ガールズトークとは


じゃあ潜るのは明日ね、と話は進み、コックくんが腕を振るった夕食をお腹いっぱい食べて、今は何故かナミちゃんとロビンちゃんに連行されお風呂に入っております。本当に何で?いや、お風呂に入るのは全然いいんだけど…何で今日に限って強制連行?
まぁ、一緒に入ってしまった方が時短にも節約にもなるからね。麦わら達はそうしていることの方が多い。コックくんは片付けやら仕込みやらがあるから、その輪に入ることは少ないらしいけれど。うん、それはどうでもいい情報だった。覚えておく必要性もないな、他船のお風呂事情なんて。


「この船の内装ってすごいねぇ…」
「ふふっこの船はフランキーの力作なのよ」
「サイボーグさんの?」
「アイツ船大工だから。アンタのベッドもいい出来だったでしょ?」


うん、とても。サイボーグさんは取り急ぎ、とか何とか言ってたけど、どこからどう見ても手抜きには見えない出来だったんだよね。いい腕してるんだなぁって思わず感心しちゃったもん。お願いしたらウチの潜水艦の改装とか修理とか、してくれるのかな。
でもキャプテンが潜水艦と帆船は造りが全く違うから、普通の船大工はまず知識が乏しい可能性が高いんだーとか言ってた気がするな。ウォーターセブンに行けば潜水艦の造りにも詳しい船大工はいるかもしれないけどって。あそこはでっかい造船所があるって話だし。
まぁ、ウチのクルーにも整備士はいるけどね。日々のメンテが大事だから。でも大掛かりな修理とかになると…やっぱり大変なんだけど。


「そういえば、リズって結構しっかり刺青入れてんのね」
「刺青だったらナミちゃんだって入れてるじゃん。…でもそれ、麦わらのマークじゃないよね?」
「ああ…みかんと風車よ」
「みかん?……そういえば、みかんの木あったっけ」
「私の故郷のみかんなの!」


そう言って笑ったナミちゃんはとてもいい笑顔だった。みかんが好きなのか、故郷が好きなのかはわからないけれど…でもどっちも好き、ってことかもな。そっか、と言葉を返せば、またナミちゃんは嬉しそうに笑う。
この一味の笑顔は皆、嘘偽りが全くないなぁ。本当に嬉しそうに、楽しそうに笑ってる。世の中にはたくさんの嘘とか偽りが転がってるっていうのに…裏表がここまでない一味ってそうはいないんじゃないのかなぁ。
別にハートが裏表あるとか、嘘偽りの一味だってわけではないし、彼らだって本当に楽しくて、嬉しくて笑ってるんだけど………あ、そっか。似ているってわけではないけれど、この一味を見ていると何でだかハートを思い出しちゃうんだ。だから、…変なことを延々と考えちゃうのかも。
つまり要約すると、早く皆に会いたいってことだ。湯船の縁に腕をのせ、そこに顎をのせてそっと息を吐く。もうキャプテン達はシャボンディ諸島に着いてるのかなぁ。


「ずいぶんと淋しそうな顔ね。仲間に会いたいのかしら」
「そりゃそうだよー。こんなに離れたことないし…キャプテン元気かなぁ」
「…ねぇ、ずーっと聞いてみたかったんだけどさ」
「うん?」


ずずいっと顔を寄せてきたナミちゃんは、眉間にシワを寄せて真剣な顔。おお?何を言われるんだろう…というか、近いっすよ。


「リズってその船長のこと話す時だけ、表情が柔らかいのよね…」
「そう?」
「それにとても綺麗な笑顔を浮かべているわ」
「えええ…?自分じゃわかんないなぁ」
「そりゃ鏡で見ない限りわからないわよ。というか、本題はそこじゃないの!リズの相手への気持ちなのよ!!」


グッと拳を握ったナミちゃん。相手への気持ちって、…私のキャプテンへの気持ちってことだよね?それは辛うじて理解できるけど、それが本題っていう意味がわからない。この子は一体、私に何を聞こうとしているんだろう。
全然わからなくて首を傾げてロビンちゃんを見るけれど、彼女はふふっと楽し気に笑うだけで何も口にしようとはしなかった。まるでナミちゃんに聞きなさい、って言われてるみたい。このままロビンちゃんを見つめ続けても仕方がないので、視線をナミちゃんに戻す。それを待っていたかのように口元が弧を描き、綺麗な形をした唇が言葉を紡ぎ始めた。


「アンタってさ、船長に惚れてるんでしょ」
「ほれ……?」
「好きってことよ」
「うん、キャプテンのことは好きだよ。大好き」
「あー…わかってないわね、これは」


うん?わかってないって、何がだ?ナミちゃんの言葉は簡単なようで難しい。でも前にペンくんとシャッちゃんにも同じことを聞かれたことを思い出して、合点がいった。親愛か恋情かって話か。それでナミちゃんは、私のキャプテンへの気持ちが恋情なんじゃないのかって聞いてるんだね。
成程、成程…それだったら考える間でもない、答えは『恋情じゃない』一択です。この気持ちはそんな綺麗なものじゃないもん。どっちかと言えば、まだ親愛に近いとは思うけど…でもやっぱり、それとも違う。もっとドロドロして、汚くて―――あんまり人には知られちゃいけないものだと、思ってる。ずっと。


「キャプテンに対する気持ちは、そういうんじゃないよ」
「そうかしら。恋情ってリズが思っているほど、綺麗なものじゃないわ。独占欲だって湧くものよ?」
「どくせんよく…」
「思ったりしないの?その人の一番になりたいとか、特別になりたいとか」
「…あの人の特別になれたら、素敵だなぁとか幸せだろうなぁとか思ったことがないわけじゃないけど」


胸の奥で何かが、ストンと落ちたような気がした。


「リズ?」
「………やっぱり、わかんないや」
「え〜?何か考えてる風だったじゃない!」
「考えてみてもわかんなかったんだってば」
「ふふふっ」


ずーっと見ないようにして、蓋を閉じて隠してきたコレは―――そういうもの、だったんだ。
2人に曖昧な笑顔を向けながら、気がつきたくなかったと…泣きたい気分になる。きっかけを作ったナミちゃんとロビンちゃんを責めるなんて気持ちはこれっぽっちもなかったけれど、それでもやっぱり気がつきたくなかった。自覚なんて、一生したくなかった。

- 36 -
prevbacknext
TOP