太陽は隠れて、堕ちる


秋組第二回公演の台本が出来上がった。タイトルは『異邦人』。
主役に臣くん、準主演に太一くんが抜擢されたのだけれど…いざ始まった稽古は、あまり上手くいっていないようだった。きっとその原因に本人も気が付いているのだろうけれど、そう簡単に払拭できるものじゃない。それは私自身もよくわかっていた。だから尚更、何もしてあげられることがなくって歯痒くて仕方がない。…だって私も、彼と似たようなものだから。


「遥、こんな感じのデザインどう?」
「うっわぁ…カッコイイ!これ、臣くんの?」
「そう。台本読んでイメージした」


無骨な男、というイメージにピッタリな衣装。さすが幸ちゃんだよなぁ…次々と衣装のデザインが出来上がっていき、あっという間に採寸までこぎつけた。できれば全員一気に済ませたいということで、稽古の合間にお邪魔して採寸させてもらうことにしたんだけど―――うん、やっぱりまだ上手くいっていないんだなぁ。衣装製作や大学のサークルの方が忙しくて、稽古には全くお邪魔していない。まぁ、その方がいいんだろうけど。
だからたまーにいづみさんから進捗を聞いてはいるものの、臣くんが躓いてしまっているらしい。旗揚げ公演の役は人が良いように見せ掛けた悪役、だからこそ彼の優しい性格と悪い笑みのギャップが合っていたのだと思うのだけれど…今回の役はそういうのではない。彼の性格とは程遠いのでは?という役柄だと思う。言うなれば、…そう、『狂狼』と呼ばれていた頃の彼の方が役に近い。


「はるチャン?ボーッとしてどうしたっすか?」
「え?ああ、…ううん、何でもないよ。はい、採寸するよー」
「はいッス!」


太一くんの採寸をしている間も、気がつけば意識は臣くんに向いてしまっていてどうしようもないな、と自嘲的な笑みが漏れる。そんなに気になるなら話しかければいいのに、と思うのに、何故かそれをできないでいる。近寄ることが怖いのか、拒絶されることが怖いのか…どっちでもあるような気もするし、どっちでもないような気もする。私自身もよくわからない気持ちがグルグルしている感じ。
臣くんの為に何かしてあげたいと思うけれど、でもそれができるのは私じゃなくって―――秋組の誰かなのだろう、と漠然と思っている。根拠なんてない。でも、この勘はきっと外れない。


「…よし、こんなものかな。次は臣くんだよ、こっちに来て」
「ああ」
「ええっと、最初は腕からね」


採寸という大義名分を得ていれば、こんなにもするりと名前を呼べるし、声もかけられるんだな。どこか固いままの私達の関係は、これから先、どうなっていくのだろう。崩れるのか、このままなのか、はたまた進んでいくのか。


「採寸に来たってことは、デザインができたのか?」
「うん。カッコイイよ、きっと臣くんもビックリする」
「はは、そうか。それは楽しみだな」


いつもと変わらないように見える笑み。でもやっぱり、明るさが足りない気がする。大丈夫?なんて言葉はとても便利で、でも今の彼の状況を考えると陳腐な言葉に思えて、終ぞ口にすることはできなかった。
当たり障りのない話をしながら採寸を終え、臣くんはケンカを始めてしまった十座くんと万里くんの元へ戻っていく。…見慣れた光景だ、そう、見慣れているはずなのにどうしたって違和感が拭えない。笑う顔も、真剣に稽古に取り組む顔も、…私の知っている臣くんのはずなのに。


「遥。オカンと馬鹿犬の採寸終わったんなら、ネオヤンキーの採寸もお願い」
「ネオヤンキー、……ああ、万里くんか。わかったー」


一瞬、誰のことだかわからなかったよ。本気で。幸ちゃんの指令を受け、私は万里くんに近寄った。私を視界に映して、すぐに何のことか理解したらしい彼はゆっくりと立ち上がり、よろしくーと気だるげな声を発する。ほーんといい意味でも悪い意味でも、万里くんはブレない子だ。
黙々と採寸を続けていると、顔色良くねぇなって言われてしまいました。いや、寝ていないわけでもないし具合が悪いわけでもないんだけど…あれかな。心配し過ぎている気持ちが、顔に出ちゃってるとかそういうことなのかな。あんまり認めたくないけど。


「…大丈夫だよ。至って元気だから」
「空元気に近いだろ、それ」
「うーん、そうなのかなぁ…」
「左京さんも、できねぇような奴に任せたりしないだろ」


何のこと、なんて言葉にしないでもわかる。臣くんのことだ。


「ま、アンタまであんまり暗い顔すんなって。採寸、さんきゅ」
「ありがと、万里くん」
「礼は今度、カフェにつき合ってくれりゃいいって。紬さんと3人でな」


万里くんの言うことは尤もだと思う。色々な事情や思惑はあれど、それを乗り越えられないと感じていたらきっと…左京さんだって任せたりしない。任せられる、できると思っているから名指しで臣くんを主役にしたんだと思うんだ。臣くんならきっと、乗り越えられると思ったから。

もがいている彼にしてあげられることは、何なんだろう。結局はそこに戻って、永遠にループする。
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