わたしのおと


―――遥が作る『いろ』は綺麗だな
―――いつか、お前も俺みたいに紡ぐようになってくれるのかな
―――その時は、一緒に…


「―――…夢……?」

ずいぶんと懐かしい夢を見た。小さい頃の、…お父さんがまだいなくなってしまう前の、幸せだった時の夢。今だって決して幸せじゃないわけではないけれど、でもずっと消えない。『どうして』って思う気持ちが。どうしていなくなってしまったのか、どうしてお母さんと私を捨てたのか、どうして…そんなことを考えたって、誰も答えなんてくれないのに。
私が演劇に、そして舞台音楽に興味をもったきっかけはお父さんだと思う。記憶はもう朧気だけれど、MANKAIカンパニーの舞台とその舞台上で流れている音楽に圧倒され、幼いながらにも感動して、すごいすごいと興奮しっぱなしだったと…お母さんが教えてくれた。やっぱり貴方はお父さん似なのね、と嬉しそうに笑いながら。
でもその言葉はきっと、当たっているんだろうなってまるで他人事のようではあるが、思っている節はある。だって今私は、お父さんと同じように演劇用の曲を作っているから。独学だし、見様見真似で作っている音だから、まだまだ拙いものだと思う。それでも作ることを楽しいと思えたし、もっと上手くなりたいと思っていたりも…する。いつか、いつか戻ってきてくれると信じているお父さんと一緒に曲を作る為に。





「MANKAIカンパニーです!よろしくお願いしまーす!」

改札を抜けた先で聞こえた声に、思わず立ち止まってしまった。MANKAIカンパニーって確か…お父さんが作曲家兼音響監督として所属していた劇団だったよね?風の噂で衰退したとか、色々聞いていたけれど、また活動を再開したのだろうか?
声を張ってフライヤーを配っている子は、まだ学生のように見える…そんなにハッキリ覚えているわけではないけれど、それでもあの時見た舞台にこの男の子は立っていなかったと自信をもって言える。ということは、新しい劇団員ってことなのかな。何となく興味が湧いて、もしかしたら―――お父さんの手がかりがあるかもしれない、と一縷の望みを抱いて、配られているフライヤーを受け取った。

「ありがとうございます!今度、公演をやるんです。良かったら観に来てください!」
「チケットって、今買えますか?」
「はっはい!もちろんです!!」

わたわたとしてしまった男の子に申し訳ないと思いつつも、何だか可愛くてくすくすと笑みを零してしまう。そんなに慌てなくても大丈夫だよ、と声をかけると、ありがとうございますと言いながら照れ臭そうに笑った。千鶴と橘くんも誘おうかな、と思い立って、ほぼ衝動的にチケットを3枚購入。
2人の予定を聞かずに買ってしまったけれど、まぁ…その時はその時だ。事情を説明して日付を変えてもらえるか確認して、大丈夫だったら3回観に行くことにしよう。傍迷惑な客になりそうな予感がして、苦笑が漏れるけれど…勝手に買ってしまったのは私だしね。
演目は『ロミオとジュリアス』…?何か聞いたことのあるようなタイトルだけど、オマージュ作品なのかな?どんなお話しなのかちょっと楽しみかもしれない。

この時は予想もしていなかった。まさかMANKAIカンパニーと深く関わることになるなんて。
- 89 -
prevbacknext
TOP