丞さんと紬さんと
「「「あ。」」」
ブラブラと歩いていたら、偶然にも高遠さんと月岡さんにバッタリ遭遇。買い出しかな、と思ったけど、2人共あんまりにも身軽だったので即座に違うんだなと理解。
もしかしたら観劇していたのかもしれない。此処、ビロードウェイはたくさんの劇団が集まっているから。
「こんにちは、遥ちゃん。大学の帰り?」
「はい、今日は用事もないのでちょっとブラブラと…お2人は買い物ですか?」
「高校時代の友人が舞台に出ていたから行ってきたんだ」
高遠さんがほら、とフライヤーを見せてくれた。それは少し前に私ももらったもので、なかなかに面白そうな舞台だなぁと思っていたもの。行きたいけどどうしようか、と悩んでいたんだ。
うーん、ちょっと感想を聞いてみたい…高遠さんと月岡さんが絶賛していれば間違いないだろうし。いや、自分で開拓するのが一番楽しいのはわかってるんだけど!でもできればやっぱり、面白いものを観たいと思うのは人間の性だと思うのです。
「これ、私も気になっていたんです。どうでした?」
「良かったよ、内容も、設営も、音楽も。…良かったらどこかでお茶しながら話そうか」
「えっいいんですか?!」
「もちろん。丞も来るでしょ?」
「ああ、構わない。東雲とはゆっくり話をしてみたかったしな」
おおう、思わぬ人から思わぬ言葉を聞いてしまった…!
月岡さんは物腰が柔らかいし、初めて会った時から話しやすさ満点だったんだけど、高遠さんはどうしてもGOD座の時のイメージが強くって気軽に話しかけられないのだ。口数が少ないだけでとてもいい人、っていうのは、同じ劇団の何人かから聞いてるんだけどね。臣くんからはサッカー好きだぞ、という情報も頂いた。うん、でも私はサッカーわかんないよ。ルールさえ曖昧だよ、実は。ボールをゴールに入れればいいってことくらいはわかるけど。
いかん、話が吹っ飛んでた。というわけで、私は高遠さん達と近くのカフェでお茶することになりました。月岡さんオススメのカフェだそうで、ケーキもコーヒーも美味しいそうですよ。
「俺のオススメはアメリカンと、アップルパイかな。コーヒー飲める?」
「飲めますけど、カフェオレの方が好きです」
「だったら、クッキーとかスコーンの方が合うよ」
「…へぇ」
「紬はコーヒー好きでな。詳しいぞ」
意外な一面発見です。成程、カフェオレにはクッキーやスコーンが合うのか…覚えておこう。
せっかくなのでカフェオレとスコーンを頼んでみることに。月岡さんはオススメだと言っていたアメリカンとアップルパイで、高遠さんはブレンドだけ。月岡さんがにこやかにアップルパイ一口あげるね、と言っています。仲良いなぁ、この2人。
「高遠さんと月岡さんって、同級生?」
「え?」
「お2人の距離感って、他の人達のとは少し違う感じがしたので」
「…よく見ているな。同級生というか、幼なじみなんだ」
「あ、成程。臣くんと私と同じですね!」
「伏見と?」
「はい。私達、生まれた時から一緒なんですよ」
舞台の話をするつもりだったのに、そのまま幼なじみ談義に花が咲く。小さい頃の呼び方ってふとした時に出ちゃうよね、とか色々。主に盛り上がっていたのは私と月岡さんで、高遠さんは時折ツッコミをいれているだけ。でも顔には笑みが浮かんでいたからつまらないとか、暇だとか、嫌だとかは思っていないみたい。
そして、高遠さんは思っていたより笑う人だと…思う。いや、GOD座にいた時も笑ってはいたし、見たことがなかったわけでもないんだけどさ。何て言うんだろ、自然体?って言えばいいのかな。ほとんど関わったことのない私が言っても説得力の欠片も、信憑性もないけど。
頼んでいた飲み物やスイーツが運ばれてきたのを合図に、話は幼なじみから演劇へと移っていく。こんな舞台設営で、こんな仕掛けがあって、あの場面で流れていた音楽がすごくマッチしていた、映像を使うのも面白いよね、などなど…高遠さんと月岡さんはマシンガントーク(というほどではないのだけれど)を目の前で繰り広げている。
その姿はとても生き生きしていて、お2人のことを芝居バカ・演劇バカと誰かが言っていたけれどそれは言い得て妙だと思う。確かにこれはそう言われてもおかしくはないと思う。
「あ、ねぇ遥ちゃんってGOD座で裏方してたって言ってたよね?」
聞き役に徹していたら月岡さんからボールを投げられた。それも変化球。
「えっと、…まぁ、はい。少し前の話ですけどね」
「じゃあ丞の芝居、見たことある?」
「ありますよ。高遠さんの演技は抜きんでていましたし、女性のファンがたくさんつくのも頷けるなぁと思っていましたけど…」
「?なんだ」
「私は、MANKAIカンパニーの冬組で演じている高遠さんの方が好きです」
GOD座の時の演技が嫌いというわけではない。どの役も素敵だったし、高遠さんでなければあそこまで素敵で素晴らしい役や舞台にはできなかったと思う。思うけど、冬組で演じていた高遠さんはとても等身大に見えたのだ。
何より―――…
「月岡さんの隣で演じられているのが、楽しくて、嬉しくて堪らないって感じだったから」
「…え、」
「あれ?もしかして違いました?」
「……すまん、触れてくれるな」
「ははっ丞、耳真っ赤になってるよ」
「紬も黙ってろ…!」
ちょっとだけ、お2人のことを知れた気がする。そんなティータイム。
(幼なじみコンビと優雅な時間)