ただいまくらい言ってよ
「う……」
一番最初に映ったのは、見慣れた天井。ここ…ポーラータング号の医務室……?
何でここにいるんだろう。私、確か甲板であいつらを見かけて、それで実験施設に―――
「キャプテンッ…〜〜〜〜〜ッ?!」
勢い良く起き上がった―――つもりだったのだけれど、体が上手く動かない。そのままヘロヘロとベッドに逆戻りしてしまった。え、なにこれ。何でこんなに体が重いの…?確かに血は流し過ぎてたと思うけど、ここまでなの?
あ、でも牢屋の中でも体を動かすのが億劫だったような記憶がある……って、今はそんなことを思い出している場合じゃないんだって!キャプテン達はっ…!
「急に起き上がるな、バカ」
「きゃ、きゃぷてん…?」
「ああ」
「ご、ご無事デシタカ…」
「おれを誰だと思ってる。それに何で片言なんだよ、リズ」
むにーっとほっぺたをつねられた。ようやくしっかりと視界に映したキャプテンの姿。顔も、首も、腕も…見える範囲に湿布や包帯は見当たらない。恐らくは怪我ひとつ負っていないってことなんだろう。そうだよね、キャプテンめちゃくちゃ強いんだもんね。賞金懸けられるくらいだもん、あんな奴らに怪我を負わされるなんてこと万が一にも有り得ないことだった。
ペンくんも言ってたじゃないか、キャプテンは簡単に負けないって。シャッちゃんやベポくんも大丈夫だって。それでもやっぱり心配なのは本当だから、さりげなーく2人のことも尋ねてみると「怪我してると思うか?」って鼻で笑われました。
ですよね、知ってました。うん。相手にしていたのは研究員だもん…戦闘員でも、海賊でも、海兵でもないもんね。どう考えたってキャプテン達が負けるはずがない、この人達の方がずっと強い。
「それで?気分はどうだ」
「ええっと…だいじょ、」
「嘘を言ったら…どうなるかわかってんだろうな。ん?」
キャプテン、怖い。口元は弧を描いてるけど、目が笑ってない。笑ってないですよ、ちっとも!!
「体、が」
「ああ」
「重くて、ダルイ…です」
「だろうな。血を流し過ぎてる、輸血しねぇとダメな程だった。他は?」
「我慢は、できるけど……痛い、です」
「そうか。いい傾向だな」
いい傾向…?一体、どういう意味だろう。カルテにペンを走らせているキャプテンを見上げ、首を傾げた。いまだカルテに視線を向けたままだから気がつかないだろうな、とは思いつつ。でもそれは私の思い過ごしで、気配で察したのかカルテから目を逸らさぬまま、「痛ェと口にしただろ」と言われました。
…ああ、成程。そういうことか。そういえば痛い、って言ったこと今までに一度もなかったかもしれない。痛いと口にすることはダメなことだって、刷り込まれていたから。前にペンくん達に言ったことがあるけど、痛いことを我慢しているとか、怪我を隠しているとか、私はそんなつもり全然なくって。それが当たり前だと、普通なんだと思っていた。
違うよ、と教えてくれたのはキャプテン達。どんな怪我でも放置するべきではないし、辛いなら言葉にしろって言われたこともある。
「ったく…誰の許可を得て捕まってやがんだ、お前は」
「すみません…」
「また余計なことをごちゃごちゃと考えていたんだろう」
「余計なことって…私には大事なことだもん」
ハートが大事。キャプテンはもっと大事。大事なものを守りたい、傷つけたくないって思ったら、こう…勝手に体が動いてたといいますか。
うん、キャプテンがご立腹なのは、空気でわかっちゃいるんだけど…!でも私にも譲れないことが、少しは存在するんだよ。これだけはどうしたって譲れないし、譲りたくないの。それはわかってよ。
「これが―――…最善だと思ったんだもの」
「最善?船を下りて捕まることがか?」
「…それ以外に、方法がないってその時は思ったから」
きっと、方法なんていくらでも転がっていた。大人しくあいつらの元へ行く必要だって、多分なかったんだと思う。
「クルー達が嘆いてたぞ。何の為に自分達がいるんだ、ってな」
「あとで…ちゃんと謝りに行く」
「そうしろ」
そっと目を閉じれば、ゆるゆると意識が落ちていく感覚。あー…せっかくキャプテンが傍にいてくれているのに、何だかすごく眠い。さっきまで眠ってたはずなのに。起きたばかりなのに、何でこんなに眠気が強いんだろう。
捕まっている間、眠っていなかったから?でもそれくらいでこんなに強い眠気に襲われたこと、今までになかったはずなのになぁ。
「キャプテン…何か盛った…?めちゃくちゃ眠い…」
「誰が盛るか。お前に睡眠薬は効かねぇって言ってんだろ」
「うん、そうだけど…」
「体力がガタ落ちしてんだ。熱が出てねぇだけマシだが…眠って体力回復しようとしてんだよ」
お前はそういう体質だろう。
キャプテンにそう言われて、ようやく眠気の正体に辿り着いた。そっか…キャプテンに拾ってもらってから、あまり無茶な戦い方をしなくなったから忘れてた。私の体は、そういう風にされたんだ。いいのか悪いのか…今でも判別つかないなぁ。
手の甲を額に当てて溜息をひとつ。いいやもう、考えても答えが永遠に出ないことは放置しておくに限る。とっとと寝てしまおう。
「とりあえず寝ろ」
「うん……」
頭をぽんぽん、と優しく撫でられて、私はそのままいい気持ちで意識を手放した。ああ、やっぱり…この人の傍は落ち着くなぁなんて都合のいいことを思いながら。
「ただいまくらい言えねぇのかこいつは…まぁ、いい。―――おかえり、リズ」
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