貴方に伝えたいことは、
ランチを済ませた私達は、会計の時に店員さんから教えてもらった海浜公園に来ていた。何でもこの公園はデートスポットなんだとか。いや、私達恋人同士じゃないんです…とは言い出せませんでしたよね。というか、お客さんに恋人同士が多かったのは公園が理由なのかも。
「ああ、あれだな。あの人が言ってた観覧車」
「だね。うわ、案外でっかい…」
「確かにな。公園自体もそこそこでかいみたいだし、観覧車も遊園地にあるやつくらいあるんじゃないか?」
公園にある観覧車としては、かなりでっかいと思う。いや、小さい観覧車って何だよって話だけども。実はこの観覧車にはちょっとしたジンクスがあるらしくて…あの、恋人同士で乗ると絶対に別れないんだそうですよ?ンなワケあるかいって感じではあるんだけど、まぁうん、こういう恋愛に関するジンクスって試したくなるというか、すがりたくなることもあるんだよね。じゃあ恋人同士じゃない2人が乗ったらどうなるんですかって感じだけどさ。聞きたかったけど聞きませんでした。その辺りの分別はあるよ、私だって。
「観覧車に乗るかどうかは後で考えるとして…」
「えっ考えるの?!」
「興味はあるからな」
「へー…意外」
「でもその前に白黒つけないとダメだし、海岸でも散歩しようか」
「あ、うん」
おいで、と手招きする臣くんの隣に立つと、またもやするりと指が絡まった。ただそれだけでドキドキしちゃうのって悔しい…コイツと手を繋ぐのなんて、幼い頃から何度もしてきたことなのに。いつからか繋がなくなって、…それで私が臣くんへの気持ちに気がつくと余計にそんなことしなくなったんだよね。でも平気で抱きつくこととかはあったか、今思うとなに考えてたんだろう。私。自分のことながらわからん。
サクサクと海岸を歩きながら、取り留めないことを次から次へと考えていく。一種の現実逃避ってやつですね。なにから逃げてんのかって?そりゃ、臣くんの言っていた『白黒つけなきゃいけないこと』からですよ。そもそもの目的がソレなんだから、現実逃避してる場合じゃないんだけど。…いい加減、腹ァ括りやがれ私。
「…はる?」
絡んだ指を解き、その場で足を止めれば当然ながら臣くんが振り返る。どうしたんだ、って首を傾げながら。ドクドクと心臓がうるさいくらいに鼓動を刻んで、今にも呼吸困難に陥りそう…でももう、これ以上は逃げたらダメだ。今日こそ、臣くんに気持ちを伝えるって決めたんじゃないか。
グッと拳を痛い程に握りしめて、スゥと深呼吸。僅かな間だけ目を閉じて、今度は真っ直ぐ正面から臣くんの目を見つめた。
「お、みくん、あのね」
「うん」
「私―――…ずっと臣くんが好きだった」
アンタは気づいてるけど、知ってるだろうけど、それでも言葉にはしていなかったから。態度で、行為で示してしまったけど…それでもやっぱり、言葉には敵わないと思う。言葉にしなくちゃ、本当に伝えたいことは伝わらないとそう思っているから。
「好きだったけど、臣くんに言うつもりなんて全然なかったの」
そう思い始めたのは、いつの頃だっただろう。最初はただ勇気がなくて、関係が壊れてしまうのが怖くて言えなかっただけだった。でもいつしか、臣くんに好きだってことをバレてはいけない・伝えてはいけないって思うようになっていって…最終的には墓場まで持っていこう、だなんて思ってたの。
それはきっと、那智くんを失ってからだ。臣くんが一線を引いて大切な人を作るのをやめてしまったことを、肌で感じてしまったから。気持ちを伝えたら困らせてしまうから、そんな思いをさせるんだったら…飲み込んでしまえばいいと思っていた。ずっと。それが一番いいんだ、って。
それなのにいづみさんのことが好きなんだと勘違いしたあの日、他の人に臣くんをとられたくないって思っちゃったんだよね。
「幼なじみとして隣にいられるなら、名前を呼んでもらえるならそれで良かったはずなのに…いつの間にか欲張りになっちゃって」
そんな時、臣くんにキスされた。いづみさんを好きなクセに何でって思った。私のこと好きじゃないくせに、何でキスするのって。
でもその反面、いづみさんの代わりでもいいやって思っている自分もいたんだ。臣くんに必要としてもらえるなら、あの人の代わりでも何でも愛してもらえるなら…それもアリなのかもしれない。
「はる、それは…っ」
「あの時はね、本気でそう思ったんだよ。色々、ぐちゃぐちゃで…なのに臣くんは何でもないような顔して、全部忘れたような態度で私に接してくるから―――腹が立った」
「…悪い」
「ねぇ、臣くん。本当に私を好きだって、信じてもいいの?アンタを好きでいていいの?」
サクリ、と砂を踏みしめる音。それは臣くんが近づいてくる音でもあって、咄嗟に視線を逸らそうとしたんだけど、それは彼の手によって止められてしまった。しっかりと両手で私の顔を固定して、目を逸らすことを許してくれない。蜂蜜色の目が、じっと私を見下ろしていた。
「お、おおおおおみくん…?!」
「ふはっどもりすぎだろ。大丈夫、取って食ったりしないから」
「この状況で言われても…!」
ぶわぁっと全身に広がっていく熱。でもそれをどうすることもできず、赤くなっているであろう顔をそのまま臣くんに晒し続けることしかできないわけでして。落ち着いていたはずの心臓は、またけたたましく鼓動を刻み始めた。
「好きだよ。はるが…俺は好きなんだよ」
「うん、うん…っ」
「はるも俺が好きだって信じていいか?」
「…ッ好き。臣くんが好きです」
我慢していた涙が、一筋頬を伝う。まるでそれが合図だったかのように、臣くんは私を抱きしめた。ぎゅうぎゅうと苦しいくらいなのに、何故かそれが心地良くて―――私は本当に、この人に愛されているんだって実感できる気がする…そんな抱きしめ方だと思う。私もそれに応えたい、そっと背中に腕を回せば臣くんの体がビクリと揺れた。
ヤバイ、嫌だったのかな、でも今更引っ込められないし…結局、そのままぎゅっと力を込めると、か細い声で名前を呼ばれて心臓が高鳴りましたよね。耳元はダメだってば…!
「すき、好きだ、はる」
「う、うん、もうわかったからこれ以上はやめて…!」
恥ずかしすぎて死んじゃうから…!
息も絶え絶えに訴えると、私を抱きしめたまま臣くんが笑ったような気がした。