一件落着とは、言い難い


慌ただしく出航して2時間程。どうやら追手の心配はなかったらしく、ひとまずは安心して大丈夫そうだ。念の為にサイボーグさんが見張り台でしばらくは様子を見るって話だけど。
私達はキッチンに集まって今更ながらの現状把握という名の報告会と、ついでにおやつです。多分、おやつが本題で報告会がついでのような気もするけど…だって現状把握って言ったって、もう事は済んでるしね。私はそれでも知りたいことがたくさんあったから有難いけども。だってなにひとつわからないまま、出航しちゃってるんだもの。
別にそのままでもいいんだろうけど、七武海が何故あの場所にいたのかってことは知っておくべきかなって思って。キャプテンのことを知っているみたいだし、全くの無関係ってわけでもなさそうなんだよね。もし、キャプテンに何かをするようであれば―――七武海だろうが何だろうが、あの男は私の敵だ。何もないのであればそれでいいけど、用心しておくに越したことはない。


「…で、あの結婚のことなんだけどね」
「どうやら町ぐるみでの計画だったようよ。嵌められたってことね」
「狙いは麦わらの首?」
「いや、それがそうじゃなさそうなんだよな…はい、リズちゃんの分」


コックくんにお礼を述べながら、話の続きを黙って待つ。そして語られたのは、『目的とかはよくわからないけれど、町の奴らは口を揃えてあの女を献上しろって叫んでた』という…本当によくわからない真実でした。
でもナミちゃん達がどれだけしつっこくどういうことだ、と叫んでも、誰ひとり疑問を解決してくれなかったそうな。ただ狙撃手くんが誰かが『若様』と言っていたのを聞いた、と教えてくれたけど。それ以外は何も語ろうとしなかったみたい。


「でもあの女っていうのは、多分お前のことだろ。リズ」
「…まぁ、あの状況を見る限りはそうなんだろうね」
「なんでお前が狙われるんだ?」
「私が聞きたい」


あの島に立ち寄ったことなんてないし、恐らくあそこにいた海賊達とも面識なんてないと思う。狙われる理由なんて全く心当たりはないんだけど、…でも一つだけあるとすれば、それは私が『人間兵器』だからってことだ。狙撃手くんが聞いた『若様』と呼ばれる人物が、私を攫おうとしたドンキホーテ・ドフラミンゴのことだとするならば理由はそれしかないと思っている。ベビー5という女性もあの男のことを『若様』と呼んでいたし、下っ端共もそう呼んでいた記憶があるもの。
だけど、これを麦わら達に言う必要性はゼロかなぁ。追手が来ていない所を見ると、どうやら深追いするつもりは皆無のようだし。しばらくは安全な航海ができるはずだ。ああでも…これを曖昧なままにさせておくと、ハートの皆に迷惑をかけることになってしまうのだろうか。それは嫌だなぁ。
かと言って、あの男の居場所なんて知るわけないし。そして1人で挑んで勝てるとも思っていない…その場にいるだけであの威圧感だもの、どう足掻いたって難しい。それくらい弁えてる。格上の相手に勝機もなく突っ込んでいくほど、私はバカじゃないと思っているのです。…多分。


「ひとまず、しばらくは安心して大丈夫そうではありますが…何とも一件落着、とは言い難い感じですねぇ」
「まぁ…海賊は嫌われるモンだとわかっちゃいるけど、気分がいいわけじゃねぇしなぁ」
「おれ下りてないけど、殺伐とした雰囲気は感じなかったぞ…それなのに、」
「…いちいち気にしてたらもたねぇだろ、チョッパー」
「!……うん」


心優しいトナカイくんは、執拗に浴びせられた罵詈雑言に疲弊しきってしまっているらしい。まぁ、そうだよね。狙撃手くんの言う通り、気分がいいもんではないもの。どれだけ言われ慣れていたとしても。
麦わら達の会話を耳にしながら、コックくんお手製のアップルパイを口にする。あ、美味しい。


「リズ、お前大丈夫だったのか?」
「…なにが?」
「教会の中でだよ。出てくる様子がなかったから、ちょっと焦ったぜ」
「ああ…うん、ちょっと動き辛くて」
「ドレス着てたらそりゃそうよねぇ」


何もなかった、というわけではないけれど、怪我してないのかって意味だったら大丈夫だと答えて問題ない。実際、押し倒されたものの怪我らしきものは一切負っていないのです。肩は露出していたけれど、足はドレスですっぽり覆われていたから擦り剥きもしなかったんだよね。ある意味、ラッキーだと思う。うん。
もう一口アップルパイを食べ、紅茶で喉を潤しているとキッチン内の空気が少しずつ、明るくなっていくのを肌で感じていた。それはきっと船長である麦わらの元々持っているオーラのようなものなんだろうなぁ。出会って間もないけれど、それは常日頃ひしひしと感じているものだ。
太陽のような笑顔、という表現方法があるけれど、麦わらの笑顔ってそうかもしれないなぁ…とか、ぼんやりと思った記憶がある。彼が笑うと周りもつられて笑うことが多いし、私も…一度だけ、引きずられてしまったことがあるしね。こんなんでいいのか、と思うことは多いけど、でもまぁ色んな海賊がいるよねー。こんなご時世だもの。


「でも魚人島へ行く方法は、何の情報も得られなかったわ」
「指針は海を指しているから海底なのは間違いないのだけれど…」
「船でどうやって海底へ行くのか、っつー話だしなぁ」
「ヨホホホ!確かこの船には、小さな潜水艦がありましたよね?試しに潜ってみては?」


ガイコツさんは優雅に紅茶のカップを傾けながら、笑った。皆はその手があったか!って顔をしてるけど、私からすればさっぱりだ。何ですか、小さな潜水艦って。首を傾げている私をよそに麦わらは早速潜ってみようぜ!と立ち上がるけれど、それをナミちゃんが慌てて止めている。何故ならもう日没が近づいているから。
あの島を出たのがもう夕方近かったからねー…そりゃ陽も沈みますって。海の中は確かに潜れば潜る程に昼間でも暗くなるけど、それでも陽が沈んでから潜るよりは陽が出ている間に潜った方がいいと思う。危険性が変わるかどうかは不明だけど、待っている方の気分的に。何となく。
というわけで、潜るのは明日になりました。…これは、本格的にシャボンディ諸島のことを話した方がいい気がしてきたなぁ。そう思うものの、結局は何処にある島なのかわからないままなので話を持ち出すこともできないんだけど。

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