きみにだけは知られたくなかった
臣くんと恋人という関係になって、早くも2ヶ月が過ぎようとしていた。恋人になったとはいえ、大学に行っている間は今までと変わりないし、言ってしまえば寮に帰ってからだって同じだったりする。そりゃあ今までよりは少しだけ、本当に少しだけ2人でいる時間も増えたけど…でもいづみさんと左京さんにしかつき合い始めたことを話してないから、大っぴらにくっついたりとかはしていない。
というか、皆に話していたとしてもそんなのは恥ずかしすぎて無理だ。死ねる気がするもん、そんなの。だから、私達の関係は傍から見ると『恋人』とは言い難いのかもしれない。一応、大学の友人には話したけどさ。めちゃくちゃ驚かれたのは今でも解せない。そんなに驚かなくてもいいじゃんか、確かに今まで好きな人がいることすら話していなかったけれども!
「…あれ、臣くん?」
そんなことを考えながら図書館へ向かっていたら、さっきまで考えていた人―――臣くんを見かけた。この時間、臣くんも空きだったんだな〜と思いながら近づこうとして、思わず足を止める。だってアイツは1人じゃなかったから。もう1人、可愛らしい女の子がそこに立っていたのです。
雰囲気的に告白、ってやつですかね…?これって覗き見ってやつになるのかなーわざとじゃないんだけどなー。とりあえず、ここにいちゃダメだ。さっさと立ち去ろう、それで図書館へ行こう。持っていたカバンと本をギュッと抱きしめるように持ち、踵を返そうとした瞬間、
「伏見くんが好き。私とつき合ってくれないかな…!」
縋るような声に、ドクリと心臓が跳ねる。私とは違うその声はどこか甘さを含んでいて、胸が軋むように痛んだ。
大丈夫、アイツは…臣くんは私の恋人だから、だからその申し出を受けることはない。返事なんてわかりきってるじゃないか。そう自分に言い聞かせようとしても、不安は拭いきれなくて。じり、と後退し、私は逃げるようにその場を離れた。
走って、走って、ようやく辿り着いたのは、日向ぼっこするのに最適な中庭。講義真っ最中の今は私以外に誰もいない。ああ、好都合だ…急に焦った顔で飛び込んで来たらビックリするだろうから。それに今は、誰にも会いたくない。臣くんにだって顔を合わせたくない。上手く笑える自信なんてないから、だからしばらくは1人でいたい。
「どう、しよう…」
臣くんの気持ちはまだ、私に向いていると思う。でもその反面、恋人らしいことをほとんどしていない現状に焦りの気持ちが芽生えているのも確かだった。その焦りを臣くんが抱いているとしたら、…それをきっかけに私に愛想を尽かしていたら―――あの告白を、受けることだって有り得ると思ってしまったんだ。
有り得ない、大丈夫だって思いたい。あの日の告白を、臣くんの気持ちを信じたい。信じていたい。何より、臣くんと別れたくなんてない…!好きだから、他の誰よりも好きだから、誰にも…渡したくないの。
「東雲さん?」
「ッ…つ、づるくん……?」
「えっ?!ど、どうしたんすか…!」
「う、…う〜……っ」
「ああああ、話聞きますからとりあえず移動しましょ!ね?」
綴くんの顔を見てまるでダムが決壊したかのように、ダバダバと涙が溢れてきた。ごめんね、と思いながらも溢れてくる涙を止める術がなくって、必死にそれを拭うことしかできない。ああもう、後輩に迷惑をかけてしまうなんて情けない。
ひたすらに泣き続ける私の腕を掴んで立たせ、彼はどこかへ向かって歩き出した。
「…綴?はる?」
掴まれた手を見ていた私は気がつかなかった。臣くんがそんな私達を目撃していたなんて。