左京と監督の場合
真剣な顔で左京さんと私に話があります、と声をかけてきたのは、臣くんと遥ちゃんだった。嫌な報告でないといいなぁ、と内心苦笑いしつつ、何とか21時に談話室で話そうと返事をしたのだけれど。
「…嫌な予感しかしないの、私だけですか?」
「いや、…あいつらに限って、急に辞めると言い出すわけはないと思うが」
side:いづみ
そして時刻は21時。あまり他の人に聞かれたらマズいかな、と思っていたんだけれど、今日は皆さっさと部屋へと引き上げていった。特に声をかけたわけでもないんだけどなぁ…まぁ、ラッキーだなって思ってしまうけれどね。もしくは部屋を変えるかな、とか考えていた所だったし。
というわけで、ソファに座って臣くんと遥ちゃんと向き合っている状態なんだけど、何だろう。この娘さんをぼくにください!的な感じは。いや、左京さんと私は2人の親でも何でもないですけれども。
「で、話ってのはなんだ?」
「いきなり突っ込むんですかお父さん!!」
「誰がお父さんだ!!」
「あ、間違えた。左京さん」
直前まで考えていたことが、あんまりにもすんなり口から出ていって自分でもビックリしてます。臣くん達もぽかーんとした顔になって、その直後に吹き出した。当然ながら左京さんが笑うんじゃねぇ、と睨んでおりますが、ツボに入っちゃったのかケラケラと笑い続けている。
うん…なんかごめんなさい。結局、本題に入れたのはそれから10分後のことでした。
「ええっとですね、実は…」
「少し前からなんだが、はるとつき合っていて」
今度は私達がぽかーんとする番だった。
え、つき合ってって…私が知っている意味であってる?男女のおつき合いってことでいいんだよね?えっ本当に?!
「………マジか」
「左京さんがビックリし過ぎて、普段使わない言葉発した…!」
「あはは…驚かせてすみません。だからなんだって話なんですが、2人には伝えておいた方がいいと思って」
「ビックリしたけど、でもそっかー…最近、2人の様子がおかしかったように見えてたからちょっと安心したよ」
幼なじみだからといって、常日頃から一緒にいるわけではない。それはもちろん承知しているのだけれど、でも寮内では一緒にいる姿をよく見かけていたからさ?余計に最近は一緒にいないな、どうしたんだろうって思っていた所だったの。
ケンカしたってわけでもなさそうだし、ギクシャクしているのは確かだけれど殺伐としたというか…ええっと、険悪な雰囲気を醸し出しているわけでもなかったから聞いてみるかどうか悩んでいたのです。だけど、2人からの報告でようやく合点がいった。互いに意識し過ぎてたのかな、もしかして。
「ウチは特に恋愛禁止ってわけじゃないから、その辺りは心配しなくていいよ!」
「まぁ…風紀を乱さなきゃ構わねぇ。…良かったな」
そう呟いた左京さんの口元は、緩く弧を描いていた。こっちが驚くくらいに優しい笑みで、私は思わず―――もう一度、お父さん!と叫んでしまって、容赦なく頬を抓られました。めちゃくちゃ痛いです。
ぷりぷりと怒る左京さんと、涙目で頬をさする私を見て、臣くん達はまた盛大に吹き出した。
「あははっいづみさん、何でまたお父さんって叫んじゃうかな〜!」
「だってさっきの笑み見た?!どう見たって娘の幸せを願う、っいたたたたた?!」
「お前は何度、俺を父親扱いするつもりだ!!」
「左京さん、そろそろカントクの頬が赤くなっちまいますよ」
止めてくれてありがとう、臣くん。でも多分、もう手遅れだと思います。
真剣な顔で話がある、と言われた時はヒヤッとしたけど、でも嬉しい報告だったからもういいかなって思えちゃう。そんなことを、臣くんと遥ちゃんの笑顔を見ながら思ったんだ。