お揃いという名の虫除け
翌朝になっても「証を嵌めたい」という私の発言は、酔っ払いの戯言だ、と片づけられることはなかった。
というわけで、私達はお揃いの指輪を買う為にショッピングモールへと来ています。婚約指輪とか結婚指輪ならちゃんとしたジュエリーショップに行くべきだけど、私達のはそういうものではないので…とりあえず、ショッピングモールに行けば何とかなるのでは?という安直な考えで今に至ります。
普段、アクセサリーなんてほとんどつけないからなぁ…どういう所に行けば買えるのかとか、よく知らないんだよね。臣くんにも聞いてみたけど、今までの経験の中でそういうものを贈ったことがないと苦笑いされて終わり。
お互いにあまり知識がなかったよ、うん。
「あ、あそこ指輪売ってるよ」
「じゃあ見てみるか」
「うん」
フラッと立ち寄ったお店はアクセサリーショップだったようです。でも価格はそこまで高くなくて、リーズナブルかも。これならまだ学生である私達でも手が出せそうな値段だ。
正直な所、臣くんとのお揃いであるならどんな安物だって嬉しいんだよね。それこそ小さい頃にお菓子のオマケとかについてきた指輪とかでも。ポロッとそんなことを臣くんに言ったら、さすがにそれは入らないからダメって言われてしまったけど。
うん、まぁそうだよね。子どもの為のものだからなぁ、あれ…私達の指には到底入らないと思う。多分。試してみないと何とも言えないけど、臣くんは確実に無理かな。がっしりとした大きな手だし、節々もしっかりしてるしねぇ。
「色んなデザインがあるんだな…」
「みたい。嵌めるならシンプルなものかなぁ」
「そうだな、この辺りなんていいんじゃないか?」
臣くんがこれ、と指をさしたのは、十字の形に掘られた溝の真ん中に小さな石が嵌めこまれている指輪。シンプル過ぎないし、嵌めた感じもいいな。他にも流線形のものだったり、綺麗に並べられたビジューが印象的な綺麗なものだったり、臣くんの言っていた通りデザインが豊富なんだよね。
んー…私個人の好みとしては細めのものがいいかな、って思うけど、彼の手に合うデザインだともう少しゴツめというか、太めのものの方がしっくりきそう。この中だったら一番最初の、臣くんが見つけてくれたデザインが一番いい感じかもしれない。
まぁ、私だけで決めてしまっても意味がないので、そこは要相談だな。これは?って聞いてきたってことは、きっと彼も気に入ったのだとは思うけど。
「同じようなアクセサリーショップはまだあるみたいだし、はしごしてみよっか」
「そうだな、時間もあるし…いくつか候補を絞るか」
「あ、パワーストーンのお店もある。こういう所にも指輪ってあったりするのかな?」
「どうだろうな。まず、行ったことがないから…」
ですよね。私も同じだもん。それならついでに覗いてみるか、この辺はアクセサリーショップや雑貨屋さんが集まっている所みたいだし。
第一の目的は指輪だけど、せっかく来たんだし色々覗いていこう。なんかこう、琴線に触れるものとかあるかもしれないし。しばらく色々見て回って、お昼食べたりしよう。
「あ、このカフェって」
「うん?カフェ?」
「ああ、ほらここの…前に一成がインステにあげてた所じゃないか?」
「え?そうだっけ」
確かに一成くんはよく美味しそうなケーキとか、素敵な内装のお店の写真をあげていたと思うけど。チェックはしてるけど、お店の名前までは覚えてない…よくわかったな。
何でもパフェが美味しいお店で、一成くん曰く「めちゃくちゃ美味しいし、お店の雰囲気もめちゃめちゃいい」そうです。オススメ!って前に話を聞いた時に言われたそうな。それを今お店の名前を見て思い出したみたい。
本当に記憶力いいね?!よっぽど美味しそうなパフェだったのか、それとも別の何かが印象的だったのか…それは私にはわからないことだけれども。
結局、あとで休憩がてら行ってみようとなったのは全然いいんだけれども。私はおかしくなって、思わず吹き出した。当然、隣を歩いている臣くんはきょとん顔。
「ははっご、ごめ、あははっ」
「はる?」
「いや、まだお昼も食べてないのに…デザートの話してるのかって思ったら、おかしくなってきちゃって」
滲んできた涙を拭いながら答えれば、数拍間を置いた後、臣くんもふるふると肩を震わせた。どうやら私の言った言葉の意味をしっかりと理解して、同じくツボにはまったようです。ね?ちょっとおかしくなってくるでしょ、理解すると。
2人でひとしきり笑って呼吸をある程度整えてから、再び歩き出す。はー、笑った笑った。人が少ない午前中で良かったかもしれない、かえって。完全に不審者丸出しだったもんなー、さっきの私達。
こんな風に何でもない会話をしたり、2人でゆっくり出かけたりできるのもあと数ヶ月なんだよね。わかっていなかったわけではないけれど、改めて自覚すると急に寂しくなるというか何というか…寮を出てしまうのも寂しく感じる理由のひとつなのかもな、とは思うけれど、それを決めたのは私自身だから文句は言えない。言いたくない。
「あ、2軒目のアクセサリーショップ発見」
「この辺に集中してるんだな、マップ見てみると」
「みたい。探す側としては見つけやすくて助かるけど」
「そうだな」
並べられている商品をぐるっと見て、気になるデザインのものがないか探してみるけれど、さっきのお店のものより気になるものはあんまり…?
