ついに私も賞金首です


毎朝、ニュースクーから新聞を受け取るのは私の役目。お金を払って食堂の一角に放置。そこに置いておけば、興味があるクルーが勝手に読むし。最終的にはキャプテンの手に渡ってるんだけど。
今日も新聞を受け取って、欄干に寄り掛かりながら早速読み始める。一番に読めるのが、このお役目の利点だよね〜新聞では戦争にならないけど、この時間は食事当番と不寝番のクルーしか起きていないから静かに読めるんだ。


「うーん…特に気になる情報はないかなぁ」


海賊時代と呼ばれるこの世だ。そして世界情勢というものは、一瞬にして変わっていく。事件とかクーデターとか、色んなことがそこら中で起きてはいるけれど、それは私達ハートの海賊団にとってはあまり必要がないものだったりする。
だってどこの国でクーデターが起きようと、正義の味方でもない私達には関係のないことだもの。一応、知識として仕入れはするけどさ。あっという間にそれらは記憶の奥底に沈められてしまう。上書きされてしまうのである。
バサッと紙面を捲ると、ヒラヒラと紙が2枚ほど落ちてきた。何だろう、これ。不思議に思いながらも拾い上げると、それは手配書、だった。


「モンキー・D・ルフィ…」


手配書の写真は隠し撮り…と言うのもアレだけど、堂々と本人に許可をとって撮られているものではないと聞いたことがある。我がキャプテンの手配書の写真も、ねぇいつ撮ったのこれ!!と襟を引っ掴んでガクガク揺さぶりたくなるくらい、本当に覚えのない写真でした。いや、それでもキャプテンの写真めっちゃカッコ良かったんですけども。
その手配書はいつでも見られるように、と食堂の壁に貼ってあったりする。どこかでもらう機会があれば、自室にも貼りたいんだけど…そう上手くはいかないもんですよね。
まぁ、それは置いておくとして。この少年の手配書に使われている写真は、まるで撮りますよーって言われたかのような満面の笑み。今までにいくつもの賞金首の手配書を見てきたけれど、ここまで楽しそうに笑ってる写真は初めて見るなぁ。こんなことってあるんだ。


「リズ?何してるんだ?」
「あ、ペンくんおはよ」
「おはよ。…手配書か?」
「そう。今日の新聞に挟まってたの」


あ、そういえばもう1枚挟まってたよね。そっちも手配書なのかなー。


「お。」
「え、」


朝も早くから私の絶叫が甲板に響き渡りました。





「船長に続き、リズが賞金首か〜」
「早々に2人目が出るとは思わなかったよな!」


私の絶叫を目覚ましに起きてきたクルー達。起きてきた当初はうるさい、とか、朝っぱらからなんだよ〜と言っていたのだけれど、理由を知った途端に嬉しそうに笑った。今日の夜は祝いの宴だな!とか話しているのを見るのはとても楽しいし、自分のことのように喜んでくれるのはくすぐったいけど嬉しいと、そう感じているのも事実なのだが―――くしゃり、と握りつぶした手配書を視界に映せば、自然と眉間にシワが寄る。
これが本当にただ、賞金首になったのならば、私も手放しで喜べたと思う。でもこれは、キャプテンの時とワケが違う。手放しで喜べるような事実じゃなかった。これ以上、喜んでくれているクルーを見ているのは辛くて、私はそっと食堂を後にした。

甲板へ続く重い扉を開ければ、そこには青い空と青い海が広がっている。穏やかな風が頬を撫でて、潮の香りを思いっきり吸い込めば、少しだけ気持ちが晴れたような気がした。


「…これ、捨てちゃおう」


ぐしゃぐしゃになった手配書。新聞に挟まっていたのはこれ1枚だけだから、これさえ捨ててしまえば私の心の平穏は保たれるはずだ。皆には知られてしまっているけれど、きっと私が手配書をぐしゃぐしゃにしてしまった理由には気がついていないと思う。その証拠に誰も疑問を発しなかったから。一緒に見ていたペンくんも驚いてはいたけれど、怪訝な声ではなかったし。
だからそれに気がついているのは、…私だけだと思う。本当ならば知っておいてもらった方がいいのかもしれないけれど、これ以上の迷惑と心配をかけるのは気が引けてしまって思わず手配書を握りつぶしてしまったんだ。よし、誰にも見られないうちに海に―――


「ほう、なかなかの金額じゃねぇか」
「きっ………!!!」
「だが"ONLY ALIVE"とは…ずいぶんといけ好かねぇ真似をしやがる」


キャプテン〜〜〜〜〜ッ?!いつの間に甲板に出てきたんですか!貴方、いつもならまだ寝てる時間のはずなのに何で今日に限ってこんなに早起きしていらっしゃる…!
キャプテンは驚きすぎて声も出せない私に見向きもせず、いつ取り上げられたのかもわからないぐしゃぐしゃの手配書をじっと見つめていた。


