変わらない距離と変わった関係性
「何か、…変な感じ」
「ん?なにが」
海岸で気持ちを伝えた後、私達は件の観覧車に乗っていた。臣くんが興味あるって言うし、私もなかったわけではないし…せっかく来たから記念にってことで。外の景色を見ながら呟いた言葉は、向かいに座っている臣くんにも当然届いていた。
視線をこっちに向けた彼はキョトンとした表情を浮かべ、首を傾げている。まぁ、さっきの呟きを思い返せばそんな表情にもなるよね、急に何だって話だよね。私も臣くん側だったら同じ反応すると思う。
「いやさー…臣くんと恋人、っていうのが、変な感じ」
「嫌か?」
「そんなわけないじゃん。そういうことじゃなくって、うーん……」
「気持ちはわからないでもないけどな。…俺も、はると恋人になれるとは思ってなかったから」
キスしてきた人が言うセリフかそれ。じとりと睨みながらそう零すと、臣くんは困ったような笑みを浮かべてだよなぁ、と言った。だよなぁって何だよ、だよなぁって。
「…あの時は本当に衝動的、だったんだ」
「うん?」
「キスした時。俺自身、何でそんなことをしたのかわかってなくてな…結局、綴に教えてもらったんだ」
「………ちょっと待って?もしかして綴くんにキスしたこと、話したの?!」
「まさか。相談にのってもらっただけだ。そこまで詳しくは話してないよ」
ああ、そうですか…でも臣くんが私のことを好きだってことは、もう綴くんは知ってるってことだね。だけどそれはまぁ、知られても大変なことじゃないからいいのか。というかコイツ、自分の気持ちがわからない状態で私にキスしてきたのか…それはビックリする真実なんですけれども。
臣くん曰く、私が他の人と楽しそうに話しているのを見ると嫌な気持ちになったり、理由もなく触れたくなったりしてたんだって。あの時のキスは、その結果だそうです。ええ〜…?って感じだよね。でも悪いことをした、傷つける真似をした自覚はあったんだって。でもそどうしたらいいかわからなくって、とりあえず普段通りを装っていたらしいです。だけどそれが余計に私を傷つけたってわかったから、って謝られたけど。
本当に単純だなぁって自分でも思うけど、…もういいかなって思っちゃった。腹が立ったのは本当だし、悲しかったのも事実なんだけど、それ以上に嬉しいって思っちゃったから。ちゃんと臣くんの気持ちとか、知ることもできたからそれでいいかなって。
「幼なじみって関係性をさ、壊すのが怖かったんだよね」
「ああ、それはわかる」
「でも…多分、あんまり変わらないんだよ。恋人になっても」
「恋人になっていなかったら、そうは思えないんだろうけど…でもきっと、どんな関係性でもお前のことは大切なんだろうなぁとは思うよ」
「えっ…」
恋人でも、そうでなくてもきっと―――はるは、大切だ。
真っ直ぐに私の顔を見つめ、瞳を細め、今までに見たことのないくらい優しい顔で笑ってる。この顔が愛しい人を見つめるものだとすれば、これは…恥ずかしくて仕方ないけど、それ以上に嬉しくてうれしくて泣きそうになっちゃう。
「でもやっぱり―――…」
臣くんはおもむろに立ち上がり、私達の乗っているゴンドラが僅かに傾いた。危ないでしょ、と口を開こうとした瞬間、彼の唇に塞がれ声にはならず。
一瞬だけ、ただ触れただけのキスだけれど…あの時とは何ていうか、何かが違うって思った。あの時のよりもずっと、ずっと…甘いって、思ったんだ。気持ちが通じているだけで、こんなにも感じ方が変わるのか。
「お、おみく、」
「こういう風に触れられないのも、キスができないのも嫌だ」
「へっ…?!」
「俺も同じだ。こんなに欲張りになるなんて…思いもしなかったな」
頬に触れた手がするり、と滑り、そのまま唇に触れる。ああキスされる、と目をギュッと瞑ると、ソレは唇じゃなくて額に触れた。
閉じていた目を開ければ、そこには悪戯っぽい笑みを浮かべた臣くんがいてようやくからかわれたんだってことに気がついたんだけどね!
「ははっ悪い、悪い。からかうつもりは更々なかったんだが…はるが身構えるもんだから、つい」
「ついって…!!」
「本当はもっと触れたいんだが、…さすがにここでするのはな」
「1回しといて何言ってんだコイツ…!」
「止まれなくなったら困るから」
しれっと言い放った臣くんに、私はあんぐりと口を開けるしかできなかった。え?だ、だって臣くんってここまで素直に言う人だった?!いや、あんまり隠し事はしない方だとは思うけど…な、なんか、うん、上手く言えないけど今までと絶対違う!!それだけは自信がある。
「も〜…臣くんやだぁ」
「もう遠慮はいらないだろ?」
「そうだけどさぁ…」
「こんな俺は嫌か?」
「…そういう聞き方は意地が悪いと思います」
嫌か嫌じゃないかって聞かれたら、そりゃあ嫌じゃないに決まってる。素直に言ってくれた方が多分、嬉しいし。それにきっと、臣くんは私が嫌じゃないって答えるのわかっててああやって聞いてくるんだ。
確かめる為に聞いてくるのは、まだどこか不安な部分があるからなんだろうか。もしそうだとしたら、不安に思わなくなる日まで…さっきみたいな意地が悪い質問でも、ちゃんと答えてあげようかな。恋人になって早々、臣くんを失うとかそんなの考えられないし。嫌だよ、そんなの。
「……好きですよ、臣くん」
「!ははっうん、俺も好きだよ。はる」
ブワッと顔に熱が集まる。ダメだ、私は一生かかっても臣くんに勝てない気がする。