんなに多くない。十座くんや丞さんとツーリングに行く方が、きっと断然多い。
でもそれでいいと思っていたし、楽しそうにバイクに乗っている臣くんを見るのが好きだから、寂しいとか悲しいとか感じてはいなかったけれど―――これはちょっと、嬉しいかもしれない。
私が返事をしないまま固まってしまったから、こっちを見つめる臣くんの瞳が僅かに不安で揺れていた。あ、ごめん…違うの、嫌ではないんだ決して。嫌だから返事もせずに黙り込んでいるわけではないです。うん。

「いいよ、行こ」
「……黙り込むから断られるかと思った」
「ごめん、ごめん。バイクで出かけるの久しぶりだなぁ、って思っただけだよ」
「そうだったか…?」
「うん」

バイクで出かけるならちょっと遠出するのもアリかなぁ。きっと週末なんてすぐにやってくるから、行く所は早めに決めておきたい。でも行き当たりばったりで出かけるっていうのも、結構好きなんだよね。
気になった所へフラッと寄って、ぶらぶら散歩ついでに散策したり。臣くんと一緒なら、何処に行っても楽しいもん。絶対。それだけは自信があるからなぁ。

「海とかいいなぁ」
「まだ泳げないだろ」
「泳ぐのが目的じゃないからいいんだよ。なんかバイクで出かけるってなると、海のイメージなんだよねぇ」
「ははっそうなのか?」
「そうなの」

久しぶりのデートの計画をしながら、飲み物片手に立ち上がる。空いている手は自然と繋がれて、…その温かさがくすぐったくて、でも嬉しくて自然と頬が緩んでいく。
ああ、やっぱり臣くんの隣が一番心地良くて、落ち着く場所だ。


(あっ臣クンとはるチャン忙しいの落ち着いたの?!)
(みたいだな。張り切って作る、って言ってたぞ)
(2人が並んでキッチンに立ってるの、久しぶりに感じるッス)
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