はじめての人魚
潜水艦で潜って魚人島へ行く手立てを探そう、ということで、今鮫の形をした潜水艦にロビンちゃん・麦わら・ガイコツさんが乗って潜っている最中です。狙撃手くんとトナカイくんはびっくりプールと呼ばれたプールで泳いでて、コックくんはキッチンで何かを作っている。海賊狩りはトレーニング中だって。
それぞれ好きなことをして過ごしているのは、まぁ見慣れたものだけど…潜っている3人って悪魔の実の能力者だよね?いくら潜水艦だからといって、何で泳げない人だけで行かせたんだ。1人くらい泳げる人を乗せるべきだったのでは…と思うんだけど。
「リズちゃん、ホラー梨のタルトができたんだ。どうぞ」
「ありがとう」
「飲み物を淹れてきたからここに置いておくよ。おかわりが必要であれば、また言ってくれ」
「うん」
出来立てのタルトを口に入れれば、食べたことのない味がいっぱいに広がった。うわ、これめちゃくちゃ美味しい…!ホラー梨っていう果物は聞いたことがないけど、でも甘酸っぱくていい味。こういうのだったら甘いものがあまり得意じゃないキャプテンも食べられるかなぁ。
料理人はあんまり自分の手の内を明かしたくないタイプだ、と誰かが言っていたけれど、コックくんもそうなんだろうか。聞いたらレシピとか、教えてくれたりしないかなぁ。キャプテンだけじゃない、クルーの皆にも食べさせてあげたいって思う。美味しいものや綺麗なものってさ、大好きな人達と共有したくなるものでしょ?
さすがに今食べているものを持っていくことはできないし、キャプテン達に食べさせたいから作ってなんてことも言えるわけもないから。だったらせめて、レシピだけでもって思ったんだ。
「…コックくん」
「ん?なんだい、リズちゃん」
「このタルトのレシピって、教えてもらうことできる?門外不出?」
「いや、それは全然構わないけど…どうしたんだい?」
「コックくんの作るものってどれも美味しいから。ちょっと、…」
「ああ…君の仲間に食べさせたくなったってことかな」
コックくんの言葉にコクリ、と頷けば、そういうことならお安い御用だと頭を撫でられた。
おお、ビックリした…!
「リズちゃんが船を下りるまでにまとめておくよ。他にもいくつか見繕ってさ」
「このタルトだけでいいのに」
「うん。でも他にも気に入ってくれていた料理があっただろう?それも書いておくから」
よく見てるなぁ…殊更、食事に関することは。素直に感心してしまう。でもそれくらいの観察眼がないと、全員の栄養管理とかするのは大変なのかもしれない。どんな料理が一番口に合っているか、どの食材を苦手としているかとか…そういうの。海の上で船員の命を握っているのは、きっとコックだもんね。簡単なようでとても難しいことだと思う。
つらつらと考えながらもう一口、タルトを口にしているとザバァッと波しぶきが上がっているのが見えた。なんだあのでっかいの…海兎?どうやらあのでっかいのは、さっきまで潜っていた小さな潜水艦を追いかけてきたらしい。麦わらの強烈なパンチで、すぐに海へ沈んでいったけど。
でも今、私の見間違いじゃないければ―――
「なにか、吐いた?」
「だね」
ひゅるるる…と音を立てておちてくるもの。それは段々近づいてきて、徐々に形が露わになっていく。魚、かな?あのビジュアルから察するに。でもきゃああって声みたいなのが聞こえるし、手のようなものも見える。でもやっぱり、魚の尾びれ…だよね?あれ。
上半身は人っぽい、下半身は魚っぽい…ということは、つまり人魚?!
