冬組第3回公演


いづみさんに連絡をしたら、まだいつものスタジオで撮影中だと返信があったので人数分のコーヒー、そしてお茶菓子を差し入れに買ってそっとドアを開けた。
ちょうど休憩中なのか、賑やかな感じだけど…フライヤーデザイン担当の一成くんと撮影担当の臣くん、そして脚本家の綴くんが何やら難しそうな顔をしている。

「お、お疲れ様でーす…」
「あっお疲れ様、遥ちゃん!」
「何でそんなに小声で、そーっと入ってきてんの。アンタ」
「いや、何か空気が…」

幸ちゃんはああ、と眉根を寄せた。
何でもポージングの良案が浮かばず、撮影が難航しているんだとか。裏面の撮影はもう済んだし、パンフ用の個人写真ももう撮影済み。残すは一番大事なフライヤーの表なんだそうだけど…珍しく一成くんが不調らしくてね?何度も撮り直しているんだってさ。それが長時間続いているもんだから、ちょっと疲れ気味みたいね。

「一成もちょっと焦ってるみたい。今までこんなに悩んだことなかったみたいだし」
「あー…そういえば、撮影までに大体のデザイン出来上がってたもんね」
「いい写真が撮れてないわけじゃないんだけど、これ!ってものがないらしいよ」
「妥協しなさそうだしなぁ、ここの人達」

せっかく作るなら、最高のものを!っていう気持ちは、物作りを一度でもしたことがあれば恐らくは共感できると思う。妥協することも時には大事なんだろうけど、納得できないものは出したくないし、きっと後で後悔すると思うから。だから、たくさん悩んで辛かったとしても最後まで諦めたくない、妥協したくない―――そう思う気持ちは、痛い程にわかる。
…とはいえ、あまり良くない空気なのも確か。スタジオを借りていられる時間も限られているし、フライヤーの〆切だってある。だからこそ一成くんも焦ってしまっているんだろうけれど、でも焦ってもいいものができるわけじゃないし、良案が浮かぶわけでもないのです。ちょーっと休憩させるべきだね、一成くんも。

「一成くん、臣くん、綴くん、お疲れ」
「ああ…お疲れ、はる」
「お疲れっす」
「はるるん来てたんだ。お疲れー」
「はい、コーヒーと甘いもの。少し糖分摂取と休憩、した方がいいと思うけど?」

差し入れをそれぞれに渡してそう告げると、一成くんが苦笑いを零した。でもそうだね、と頷いてくれたからひとまず安心。彼がコーヒーに口をつけるのを確認し、残りのメンバーにも差し入れを手渡していく。

「丞さんと東さんもどうぞ」
「ありがとう、遥」
「悪いな」
「チョコとクッキーとマドレーヌがありますけど、どれにします?」
「僕はクッキーにしようかな」
「あー………甘さ控えめなの、どれだ?」
「紅茶のマフィン…かなぁ」
「ならそれで」

ごめん、丞さん。皆、疲れてるだろうと思ってたので甘さ控えめなの買ってこなかった…!

「はるる〜ん…なんかいい案ない〜?」
「見事に煮詰まってるねぇ…」
「あはは…」
「んー、パッと思い浮かぶのは捕食シーンだけど…フライヤーでは玲央が吸血鬼っていうのはわからない方がいいんだよね?」
「そっすね。その方がいいかなって」
「………幸ちゃん!ちょっと丞さんの衣装、いじってもいい?」
「いいけど…何するの?」

うん、ちょっと。とだけ返し、休憩中の丞さんに近寄った。触る許可を頂き、彼の首元―――基、ネクタイへと手を伸ばし、綺麗に結ばれたそれをしゅるり、と解く。完全に程いたソレはそのままに、シャツの襟を立ててちょっとだけ調整して…うん、これでいいかなぁ。東さんの方は特に衣装はいじらなくていい。このまま。
準備はこれでいい。お菓子を食べ終えた2人の手からコーヒーを預かり、セットのソファへと腰掛けてもらうようお願いした。

「あー…丞さん、すみません。ソファの下に座ってもらえますか?」
「わかった」
「東さんは丞さんの左側で…うん、そんな感じで大丈夫です」
「ポーズはどうしたらいいかな?」
「…丞さんの左手を持ってください。それで丞さんはあのー…少し気だるげにできますか?」
「こうか?」
「ああうん、いい感じ。もうあれです、玲央に全部預けるイメージで」

臣くんが撮影する位置まで下がり、全体を確認。
うん、すごい。私がイメージした通りだ。

「許可取らずにやっちゃったけど、こんなのはどうかな?」
「東雲さんすっげ…!」
「…一成」
「うん、うん…!これイイ感じ!おみみ、これで撮っちゃって!」
「任せろ」

どうやらデザイナーである一成くんのお眼鏡にかなったようです。シャッター音を聞きながら、私はそっと安堵の息を吐いた。
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