至さんと万里くんと
MANKAIカンパニーの寮にお邪魔したら、茅ヶ崎さんっぽい人に玄関で出会った。何で茅ヶ崎さんっぽいって表現なのかと言いますと、前髪を結んでスカジャンにジャージという出で立ちだったから。
私が会ったことのある記憶の中の茅ヶ崎さんとは、まるで印象が違う。思わず、その場で固まったよね。そして遠慮なく首も傾げたよね。さすがに誰ですか?と口には出さなかったけど。見たことない格好なだけで、多分、というか明らかに茅ヶ崎さんご本人だから。
「……茅ヶ崎さんで合ってます?」
「そう。なに?もう忘れちゃったわけ?遥」
「いや、さすがにそこまで記憶力悪くないっすけど…その格好は初めて見たので」
あ、もしかして前に皆木くんが言ってた「幻滅しないでやってくださいね」って、これのこと?
「至さーん、もうすぐ限定クエ…って遥ちゃん?」
「あ、摂津くん」
「なになに、臣に会いに来たの?」
「何で臣くん…アイツは今、サークル活動の真っ最中だよ」
皆木くんも今日は講義がみっちり詰まっていて、まだ大学にいる。臣くんはさっき言った通りサークル活動真っ最中なのです。もうすぐ展示会があるから、その写真を撮りに行くって言ってたかな。今回のテーマは風景らしいです。なので、きっと今日の夕食当番は、いづみさんだろう。
それをボソリ、と言えば、茅ヶ崎さんと摂津くんはあからさまに嫌な顔をしたんだけど。なに?いづみさんって料理下手なの?臣くんからいづみさんと皆木くんと、交代で食事作ってるって聞いてたから、てっきり上手なんだと思ってたんだけど。でも2人曰く、決して下手ではないとのこと。問題はそこじゃないんだって。1週間くらい寮で食事すれば、その意味がわかるとは言われたけど…さすがにそれは無理だよね。
「あ、やべ。もう限定クエ始まんじゃん」
「だからそう言ってんじゃん…飲み物取りに行くだけなのに、何分かかってんすか」
「ごめん。それ、多分私のせいだ。話しかけたっていうか、足止めしちゃったっていうか」
わざとじゃないけど。決してわざとではないんだけど。
「飲み物だったら私が持っていきますよ。何がいいんです?」
「冷蔵庫にコーラの買い置きあるから、それでよろ」
「わかりました。茅ヶ崎さんの部屋?」
「そう。103号室だから〜」
飲み物を取りに行くことを引き受けると、茅ヶ崎さんはさっさと部屋へ戻っていき、摂津くんもそれを追いかけていってしまった。それにしても、限定クエがどーのって言ってたよね?もしかして2人でゲームでもやってるのか…?
何となくさっきは聞くに聞けなくて黙ってたけど、ゲーオタの友人の口から聞く単語が出てきてちょっとびっくりしたよね。茅ヶ崎さんと摂津くんもゲーオタなのかなー、あの感じだと。ということは、皆木くんのあの言葉は彼の格好云々ではなくゲーオタに関してってことになるのか。いや、まだゲーオタって確定したわけじゃないんだけど。とりあえずコーラを持っていって、本人に聞けばいいや。部屋に入れてくれるのかは知らないけど。
談話室のドアを開けると、意外や意外。だーれもいなかった。ちょっと拍子抜けだな〜、と思いながらも冷蔵庫を開け、目当てのコーラを取り出し茅ヶ崎さんの部屋へと向かう。
「茅ヶ崎さーん、持ってきましたよー」
「勝手に入ってきていいよ。つーか、今手ェ離せないから」
「ああ、そっすか…」
ガチャリ、とドアを開けて中に入ると、なかなかにひどい部屋だった。これさ、私が最初に予想したのと大体合ってるんじゃない?部屋が汚いと外面がいいってやつ。外面はわかんないけど、部屋は当たってるな。うん。そして茅ヶ崎さんと摂津くんの手には、スマホが握られている。2人共、真剣な顔して画面見てるからゲームやってるのは当たりだな。
テーブルの上にコーラを置き、そっと摂津くんの手元を覗き込む。すると私が見やすいように体の向きを変えてくれたから、有難く隣に座ってスマホの画面を覗かせてもらうことにした。あ、このゲームって今話題のやつじゃん。
「遥ちゃんもゲームすんの?」
「いや、私は全然…でも友人にゲーオタがいてさ、よく話は聞いてる」
「てか、遥ってこの部屋とか見ても驚かないんだね」
「十分驚いてますよ、汚さに」
掃除のし甲斐がある部屋だよね、ほんと。
でも茅ヶ崎さんが聞きたかったのは部屋のことだけではなく、初めて会った時や舞台上での茅ヶ崎さんと全く違うこと―――だったらしい。んなこと聞いてどうすんの、ってちょっと思っちゃったけど。そしてあんまりそういうこと気にしそうにないのに、この人。車に乗せてもらった時、そんな感じのこと言ってなかったっけ?
「外面いい自覚はあるし、わかってて作ってるけど…大体の奴は素の俺を見るとビビるんだよね」
「別にいいんじゃないですか?外面は必要なもんだし」
「…ふぅん?」
「ゲーム好きなのもいいと思いますよ。私だってのめり込むと周り見えなくなって、よく親や友人に怒られます」
「は?遥ちゃんが?」
「そう。集中すると必要ない音を拾わなくなるの」
人間だもの、誰しも夢中になるものが1つくらいあるでしょ。茅ヶ崎さんの場合、それがゲームだっただけで。
「まぁ、それが日常生活とか稽古とか仕事に支障をきたすようになったらおしまいだけど」
「…言うね、お前」
「ハッキリ言っても茅ヶ崎さんだったら問題ないと思ったから」
「ははっそういう性格、嫌いじゃないわー。思ったよりドライ?」
「どうでしょうね。変わってはいるみたいっすけど」
「ああ…臣にもバカじゃないんだけど、とか言われてたな」
「つき合い長いからね、色んな情けないとことか見せてるから。ダダ漏れだよ、臣くんには」
だから今更、取り繕っても遅いのはわかってるんだけど、それでも嫌われたくないから多少は取り繕うし猫被るよ。バレるけど。
「…遥もやってみる?俺と万里がフレなってやるから」
「面白そうだからいいですよ、…って、『たるち』と『NEO』ってあんたらかい!」
ランキング上位に必ずいるんだよ、と聞いていたハンネ。まっさか最近知り合いになった奴らだとは思わなかった、世界って狭いなー。
そして今更だけど、平日の夕方に社会人であるはずの茅ヶ崎さんがいるのは何でだ。
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