「…私が生きていることを研究員に知られれば、こうなるだろうなってことは予想してたけど」
「その割にはずいぶんと落ち込んでるじゃねぇか」
「別に、…落ち込んでるわけじゃないっす」
「クルー達は大騒ぎで、宴の許可まで取りに来たぞ。おかげで目が覚めちまった」


それは何ていうか、…すみませんとしか言いようがないのだけれど。
でも安眠妨害されたって言う割には、そんな不機嫌ではない気がする。それとももう憂さ晴らしが済んだ後、とでもいうのだろうか。…もしそうだとしたら、ご愁傷様と合掌しておこう。心の中で。誰がその的になったかまではわからないけれど。


「それで今度は何をごちゃごちゃ考えていやがる」


ふわり、とキャプテンが紙飛行機を大海原へと飛ばした。あれはきっと、というか確実に私の手配書だ。捨てようとしているのを見たからなのか、それとももう興味を持っていないのかはわからないけれど…どっちにしろキャプテンには不要なものだったのだろう。
私はふわふわと飛んでいくそれを目にしながら、んーと気のない返事を返した。彼の指摘通り考え事はしているけれど、でもそれをどう説明したらいいのかがわからない。


「んん……また、迷惑かけるんだなぁって」
「あ?」
「いや、賞金首になった時点で大迷惑なのは百も承知なんだけど…面倒事に巻き込むのは、あれっきりにしたかったのにって思って」
「―――誰がいつ、迷惑だなんて言った」


思いっきり溜息をつき、ひっくい声で紡がれた言葉に反射的に肩がビクリ、と震えた。海へ向けた視線を、キャプテンに向けることすらできない。この人を怖いと思ったのは、恐らく初対面の時以来だろう。多分、今感じている『恐怖』とあの時に感じた『恐怖』は別物だと思うけれど。
うう、はぐらかしてもしつっこく聞かれると思ったから素直に話したけど、それはそれで大問題だった。というか、深く考えなくてもわかることだよね…普通なら。ちょっと判断力鈍ってるのかもしれない。思っている以上に動揺しているってことか、私。頭抱えて欄干に打ち付けたい。別に傷をつけたいわけでも、ドMってわけでもないんだけど。



「おいリズ、顔を上げろ」
「ヤダ。絶対情けない顔してるから、キャプテンには見せたくない」


海から視線を外し、欄干に載せていた腕に顔を埋める。頭上から溜息を吐く音が聞こえたけど、本当にしばらく顔を見ないで頂きたい。ああでも、キャプテンのことだから無理矢理に上げさせそうだよな〜とか、頭の片隅で考えてたらマジでやられました。
だからっ!グキッていってるからね?!っていうか、嫌だって言ってるんだからたまにはこっちの言い分を素直に聞いてくれたっていいじゃないですか!!!…聞くわけないだろうけどね!命令されるの大っ嫌いな人だから!!


「〜〜〜ッキャプテン!グキッてなるから、いきなり引っ張るのやめてくれません?!」
「お前が素直に顔を上げりゃあ済んだ話だろう」
「見られたくないって言いました!ちゃんと!!」
「おれに命令するな」
「あーもうっ!どうしようもないなこの人はー!!」


てかさ、いまだに無理矢理顔を上げさせられた状態のままだからさ、いい加減首が痛いんですけど。キャプテンめちゃくちゃ身長高いから、思いっきり上を向かないといけないんですよ。それはいつものことだし、いい加減慣れつつあるけど…それがずっとっていうのはキツイんですってば。
でもキャプテンは手を離してくれる様子はなく、じーとこっちを見下ろしているだけ。あの、ですね、整った顔している貴方にじーっと見られると…ものすっごく恥ずかしいって理解してる?いや、してるわけないよなー。うん、絶対してない。するはずもない。これはもう私が諦めるしかないのだろう…散々叫んだおかけで、気持ちはちょっと落ち着いたけども。多分、キャプテン効果もある。


「…世界政府が、追ってくるんですよ」
「おれ達は海賊だ。追われるのには慣れてる。違うか?」
「海軍よりも質が悪いのは、キャプテンだってわかってるでしょ」
「それがどうした」


額にかけられていた手がようやく外されたかと思えば、今度は思いっきり腕を引っ張られてキャプテンの胸へとダイブ。ついでにわぷって変な声も出た。文句を言おうと思ったのにぎゅうっと抱き込まれてしまっては、口を開くこともできない。一応、呼吸はできるけど。
仕方がないのでそのまま大人しくしていることにした。キャプテンの目的?そんなもん知るかってんだ。


「お前はウチのクルーだ。つまりはおれのモンだろう」
「……」
「誰にも奪わせる気はねぇよ。―――なぁ、リズ」


キャプテンの腕の中で、心底良かったと思う。だって、さっき以上に情けない顔になっているだろうから。でも…泣きたくなるくらい、嬉しかったんだ。

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