幸の場合


遥も臣も、別段不器用ってわけじゃないと思っていた。割と何でもそつなくこなすし、苦手なものってそうないんじゃないの?って思うくらい。でも案外、恋愛方面になるとてんでダメになる2人だってことを最近知った。
いや、正確に言うと、臣に関してはよく知らないけど。でも遥は猪突猛進するタイプかと思えば、さっきも言った通り恋愛方面に関してはてんでダメ。ポンコツだった。

 side:幸

「なに、ようやく納まる所に納まったの?」
「幸ちゃん、相変わらず辛辣…」
「どれだけ遠回りしたと思ってんの」

ジト目で溜息を吐いてやれば、居心地悪そうに視線を逸らした彼女は「ごもっともです」と小さな声で呟いた。
ひょんなことから遥が臣に幼なじみ以上の好意を抱いていることを知ったオレは、度々相談を受けることがあった。度々って言っても2回くらいだけど。けれど、その2回があまりにも強烈だったんだよね…特に2回目。だって臣が遥へ気持ちを明かしたのに、それにきちんと返事を返す前にベッドに潜り込んでまた後日!って言った、とか有り得ないでしょ。普通。
丸く収まるかと思えば、思わぬ所で臆病と逃亡癖を発揮したもんだから、こっちが想像していた以上に拗れたんだ。とはいえ、臣が気持ちを明かすまでも拗れてたんだけど。まぁ、臣の方は遥の気持ちをわかってる状態だったから、ダメージは少ない…というか、ほぼないに等しい感じだったけど。…多分。

「その節は色々とお世話になりました…!」
「お世話した覚えはないけど、…でもまぁ良かったんじゃない?」
「大学の友達にも相談できなかったから、幸ちゃんが話を聞いてくれて助かったよ」
「…そ」

遥が恥ずかし気もなくそんなことを言って、ふにゃっとした笑顔を浮かべるから―――どんどん顔に熱が集まっていって、顔を背けるしかなかった。赤い顔を見たら遥の奴、絶対可愛いって叫ぶでしょ。可愛いって言われるのが嫌だってわけじゃないけど、オレが思っているような意味じゃない『可愛い』を言われるのは…何ていうか、慣れない。
顔を背けて、運ばれてきたばかりの可愛らしいケーキを口に運んだ。目の前で薄らと笑みを浮かべて紅茶を飲んでいる遥からの、お礼らしい。

「アンタらだったら問題ないとは思うけど、何かあったら話くらい聞いてあげる」
「うん、ありがと」
「他の奴らには話したの?臣とつき合い始めたこと」
「いづみさんと左京さんだけ。他の人達には気づかれたら言えばいいかな、って」

ま、報告義務があるわけでもないしね。それに元々の距離感が近いから、きっとそうそう気づかれないんじゃない?臣も遥もTPOくらい弁えてるだろうから、団員がいる前でわかりやすくいちゃつくってこともないでしょ。
でも太一や一成辺りは気がついたら、うるさく騒ぎそうだなぁ…あ、その光景を想像するだけでちょっとうんざりしてきたかも。思わず眉間にシワを寄せれば、向かいに座っている遥がどうしたの?と首を傾げた。

「太一と一成が気がついたらうるさそうだな、と思っただけ」
「ああ…それは、言っちゃ悪いけど確かにそうかも」

眉間にシワを寄せた理由を素直に言葉にすれば、遥も苦笑を浮かべた。何となく予想通りの反応。あの2人の性格を知っていれば、想像に難くないだろうし…当然といえば当然なんだろう。遥の反応は。
きっと2人して臣と遥にきっかけとか馴れ初めとか、それはもう根掘り葉掘り聞きまくるんだろうね。オレだったら絶対に答えない。うるさいって一蹴する。だけど―――この2人は、苦笑を浮かべながらもきちんとひとつひとつに答えてやるのだろう。それも容易に想像できることだ。
だって臣も遥も、呆れるほどにお人好しで優しい奴だから。そこまで律儀につき合ってやる必要もないでしょ、ってことまで、つき合っちゃうんだよね。これはもう性格なんだろうから仕方ないんだろうけど…もう少し厳しくいっても問題ないでしょ、っていつでも思ってた。

「あ、幸ちゃん。この前、可愛いカフェ見つけたの!」
「カフェ?」
「そう。外観や内装はもちろん、ケーキとかも可愛くってさ〜」
「へぇ…」

遥は鼻唄を歌いながらスマホをいじり、ほらこれ!と嬉しそうに画面をこちらに向けた。そこに映し出されていたのは、さっき話していたカフェのホームページ。
へぇ…確かにホームページも可愛いし、載っているメニューの写真も可愛いものが多い。アリスをモチーフにしたカフェか、ふぅん…なかなかに良さそうじゃん。

「遥が行きたいなら、行ってあげてもいい」
「ほんと?!是非是非!いづみさんもこういう所、好きだったりするかなぁ」
「カレー星人はカレーがないと来ないでしょ」
「ああ…さすがにカレーはメニューにないなぁ」

だろうね。こういうコンセプトカフェだとカレーはメニューに入れやすかったりするけど、さすがにアリスがモチーフだと合わないでしょ。
一瞬、臣とデートで行けばいいのにって思ったけど、さっき見た内装と臣の外見があまりにもミスマッチでさすがにないな、と思った。いや、オレがないなって感じるだけで実際は合うのかもしんないけど。でもまぁ…オレに言ってきたってことは、きっと臣と一緒に行く気はないんだろ。

「いつにしよう…幸ちゃんはいつが空いてる?」
「今月中だったらまだ時間あるよ。遥は?サークルとか」
「この前、定期公演終わったばっかりだからしばらくは大丈夫!そしたら…」

スケジュール帳を開きながら、にこにこと笑っている遥。見慣れた笑みのはずなのに何でだろう、オレまでつられてしまった。
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