あ、でもブレスレット可愛い。指輪が難しければブレスレットや、アンクレットってのもアリだったのかな…ブレスレットとアンクレットのセットなんてのもあるんだね。
デザインはとても可愛いけれど、アンクレットにしてしまうと見えなくなるからなぁ。虫除けとか牽制の意味合いを込めるなら、やっぱり指輪が一番なのです。
そんな理由で決めるなよ、と色んな方面から怒られそうではあるけれど。こういうお揃いもしてみたいな、と思ったりはするけどね。でもさすがに指輪と両方買うのは予算オーバーになるのが目に見えてるので、そっと棚に戻す。
「…ああ、ブレスレットって手もあったのか」
「うん、私も今それ思った」
「あー…でも引っかけそうだな、俺」
こういう金属製のは特に。
様々なデザインのそれを見ながら、臣くんは苦笑を浮かべた。そういえば、臣くんが昔つけていたのって金属製のものじゃなかったっけ…どちらかというと、革とかそっち系のものだった気がするな。
素材はよく覚えてないけれど、デザインはよく覚えてる。とてもカッコ良かったから、余計に。
(―――…うん、やっぱりブレスレットはなしだな)
その後もいくつかお店を回ってみて、今は休憩兼お昼ご飯中です。たまには直感で、と選んでみたけれど、当たりだったらしい。
今度来る機会があったら、別のメニューも頼んでみたいかも。料理がこれだけ美味しいなら、デザートも美味しい気がする。
ランチに別料金でつけることもできたんだけど、さっきマップで見つけたカフェでパフェを食べる予定なのでおあずけになったんだ。さすがにね、そんなに食べられないので。
「臣くん、どれが良かった?」
「最後に入った店の、内側に誕生石を入れられるのも良かったが、好みとしては最初に見たやつかな…」
「あの十字の溝が入ってたやつ?」
「ああ、あれが一番しっくりくる。もしくは流線形のやつだな」
「うん、シンプルだけど綺麗だったよね」
結局、お互いに気に入ったデザインがあるのは、一番最初に入ったお店だった。一目惚れをした、というわけではないんだけど、印象が強く残っていたんだろうなぁと思う。
意見が一致しているのなら、一番最初のお店に決めちゃってもいいかもな。めぼしいお店は全部見たし、残ってるお店は多分ない―――あ。そういえばパワーストーンのお店だけ、行ってなかったな…近くは通ってたはずなんだけど、すっかり寄るのを忘れてた。
「パワーストーンのお店、寄り忘れてた」
「…そういえば、そんな話もしてたな。食べ終わったら行ってみるか?さっきの店が並んでたフロアだろ?」
「うん、あの並びの何処かにあったはず…素通りしてたみたい」
「見かけた記憶もないな…」
私も同じです、臣くん。多分、完全に意識してなかったのと、元々興味が薄かったんだと思う。今まで行ったこともない所だと、そんなこともあるよね…うん。
食後のコーヒーを飲みながら、もう一度マップを確認してみるとやっぱり3軒目のアクセサリーショップの隣にありました。パワーストーンのお店。
「よし、じゃあ行ってみるか」
「はーい」
さっき通ってきた道を戻ってみると、ありました。初めて入ったけど、アクセサリーに加工されているというより石単体で売ってる感じ…?
あ、でも小さいのもあるからこれをいくつか買って、自分好みのブレスレットとか作れそう。まぁ、お値段はそこそこしますけれども。ピンキリではあると思うけどね。
でもいつか作ってみたいな、とは思う。アクセサリーなんて作った経験ないけれど、ブレスレットなら多分きっと恐らく…うん。
「じっと見つめてどうしたんだ?」
「ん?んー…ブレスレットくらいなら、私でも作れるかなって」
「お前、手先不器用じゃないだろ。ブレスレットに限らず、作れると思うけどな」
「そうかなぁ…挑戦したことないから何とも…」
「昔、ミサンガ作ってくれたじゃないか。上手かったぞ」
ああ…そんなこともあったねぇ。小学生くらいの時だっけかな、周りで流行ってて…それに乗っかる形で作ってみたんだった。初めて作ったから歪な所はあったけれど、まぁそれなりに形にはなっていたと思う。
楽しかったのかどうかまでは覚えてないんだけど、何本か作ったもんだからそのうちの1本を臣くんにあげたんだっけ。確か一番よくできたやつ、だった、はず…うん。思っていた以上に喜んでくれて、それがめちゃくちゃ嬉しかったんだよなぁ…ってことを、話しているうちに思い出した。
あの頃から臣くんの笑った顔が見たくて、色々やってたような気がする。きっと自覚していなかっただけで、もう恋をしていたんだと思う。
「まぁ、それはいいとして…指輪はなさそうかなぁ」
「だな。最初の店に戻ってみるか?」
「そうしよう」
最終的に十字の溝が入ったデザインのものと、流線形のデザインのもので悩んだんだけど、やっぱり一番最初のやつがしっくりくるよねと意見が一致しました。というわけで、指輪選びは無事に終了です!
無料で内側に文字が刻印できるとのことなので、せっかくだからイニシャルを掘ってもらうことにした。また後日引き取りかな、って思ってたんだけど、お店の奥に工房が入っているらしく刻印を入れても即日持ち帰り可能なんだって。
時間はかかるけど、その間ショッピングモール内を見ていればいいだけだしね。もう少しだけブラッと回って、引き取ってからカフェに行けばいいかな。その頃にはお腹の具合も落ち着いてるでしょう、多分。
(おおー…!指輪つけてる臣くん新鮮!)
(はは、つけたことないからちょっと気恥ずかしいな)
(あ、じゃあ普段はチェーンに通してネックレスにしておいたら?はい)
(え?)
(臣くんは料理するし、カメラも扱うし…つけたりはずしたりするのも大変でしょ?)
(あ、ああ…え?いつ買ったんだ?チェーンなんか)
(ん?臣くんが真剣に手芸用品を見てた時)
(気がつかなかった…)