綴の場合


「え、それマジっすか?伏見さん……!」
「ああ、マジだよ」

照れ臭そうに笑った伏見さんを見て、俺はようやくああ、本当に本当なんだってわかって、大きく息を吐き出し、椅子に更に深く腰を掛けた。

 side:綴

伏見さんとも東雲さんとも大学が同じだから、昼メシの時に食堂で偶然会ったり、昼メシ時じゃなくても構内でバッタリなんてことはよくある。だからちょっとした世間話することも多かったと思うし、何の因果か偶然か、俺はこの人達が両片思いをしていることに気がついてしまった。…というか、気づかざるを得ない状況になったっていう方が正しいかも。
でもお互いがお互いを好きだってことに気がついた後は、どうなったかは知らない。俺も元々、深く突っ込んで聞くタイプじゃねーし。まぁ、場合によっては聞くこともあるけど…伏見さん達の場合は、特にデリケートな問題だからさ?あれからどうなりました、なんて不躾に聞くわけにもいかねぇだろ。気にならないって言ったら嘘になるけど、それでも突っ込むことはしないでおこうと決めていたんだ。

そんなある日。講義も全部終わって、自販機で飲み物を買っていたら講義終わりらしい伏見さんとバッタリ会った。カメラを持ってたから、これから写真部の活動なんだろーなって思ってたんだけど…少しだけ時間いいか、って言われたんだよな。
あとはもう寮に帰るだけだったから、別にいっすよって返事をして食堂へ来たわけなのだが―――そしたら東雲さんとつき合い始めたんだって伏見さんが言い出して、冒頭の会話に至る。

「は〜…良かった、落ち着くとこに落ち着いたんすね」
「綴には迷惑をかけたな。ありがとう」
「いえいえ、俺は何にもしてないっすから…ええっと、おめでとうございます」
「…うん」

本気でホッとした。好き合ってるのはわかってたから、早くくっついてしまえばいいのにってちょっと思ってたから。
でも当人同士でしかわからない葛藤とか、問題とか、そういうのがあるだろうからな。せっつくのも何か違うだろ?俺達の年代の恋愛って。

「あの時、綴と話をしていなかったら…きっとこうはならなかった」
「それは大袈裟だと思いますけど、…ないと言い切れないのも本心っす」
「はは。そうだろうな」

勘が鋭い人だと思っていたけれど、伏見さんは予想以上に自分の気持ちには疎い人だった。そこまでわかってるのに肝心の答えに辿り着いてねぇのかよ!!って、本気で思ったからな。俺。いや、言葉にもしちまったけど。食堂で叫んじまったけど。今思うとなにやってんだ、って頭抱えたくなるけど、それくらい驚いてたんだってことにしてくれ。

「…俺、伏見さんと東雲さんが一緒にいるの見ると安心するんすよ」
「え?」
「あー仲良いんだなーって和むっつーか…一緒にいないの見ると、ちょっと違和感を覚えるくらいで」

常に一緒にいるわけじゃない。そんなのは俺だってわかってる、わかってるけど…2人の間に流れる空気とか、独特の雰囲気とか、そういうのが心地いいっつーか。見ていてホッとするっつーか。あー、あれだ、お似合いなんだ。伏見さんと東雲さんは。

「改めて言われると、…案外照れるものなんだな。こういうの」
「まぁ、仲良くやってくださいってことで。上から目線で申し訳ないっすけど」
「いや…肝に銘じておくよ。俺ももう泣かせたくはないから」

そう言って伏見さんは視線を手元のカップに落とした。伏し目がちになったその表情は、まるで愛しいものを見ているかのような…とても、優しい表情。ほんとベタ惚れなんだなぁ、この人。
心の底から愛しく思っていなければ、きっとこんな表情はできないと思う。もちろん、伏見さんは無意識だと思うけどな。今だったら王道の恋愛ものの脚本が書けそうな気がする。男所帯のMANKAIカンパニーじゃ使われることはないだろうけど、ストックとして書いておくのも悪くないかもしれない。

「そんなに嬉しそうな伏見さん、初めて見るかも」
「…ニヤけてるか?俺」
「ニヤけてるというか、いつもより柔らかさが増してるっつーか…上手く言えないっすけど」

別に締まりのない顔をしているわけじゃないんだよな。あんまり普段の伏見さんと変わりはないと思うんだけど、さっきみたいに東雲さんのことを話している時とか、ふっとした時の表情が優しいって感じる。雰囲気や笑顔が柔らかいなって思う。
伏見さん自身はそれが恥ずかしかったり、嫌だったりするのかもしれないけど、俺からしてみれば劇団仲間が嬉しそうにしているのを見るのはやっぱりいいなって思えるから。

「やっぱり伏見さんと東雲さんは、」

珍しくきょとん、とした表情を浮かべた先輩に、俺はニッと笑みを浮かべた。

「笑ってた方が、俺は好きっす」
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