運命の出会いだったのかもしれないと、今では思う


高校時代、そして現在入っているサークルの先輩や同級生には、劇団に所属している人が多くいる。役者だったり、裏方だったり…その関係か、劇団のお手伝いの話がよくくるんだよね。設営の準備だったり、公演中の受付の手伝いとかその他諸々。その縁がまた違う縁を結んで、今では時々曲を作ってもらえないかってお話も頂くようになった。
有難いお話ではあるんだけど、私はプロの作曲家というわけではないので…有難い半分申し訳なさが込み上げてきてしまう。先輩や同級生達は「貴方の実力だよ」って言ってはくれるけれど、本当の所はわからない。少なからず興味を持って頂けているのかな、とは思うけれど。うん。その辺はね少しだけ、本当に少しだけだけれど自信はついてきたように…思わなくもない。
うーん、とそんなことを考えながら歩いていたもんだから、罰が当たったのかもしれない。誰かとぶつかってしまい、バサリと何か落ちる音がした。

「わっすみません!!」
「こちらこそ!考え事してて、ちゃんと前を見ていなかったので…すみません、お怪我とかないですか?」
「大丈夫ですよ!怪我とかは全然、なにも」

それは良かった、と密に息を吐いた。落ちてしまったものを拾い集めながら、幼なじみにいまだに「歩く時は前を見ろ、考え事をしながら歩くなってって言ってるだろ?」って言われることを思い出した。はい、すみません…気をつけてはいるものの、完全に今やらかしたもんなぁ。こういう所、いつまで経っても成長しないって思ってしまう。
最後の1枚を拾い上げて顔を上げると、そこには綺麗な女性がいた。ぶつかってすぐ床に落ちてしまったものを拾い始めてしまったから、顔を見ていなかった。この女性も私と同じくお手伝いに来ている人なのだろう。でも、…なんだろう?初めて会う気がしないような…?

「本当にすみませんでした。多分、これで全部だと思います」
「こちらもちゃんと見ていなかったので、…ありがとうございます。お手伝いの方ですよね?」
「あ、はい。知り合いに頼まれて…」
「私もこの劇団の主宰の方に頼まれたんですよ。あっ立花いづみと申します!」
「東雲遥です。よろしくお願いします、立花さん」

たちばないづみ……あ、もしかして昔―――少しの間、一緒に遊んでくれたお姉ちゃんか?よくよく見れば、あの時の面影が薄っすらとある気がする。この感じだと、きっと私のことは覚えていないのだろう。私自身もあの時の話を自分からする気もないし、別にいいだろう。関わることなんてそうそうないだろうし、とこの時は思っていたし、実際連絡先を交換したとか、意気投合して話をしたとか、仲良くなったとかではなかったから。
でも一度結ばれた縁は続くものだ、と実感したのは、お手伝い先で5回連続で立花さんと遭遇したことだった。さすがにそこまで会うとお互いに笑ってしまうよね。偶然って重なるものだし、そんなに大層なことではないのかもしれないけれど。何となくそれがきっかけでよく話すようになり、連絡先も交換した。そして彼女がMANKAIカンパニーの総監督だと知ったのも、その時である。
ものすごい偶然だな、とビックリしてしまって思考回路がショートしたのか、知り合って間もない彼女にお父さんが昔、作曲家兼音響監督として所属していたんですーって話してしまった。もう8年ほど前の話だし、立花さんが私のお父さんを知っているはずもないのに、つい―――口を滑らせてしまった。でも立花さんは「私の父と同業者だったんですね」と、少しだけ苦しそうな笑みを浮かべている。
何でも彼女のお父さんはMANKAIカンパニーの創設者であり、初代総監督だったそうな。今は、行方知らずなんだそうだけれど。

「そう、だったんですね…」
「父の手がかりが見つからないかな、って…ここまで来たんですけど」

似ている、だなんて…そう思ってしまうのはきっと失礼なことだ。
でも、それでも思ってしまったんだ、彼女と私はどこか似ているって。言葉にして伝えることは、一生ないだろうけれど。

「あの、もし良ければなんだけど…名前で呼んでもいい?」
「大丈夫ですよ。あと多分、立花さんの方が年上だと思うので…敬語も」
「じゃあお言葉に甘えて…遥ちゃんって呼ばせてもらうね!遥ちゃんも私のこと名前で呼んで」
「いいんですか?」
「もちろん!」
「…それなら、いづみさんって呼ばせてもらいますね」
「改めてよろしくね、遥ちゃん」
「はい、よろしくお願いします」

この後、いづみさんとお手伝い先で顔を合わせることは少なくなっていた。もしかしたら劇団の方が忙しいのかもしれない、と思っていたら、彼女から話したいことがあると連絡が。噂をすれば何とやらだなぁ…ちょうど時間が空いていたので大丈夫ですよ、と返信をすれば、早速と言わんばかりに明日の夕方16時に駅前でと返ってきました。
これは…もしかしなくとも、急ぎの用事だったりするのだろうか。でもいづみさんが私に頼みたいことがあるとは思えないし、話したいことって何だろう?考えてもわからないし、明日になれば答えはわかるんだから考える必要もないんだけれどもさ。気になるものは気になるよね、人って。
そして翌日の夕方、駅の近くのカフェで顔を合わせたいづみさんはやけに真剣な顔をしていて、何だか緊張してきてしまう。え、本当に何を言われるの?私。もしかして知らず知らずのうちに何かしてしまって、彼女を傷つけてしまったのだろうか?そんなことを考えていたら、いづみさんが口を開き―――私は、絶句。

「遥ちゃんに、曲作りをお願いしたいの」

そんなことを言われるとは、全く、これっぽっちも予想をしていなかったぞ。
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