これが日常
だったら、貴方が私を殺してください。
あどけない顔。そのくせ、生きることも何もかもを諦めたような色を宿していない瞳。抑揚のない声で、少女はそう言った。それが条件だ、とでも言わんばかりに。
「キャプテーン!」
「…なんだ、リズ」
「ペンくんとベポくんが捜してるよ」
「わかった。あいつらは?」
「食堂。海図広げてたから、島のことについてじゃないかな」
捜し人、我らがキャプテンは甲板で何やら難しそうな本を読んでいた。多分、医学書なんだろう。頭のいいこの人の愛用の本といえば大体が医学書だし。キャプテンの自室の本棚も、難しそうな本がこれでもか!ってくらいに詰め込まれている。
私にとっては面白いと感じないものだし、難しすぎてこれっぽっちもわからないけど、船長兼医者でもあるキャプテンにはとてもとても大事なことなんだろう。
トラファルガー・ロー。それがハートの海賊団率いる船長の名前だ。
「ペンギン、ベポ」
「あ、キャプテン!」
「リズ、船長連れてきてくれてありがとな」
「どういたしまして」
キャプテンがベポくんの隣に腰を下ろすのを見届けて、私は人数分の飲み物を用意するべくキッチンへと足を運ぶ。お昼の時間はとっくに過ぎたし、夕食の仕込みをするには少しばかり早いこの時間だと当番のクルーは誰もいなかった。まぁ、いたとしてもごめんねーって言いながら飲み物の準備するけどね、私。
ええっと、キャプテンとペンくんはコーヒーで、私はココア………ベポくん、今日は何を飲むんだろう。アザラシの生き血とか?
「ベポくーん。アザラシの生き血とオレンジジュース、どっちがいい?」
「なんでその二択なの?!」
「てか、生き血あんのかよ」
「この前、抜いたのが保管されてた気がする。輸血パックに」
「…船長、オペの時に間違って使わないでくださいよ。アザラシの血」
「どうだろうな」
やーめーてー!!と叫ぶペンくん。それを聞いたキャプテンは楽しそうにくつくつと笑ってる。わっるーい顔ではあるけれど、それもキャプテンの魅力の1つだ。うん、ウチの船長は今日も素敵にカッコイイ。キャプテンだけじゃない、ペンくんだってベポくんだってシャッちゃんだって…それに他のクルー全員、それぞれに魅力があって素敵。カッコイイ。
誰が何と言おうと、この海で一番カッコイイのはハート海賊団だって胸を張れるし宣言するよ。コーヒー、ココア、オレンジジュースを注いだカップを運びながら、そんなことを思う。
「アザラシの血って適合するのかな、人間の体に」
「するわけねぇだろ?!動物の血だぞ」
「そりゃやってみねぇとわかんねぇだろ、ペンギン」
「しなくてもわかりますよね?!アンタ医者だろ!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐペンくんに、くつくつと笑いながら静かに返すキャプテン。この2人はいつもこんな感じな気がする。ベポくんは2人の会話には参加せず、美味しそうにオレンジジュースを飲んでいます。かくいう私もペンくんの隣に腰を下ろしてココアを啜っているんだけど。あ、そういえばまだクッキーが余ってた気がするし持ってこようかな。
確かこの辺りに…と、記憶を頼りにキッチンの戸棚をガサガサと漁っていると、奥の方に瓶詰されているクッキーを発見!で、でもこれはさすがに届かないぞ…?!何でこんな奥に突っ込んじゃったかな?!誰だよ、しまったの………私か。私しかいないよな、作ったのも私だし。このまま諦めるのも悔しいし、椅子を持ってくるかなぁ。
「お前、さっきからなにしてるんだ」
「あ、キャプテン。クッキー食べようと思ったんだけど…」
いつの間に後ろに来てたんですかキャプテン。さすがにもう驚いたりしなくなったけどな!まぁ、それはさておき瓶詰クッキーを指差すと、キャプテンは「ああ、」と呟いてあっさりとそれを取ってくれました。
おおお、さすがキャプテン!こういう時、高身長って便利だよな〜って思う。普段はそこまで羨ましくはないけど。…ああでも、どんな景色なのかなぁって思うことはあるか。
「…ねーキャプテン」
「あ?」
「あとで肩車して」
「断る。」
「えー!けちんぼ!」
ガキか、と溜息吐いたキャプテンは、瓶詰クッキーを私に押し付けるようにして渡してさっさとペンくん達の所へ戻っていく。もう一度だけ小さな声でけちんぼ、と呟いて、彼の背を追う。でも再び椅子に腰を下ろす頃には、もう口元には笑みを浮かべてしまう。
別にドМだとか、いじめられたいとか、そういう性癖があるわけじゃないんだけど…キャプテンにはどんな冷たいこと言われても、何かいいかなって思っちゃうんだもん。根っこはとても優しい人だってわかってるし。冷たいこと言ってても、相手のことを想っていたり…あれなんだよね、キャプテンってきっとわかりにくい人なんだよ。
「リズ、なに持ってきたの?」
「クッキー。ベポくんも食べる?」
「えっいいの?!食べる!」
「それって昨日、おやつに作ってたやつか?」
「そう、その余り」
甘いものがそんなに得意ではないキャプテンでも食べられるよう、ちゃーんと甘さ控えめにしてあります。昨日のおやつの時間、キャプテンは自室に引き籠ってていなかったけどね。当然、食べてもらえなかったけどね!なので、今、この場で食して頂こう。
コーヒーを飲みながら海図を見ている彼にキャプテーン、と声をかけると、なんだ?と言いたげな視線がこっちに向けられた。どーぞ、とクッキーを1枚差し出せば、何も言わずにパクリとそれを口にしてくれる。にししっこういうとこが尚更、好きだなぁって思っちゃうんだよなぁ。クルーが作ったものは、どんなものでも必ず一口は食べてくれる所がとてつもなく可愛い。
「何度見ても船長とリズのそれ、餌付けみてぇ…」
「そう?キャプテーン、もう1枚食べる?」
「…ああ」
視線は海図に向けたまま、んあと口を開けたので、クッキーを放り込んだ。
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