充電という名の栄養補給
「じゃあおやすみなさい、臣くん」
「―――…はる」
就寝の挨拶をして階段を上がろうと足をかけた時、名前を呼ばれてグッと腕を引かれた。私はそのまま体制を崩して、臣くんの胸へダイブ。そしてそのままギュッと抱きしめられてしまった。
おっと?珍しいこともあるもんだな…何となく暗黙のルールみたいなものが私達の間にはあって、共有スペースでは必要以上にくっつかないようにしてたんだけども。もう皆が部屋に戻った後なら、私もこんなこと考えないけど…まだ談話室にいるんだよな〜左京さん達が。
つき合っていることを隠しているわけでもないし、別段悪いことをしているわけでもないのだけれど、まぁ…わかりやすくベタベタくっつくのも学生の教育的にもよろしくはない。あと単純に見たくないでしょ、他人がベタベタくっついている所なんて。―――それなのに、どうしたんだろう?お腹に回されている腕をぽんぽんと優しく叩けば、少しだけ緩められた。力は緩められたものの、腕は回ったままだから離れることはできない。いや、離れたいわけではなく私も抱きしめ返したいだけなんだけど。
何とか体を捻って抱き着けば、臣くんの体がビクリと僅かに揺れた。
「あー…悪い。嫌だとか、そういうことじゃなくて単純にビックリしたというか…」
「―――臣くんさぁ、明日の朝食当番だったっけ」
「………うん?」
会話が噛み合ってない、と言いたげな戸惑った声。その声が可愛くて、抱き着いたままそっと笑みを零す。
「明日は…確か綴が朝食当番だったと思うけど」
「じゃあもう少し夜更かししても大丈夫かな…こっち来る?」
さすがに熟睡しているであろう太一くんがいる105号室にお邪魔することはできない。中庭で話してもいいけど、さすがにまだ夜は冷えるしね。それに談話室に戻るという手も使えないので、消去法でいくと私の部屋にお招きする他ないのですよ。
「私ももう少し臣くんと一緒にいたいから」
「―――…行く」
呟くように零れ落ちた返事は、しっかりと私の耳に届いていた。にんまりと笑みを浮かべ、臣くんの手を握って階段を上る。
鍵を開けて部屋に入れば、電気をつける間もなくまた抱きしめられ、唇を塞がれた。さすがにビックリして顔を逸らそうとしたら、後頭部を押さえつけられて逃げることすら許されない。うん、ちょっと待って…!
「はっ…ん、ぅ、ぁ、おみく、」
「悪い、もう少し―――…もう少しだけ、」
欲を孕んだ蜂蜜色の瞳に見つめられると、胸の奥がぎゅうっとなって、何も言えなくなっちゃう。落とされる唇にただ委ねるだけ。
「…は―――――……」
「ちょっと、溜息つかれるとさすがに傷つきますが?」
「はは…ごめん、何と言うか…落ち着くな、と思って。悪い意味でも何でもないから」
「…そう」
いきなりごめん。でももう少しだけ、充電させて。
そんな可愛いことを言うなんてズルイと思うんだよね。でも私も充電したいのは一緒だから、今日は許してあげる。すぐ後ろがベッドなのを確認してから、くっつき虫になっている彼を引っ張って後ろに倒れれば、珍しくビックリした声が聞こえた。
ビックリさせてごめんだけど、あのままの体制は結構キツイんですよ。ベッドに寝転んでしまえば、お互いに楽でしょう?
「危ないだろ…!怪我したらどうするんだ、お前」
「ちゃんと後ろがベッドなのを確認してからやったし、そんなヘマするわけないでしょーが」
「その辺は信用ないんだよなぁ…」
何ですと?!
あまりな言い草にベシッと頭を叩けば、臣くんは叩かれているにも関わらずくつくつと笑っている。叩かれて笑うとか…この人、実はMだった?まぁ、別にSでもMでも臣くんに変わりはないからどっちでもいいんだけれども。
「……やべ、眠くなってきた…」
「お風呂入って、ご飯も食べたし、心配事がひとつ片付いたからねぇ」
「ああ、……」
「臣くん臣くん、抱き枕にしていいからもう少しだけ頑張って。お布団かぶってください」
「んー……」
もぞもぞと布団の中に入ったのを確認してから、私も隣に潜り込めば今度はゆるりと抱きしめられる。力はさほど強くないけれど、身動きはとれなさそう。だけど私ももう眠いし、逃げるつもりもないから…まぁいいか。あったかいし、久しぶりに感じる臣くんの体温はとても心地良くて落ち着くから。
あっという間に眠りに落ちた臣くんに擦り寄って、私もゆっくりと目を閉じた。