それはきっと好奇心


キラキラとした目がこっちを見上げていて、グッと唇を噛んだ。
高校生とか大学生とか、学生という名のつく人達なら一度くらい経験したことがあるだろう。恋バナってやつを。私だって一応、花の女子大生(自分で言っておきながら鳥肌が立つ)ですから?興味がない、わけ、では、ない……すみません、嘘つきました。然程、興味がないです。
興味がないというか、…触れられたくないっていうのが一番の理由かも。だから今までものらりくらりと、その話題を避けてきたわけだ。でもここまで真正面から、ストレートに尋ねられると避けられない。爆発するしかない気がする。


「はるチャンは彼氏いないんスか?」


事の始まりは、太一くんのこの言葉。お風呂上りに飲み物を取りに談話室を訪れると、珍しく学生の子達しかいなかった。大人組はすでに自室へ戻ってしまっているらしい。臣くんもいないなんて珍しいな〜と思いながら、壁にかけてあるホワイトボードに目をやると、明日の朝食当番は綴くん。成程、仕込みをする必要がないからキッチンにいないんだ。納得。
まぁ、それは特に関係なくって…お目当てのスポドリを手に取り、何だか盛り上がっている子達におやすみ、と声をかけようとした瞬間にさっきのセリフが紡がれたのです。おいこら、何で私に話題を振ったんだ太一くんよ。そりゃーもう言葉に詰まるよね。


「そーいや、遥ちゃんのそういう話って聞かないな。臣は違うんだろ?」
「ただの幼なじみだね」


逃げられない、と早々に悟った私は、天馬くんの隣に腰を下ろした。というか、彼が所謂恋バナってやつに参加しているのが、ものすっごく意外。こういうの興味ないものだと勝手に思っていたから。


「あんなに仲良いのに?」
「そりゃあ小さい頃からずっと一緒なんだもん。多少は距離が近くなるでしょ」
「ふーん…そんなもんなのか?」
「そういうものなんだよ。少なくとも私達はね」


一般論なんか知りません。でも私達はそうだから、事実を述べたまでだ。…なーんて、何でもないような顔をして次々と飛んでくる質問に答えているものの、結構ドキドキしちゃってるんだよね。自分がボロを出したりしないか。今の所、カンパニーの皆には幸ちゃん以外バレてないし、大学の友人達にもバレている様子はない。知られないように必死に隠してるし、さっきも言ったけどそういう類の話からはうまーく逃げてきていたからね。

(何でそんなにバレたくないの、って言われそうな程に)

でもそんなのは単純明白だ。他人にバレてしまうようじゃ、きっとすぐに本人にも知れ渡ってしまうから。いっくら色恋沙汰に関しては鈍いと言われ続けている臣くんでも、気がついてしまうと思うんですよ。実際の所はわからないけれど、隠しておくに越したことはない。
この気持ちがバレてしまったら最後、私は臣くんの傍にはいらなれない。隣で笑うことだってできなくなる。いつかの未来では―――きっとそうなるんだろうってことはわかっているものの、自分から壊しにいく勇気はこれっぽっちもない。他のことに関しては物怖じしない自信があるけどね。


「じゃあじゃあ今までつき合ったことは?ある?」
「今日は突っ込んでくるね?太一くん…」
「あ、その顔はつき合ったことあるんだろ。遥ちゃん」
「そりゃあまあ…人並みにはね」
「なんか浮かない顔だな。嫌な思い出でもあるのか?」
「嫌な思い出というか、…本当に好きな人とはつき合ったことないなーって」


何となく、彼らの雰囲気に飲まれてポロッと零れ落ちた本音。


「えっはるチャン好きな人いるんだ?!」
「つーか、…つき合うって好きな奴とするもんなんじゃねーの?」
「天馬くん、その考え方を大事にしなさいねー」
「?おう…」
「なんだ、遥ちゃんってそういうタイプ?」


ニヤリ、と笑った万里くんの額を軽く小突く。きちんと言葉にされたわけじゃないけど、でもあの顔は明らかにからかっている表情だし、何よりも面白くない。真っ向から否定できる行動じゃないのは自覚してるけど、やっぱりそう思われてしまうのは避けたいのである。天馬くんはわかってないみたいだけど。


「好きな人がいるって断っても、それでも構わないからって何度も言われるんだもん。折れざるを得ないでしょ」
「いや、折れんなよ。拒否れよ」
「わかってるんだけどさ〜…何度断ってもしつこく言い寄られたら、だんだん面倒になってくるじゃん」
「遥さんって意外とものぐさだよな…」
「天チャンもそう思う?しっかりしてるように見えるのに、意外っスよね。臣クンが世話焼くのわかる気がする」
「だな」
「…高校生にそう言われてしまう私って」
「臣風に言うなら『今更』だろ」


ガックリと肩を落とせば、天馬くんがそんなに落ち込むことかよ、と楽しそうに笑う。まるでそれが伝染したかのように万里くんと太一くんも笑い始めて、何とも複雑な気分だ。
楽しそうに笑う人を見るのは嫌いじゃないし、むしろ好きな部類に入ると思うけど…笑いの種になっているのが自分、というのはやっぱり手放しで喜べないよね。正直な所。…いいけどさ。


「んーーーー…!さて、そろそろ私は部屋に戻るよ」
「おー」
「おやすみ、遥さん」
「うん、おやすみー。君達も左京さんに怒られる前に部屋に戻んなよ」
「あっ…はるチャン!」


ふわ、と欠伸をひとつ零し、立ち上がる。予定外のことになったけど、まぁ何かする予定でもなかったし、割と楽しかったからいいかなーとか、大分回らなくなってきた頭で考えていると太一くんに呼び止められた。何だろう、と振り向くと、真剣な表情を浮かべている―――ように見えた。


「はるチャンは、その、…好きな人とつき合いたいとか、思ったりしないの?」
「…どうして?」
「なんか、本当に好きな人とはつき合ったことないって言った時、諦めてるように見えたから」
「―――その人の一番になれたら嬉しいんだろうけど、無理だから。それにもう昔の話なんだよ」


太一くんの顔も、座ったままの万里くんと天馬くんの顔も見るのが怖くて、顔を背けたまま談話室を後にした。
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