驚いている間に人魚と思われる人?は、ドカーンッと派手にコックくんへと突っ込んでいった。そしてその横へ見事に着地した…何か変な生き物もいるけど。え、形はヒトデだけど…帽子?かぶってるよね?これもロビンちゃんが言っていた魚人族の一種なのだろうか。…ヒトデが。
「何かお礼をしなくっちゃ!!―――そうだ!!タコ焼き食べる?!」
何でタコ焼きなんだろう。麦わらは大好物だと食いついているが、何故にお礼でタコ焼きが出るんだろうと疑問を抱いていたら、人魚さんが元気に「お一人500ベリーになります!」と声を上げていて合点がいった。
成程、この子はタコ焼き屋さんなのか。でもお礼って言ったはずなのに、バッチリお金取るんだなぁ。ただ、それは彼女の言い間違いだったらしくヒトデさんがツッコミを入れていらっしゃる。なんだかもうしっちゃかめっちゃかで全員が全員、驚いた顔ですっごいことになっている。騒がしいなぁ、本当に。
ようやく落ち着きを取り戻し、人魚さんはケイミ―と名乗った。喋るヒトデはパッパグ。ええっと、人魚さんのペットで師匠らしいんだけど…なに、その厄介な関係。ペットなのに師匠なの?というか、何の師匠なの?今更、喋ることにそこまで驚きはしないけど不思議すぎるでしょ。
ツッコミが追いつかなくて頭を抱えていると、ヒトデさんは何故かギターをジャカジャカ弾き鳴らしながら歌い始めるし、人魚さんはさも慣れていると言わんばかりにヒトデさんを師匠としている理由を話し始めるし…やっぱりしっちゃかめっちゃかだ。カオスってやつだね。
「このTシャツは"クリミナル"ってブランドで、魚人島で流行ってるのよ!そのデザイナーがパッパグ!!私もいつかデザイナーになりたいの」
ああ、成程。だからヒトデさんが師匠なのね。ようやく納得したわ。そして肝心のヒトデさんが喋れる理由だけど…かいつまんで話すなら、『勢い』だそうです。勢いってコエ―なって麦わらに話してるけど、勢いで話せるってどれだけ不思議な現象なんだよ。しかも自分をヒトだって勘違いしてたって…どんな勘違いだ。でもツッコんだら面倒だし、黙っておこう。
…というか、さっき彼女が着ているTシャツは魚人島で流行ってるって言ってたよなぁ。ということは、この子はやっぱり魚人島出身ってことになるわけで。それはつまり、麦わら達のログポースが指してい魚人島への行き方を知っていることになる。確かキャプテンは魚人島へ行くにはシャボンディ諸島でコーティングをしないといけない、って言っていたから、ようやく仲間達に会えるかも!ナミちゃんも悩みが解決するとわかったらしく、聞きたいことが…と口を開いたのだけれど、それを遮ったのは麦わらの「タコ焼きが先」だった。
いや、君はどれだけタコ焼きが食べたいの…さっきお礼に、とは人魚さんが言っていたけれども。でも言い出しっぺの人魚さんもお礼のタコ焼き!と言って、取り出した子電伝虫で誰かに連絡を取り始めた。
「はっちんって…誰のこと?」
「さあ…ケイミ―の知り合いなんじゃないの?」
まぁ、そりゃそうなんだけど。嬉しそうな声で喋る人魚さんの声に返答したのは、何だか悪そうな笑い声。向こうは人魚さんのことを知っているのか、名前で呼んでいるけれど人魚さんは『はっちん』じゃないことにとんでもなくビックリしている。顎が外れそうだなぁ、そのうち。
というかさ、相手が誰なのかよくわかってないけど自分で毎度お馴染みズッコケ…とか言ってるんだけど、バカなの?アホなの?そしてまさかのトラブル発生ってやつですか。
人魚さんと相手の話を聞いてみると、どうやら『はっちん』は捕まってしまったらしい。助けたければ、シャボンディ諸島44番GRから東に5キロの海にある人攫い組「トビウオライダーズ」のアジトに来いですってよ。最後に人魚さんに『はっちん』と呼ばれた男の人の声、怒声、殴る音が聞こえ通信は途切れた。
ううーん、何だか自体は深刻みたいだねぇ…なのに、麦わらの第一声は「タコ焼きは?」だった。いやいやいや、そんなこと言ってる場合じゃないでしょうよ!君はどれだけ食べたいんだ!!
「…ちょっと待って。今の電伝虫の”はっちん”て男の声…なんか知ってる声のような…!!」
「ナミちゃんの知り合い?」
「うーん…気のせいだと思う。そんなハズないか…」
訝し気に呟かれた言葉に、私はただ首を傾げるしかなかった。
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