思い出は形にしたいものなのです


秋組の第二回公演が終わって、もうすぐ2週間が経つ。役者でもあり、MANKAIカンパニーの看板脚本家でもある綴くんは、もう冬組の脚本のネタ集めに奔走中。いづみさんや冬組の皆さんと念入りにミーティングを重ねてるみたい。
どんな脚本で、誰が主役をやるのだろう。旗揚げは紬さんと丞さんだったから、2人は候補から外すんだろうか。でも真澄くんと幸ちゃんは旗揚げでは準主役、第二回公演では主役を演じていたからそうとは限らないか。
まぁ、私がこうして思考を巡らしてもわかるはずもないし?発表される日を心待ちにするとしましょうか。


「ただいまー」
「おかえり。思ったより遅かったな」
「うん。ちょっと寄り道」


談話室からひょっこり顔を出した臣くんの視線が、ガサリと音を立てた私の右手に向けられた。そう、その音の正体こそ帰りが遅くなった理由。実は『異邦人』のフライヤー撮影をする為に借りていたカメラ、あの後、正式に譲り受けることになりまして。それで左京さんやいづみさんに頼み込んで、公演中の写真を撮らせてもらってたんだよね。楽屋での写真も、少しだけ。もちろん許可はもらってるよ。それをようやく現像してきたってわけ。
いづみさんのプリンターを借りても良かったんだけど、改めてデータを確認してみたら思ったよりも枚数があって…いくら何でもインク切れを起こす!と思ったから、写真屋さんに持ち込んでたの。


「…写真?」
「そう。主に『異邦人』の公演中の写真」
「えっ撮ってたのか?」
「うん」


ああ、やっぱり驚くよねー。きっと今までも公演中の写真は誰かに頼んでいたんだろうけど、まさか身内が撮ってるとは思わないだろう。はー、お腹空いた…今日の夕飯は何だろうな。その前にジャケットとカバン、置いてこよう。
階段を上り始めた所で、名前を呼ばれた。何か落とし物でもしたかな。んー?と振り向けば、臣くんがあとで写真を見せてくれないか、だって。写真って私が撮ったやつ?でも臣くんみたいに上手く撮れてないだろうし、見ても何も面白くないと思うんだけどなぁ。


「さすがに映像を見る勇気はまだなくてな…けど、どんな風に演じていたのか、どんな風に映ってるのかは気になって」
「ああ、成程…んー、じゃあ私の部屋でもいい?整理したいから」
「お前がいいならそれでいいぞ」
「ん、わかった」


というわけで遅めのご飯を食べて、いづみさんとお風呂に入って、ただ今写真の整理中です。臣くん?多分、もうすぐ来るんじゃないのかな。飲み物持っていくよ、ってさっきLIMEした時に返事がきたから。
それにしてもほーんと撮った枚数が半端じゃない。我ながら引くわ、と乾いた笑いが漏れる。これ、臣くんに見せても平気じゃない量なんじゃないの?そりゃあ、アイツだってかなりの枚数を撮ってると思うけど…私の場合『異邦人』のみでこの枚数だからね。さすがにどうなの、ってなる。うん。そして無意識に臣くんのこと撮り過ぎだよ、マズいよ私。
よし、アイツが来る前に隠してしまえ。当たり障りのない写真だけ見せることにしよう―――と思ったのだけれど、写真を隠す前にノック音が響いた。今の私にとってそれは、終焉の音だと思った。いや、比喩でも何でもなくマジで。ちなみに大袈裟でもないよ、ああ血の気引いてきた…ドア、開けたくないなぁ。でも部屋にいるのはバレてる、というか約束してるので居留守は使えない。ということはつまり、「どうぞー」と言う他に術はないわけで。もういい、腹括る。
…ん?そういえば、どうぞーって言ったのに臣くんが入ってこない。どうしたんだろ?もしかしてさっきのノック音は、臣くんじゃなくて幽霊…?!そんなことを考えながら恐る恐るドアを開けると、そこには困ったように笑う臣くんが立っていた。彼の両手は缶チューハイとおつまみで塞がっている。あ、だから入ってこなかったのか。それなら開けてくれって言ってくれれば良かったのに。


「お酒持ってくるとは思わなかった」
「たまにはいいだろ?明日は休みだし、俺も稽古はないしな」


飲むのは全然構わないけど、珍しいこともあるもんだ。今日はそんな気分なのだろうか、と首を傾げていると、さすがに自分が写っている写真を素面で見るのは気が引けたんだって。自分から言い出したものの、さすがに恥ずかしくなっちゃったみたい。だから少しアルコールをいれよう、ってことみたい。
無理して見ることないのに、と思うけど、他のメンバーの写真は見たいし、自分の写真も恥ずかしいけどやっぱりどんな風に演じていたのかは気になるんだってさ。確かに帰ってきた時、そんなこと言ってたけど。映像はまだ勇気が出ないけど写真なら、って。


「うわ、本当にたくさん撮ってるな」
「撮り始めたら面白くって。それに残しておきたいって気持ちもあったから」
「他の奴らには見せないのか?」
「え?うん。いづみさんと左京さんにはあとで選りすぐったものを何枚か見せるけど…」
「ふぅん…よく撮れてるのに」


まぁ、誰かに見せるつもりで撮ってたわけじゃないから。結果的には数枚、カンパニーのホームページに載せることになったんだけど。でもそれもどうせ撮るなら、ってことだしねぇ。そういうつもりで撮らせてほしい、と申し出たわけではなかった。言うつもりなんて更々ないけど、これは所謂自己満足ってやつなのです。私が、勝手に、記録しておきたいと思っただけなの。本当にただ、それだけ。
だから臣くんに見せることだって予想外なんだよ。あそこで現像してきた、と話題に出してしまった私が悪いのだろうけど。見せたくなかったのなら、あの場で言わなければ良かったのだから。つまりは自業自得ってやつなのかな。…けど、そう思う反面―――臣くんとこうしてのんびりできるのは、嬉しかったりするのだから現金だよなぁ。


「私もまだ全部見てないんだけど、これとかお気に入り」
「何でわざわざ俺の写真を選ぶかな…」
「だって主演だし」
「その理屈はよくわからない」


眉間にシワを寄せる臣くんに笑みを零し、写真の束を渡した。この写真はあのシーンだとか、これは楽屋での写真かとか、1枚ずつ2人で写真を確認していく。かなり集中していたのか、山ほどあったはずの写真はあと数枚という所まできていた。ついでにいづみさん達に見せる写真も一緒に選んでもらっちゃった。
自分なりによく撮れてるな、って思う写真は何枚かあったけど、こういうのは第三者の目で見てもらった方がいいと思うから。臣くんは写真部だし、こういうの見慣れてると思うしね。だからきっと、見る目は臣くんの方がある。絶対ある。


「このくらいあればホームページに載せるにも困らないだろ」
「そうだね。明日にでもいづみさんに渡しておこう」
「…それにしても、ホームページに載せる写真を自分で選ぶ羽目になるとは思わなかった」
「あははっだって臣くんの方が見る目あるんだもん、写真部だし」
「はる、お前なぁ…」


溜息をついた臣くんと、自然と視線が絡み合った。ドクン、と鼓動が大きくなる。逸らさなくちゃと思うのに、蜂蜜色のソレに囚われてしまったかのように動けない。

ゆっくり、ゆっくりと距離が縮まって―――そっと唇が重なった。
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