空飛ぶ魚


ひょんなことから人魚さんの友達を助けることになりました。その交換条件として、人魚さんに魚人島へ行く術を教えてもらうそうな。まーた面倒事に首を突っ込んでる感は否めないけれど、トビウオライダーズと呼ばれる奴らのアジトがある場所がシャボンディ諸島って言ってたし…私にとっても悪いことではないんだよね。だってその島にキャプテン達がいるはずだから。
浮き足立ちそうな心を落ち着けつつ、ヒトデさんの話に耳を傾ける。さっき聞いた44番GRっていうのは、シャボンディ諸島の最も東に位置する島らしい。私達が今いる場所からシャボンディ諸島へ行くライン上…諸島に着く5キロ手前にあるんだって。勝手に大きな島だと思っていたけど、もしかして違うのかな。気にはなるけれど、今は口を挟んだらいけない気がしたのであとでにしよう。ひとまず、西に進めばいいみたい。あとは魚達に聞けばわかるって言ってるけど、どうやって聞くの?


「おーい」


人魚さんが声を上げると、海面にたくさんの魚が顔を出した。彼女は口をパクパクさせてるけど、一体なにを言っているのか私達にはサッパリだ。でも魚達にはしっかり通じているらしく、会話できちゃってるみたい…人魚ってそんなことができちゃうんだ。すっごいなぁ。


「トビウオ達が恐いから近くまでなら先導してあげてもいいって!」
「…近くまで?」
「でも海の中の魚にどうやってついていくの?」


あ、確かに。海面に出た状態では泳ぐことはできないし、かといって海の中に潜られたらもう私達は視認することができない。でも人魚さんは困っている様子もなく大丈夫だよ、見ててと笑みを浮かべた。そしてほら、と指を差した先に見えたのは、波に描かれた矢印。さっきの魚達が矢印になるように並び、バシャバシャと波しぶきをあげてくれているみたいね。それで矢印の形になっている、ということみたい。成程…これについていけば、目的の場所まで行けるってわけか。
すごい光景に感動していると、トレーニングルームにいた海賊狩りがスタンッと下りてきた。それはいいんだけど、…何で飛び降りれるの。あの高さから。いや、試せば私もできると思うけどさ。階段がないわけじゃないのになぁ…ものぐさなんだろうか、この人。
経緯を全く知らない海賊狩りが船を出すのか、と首を捻る。でも麦わらはそれに答えず、人魚さんを紹介した。したのだけれど…何だろう、初めて見たって言葉にするまでの奇妙な間は。


「…君もコックくんも、一体なにを見たことがあるの」
「本人曰く、人魚だったらしいが……あれはなかったことにしたい」
「とことん失礼な奴らだね」


首にかけていたタオルで汗を拭う海賊狩りに、誰かが用意していたらしい水を渡していると人魚さんが悲痛な声を発している。ひどいことをされたんだ、ととても悲しそうに。しょんぼりとしている姿を見ると、胸がズキンと痛んだ気がした。
きっと大切な人なんだな、人魚さんにとって。


「それよりおめェら、軽く引き受けてくれたが腕っぷしに自信あんのか?」
「うん、強ェぞ」


訝し気に尋ねるヒトデさんに、あっさりと即答する麦わら。自信満々すぎてあんぐりと口を開けそうになったよ…いや、まぁあれだけの賞金をかけられてるんだし強いことはわかるけど、ここまで言い切ってしまうっていうのもすごいような。謙遜するタイプに見えるのか、と聞かれたら、つき合いの短い私でもNOって答えると思うけどね。いい意味でも悪い意味でも、この一味には素直な人が多い。
麦わらの即答により納得したかと思いきや、ヒトデさんの話はまだ終わってはいなかった。この辺りには"人攫い"って裏家業の集団が何十チームも存在しているらしいです。何故かと言うと、『シャボンディ諸島』で人間の売買が盛んに行われているからなんだって。思わぬ重い話に、ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。


「中でも人魚はい〜い値で取引されるから、マクロ一味って魚人の3人組はしつこくケイミ―を狙って来る」
「あ、さっきの電伝虫の?」
「そうだ。ハチは多分…今回、おれ達が海獣に食われて帰って来ねェのをマクロ一味に攫われたと勘違いして乗り込んでったんだと思う」
「うん…多分そう……はっちん優しくて真っ直ぐな人だから。私のせいだ」


人魚さんの悲しそうな声に、また心臓が悲鳴を上げる。グッと唇を噛んで俯いてしまった彼女を見て、思わずその頭を撫でてしまった。
しまった、と思った時にはもう手遅れで。バッと顔を上げた人魚さんとバッチリ視線が絡んでしまう。薄らと涙を浮かべながら、でも人魚さんはにっこり笑みを浮かべる。


「ありがとう。えっと…」
「…リズ」
「リズちん!」


気まぐれの行動にお礼を言われてしまって、何だか居心地が悪い。ふいっと視線を逸らし、再び口を開いたヒトデさんの話に耳を傾ける。


「いつもならハチの圧勝で片がつく所だがよ…噂の『トビウオライダーズ』が絡んで来るとは…」
「何だそれは」
「最近、急にここらの海でハバきかせ始めた人攫いの集団の一つだ」


ボスは『デュバル』という名の鉄仮面の男で、その素顔は誰も知らないそうな。何でもその人は人を捜しているらしくて、ここらを通る船を全てチェックしているって噂みたいね。うーん、話を聞いている限りだと…厄介なのは『トビウオライダーズ』の方みたい。マクロ一味とやらはそんなに強くなさそうね。
何となく重くなった空気を一気に霧散させたのは、やっぱり麦わらの声だった。


「まぁ!とにかくよケイミ―!!心配すんな、タコ焼きは必ず助ける!!」


何とも心強い言葉だとは思うけど、でも助けるのはタコ焼きじゃなくってタコ焼き屋だと思うんだけど。
ははは、と乾いた笑みを零していると、人魚さんが驚いたような声を上げた。どうしたの?と首を傾げると、ひどく焦った声で魚達が「悪いけどここまでだ」だって…と。ここまでだ、って道案内をできるのがってこと?欄干から身を乗り出してみると、確かにさっきまで見えていたはずの矢印は跡形もなく消え去っていた。つまり…何かが来た、ということ。
耳を澄ましてみると、微かに風を切る音が聞こえる。海じゃなくて、…空?!私が顔を上げるのと同時に人魚さんも指を差して、空!!と叫んだ。そこには確かにいた―――魚に乗った、人間が。


「トビウオって…こんなに飛ぶんだっけ?!」
「グランドラインって何でもアリなんだなぁ…」
「ンな真面目に分析してる場合かァ!!」


ひゅっ…とまた風を切る音。船の真横をトビウオが通った瞬間に、たくさんの爆弾が投げ込まれた。弾き返そうと拳を握ったけれど、それよりも早く麦わら・海賊狩り・コックくんがそれらを吹き飛ばしていく。海上で爆発してくれたから船に傷は一切ついてないと思うけど、結構近くで爆発したから空気がビリビリと震えてる。
向こうがその気なら迎え撃つまで…そこそこのスピードで飛び回るのを相手するのは厄介だけど、手段が全くないわけじゃないしね。そう思ってホルスターの銃に手をかけたのに、奴らはそのまま何処かへ飛んでいってしまった。


「……あれ?行っちゃった」
「なんだ、お前もやる気満々だったのかよ」
「海の上だと体を動かす機会なんて限られるから、久々に暴れられると思ったんだけど…」
「とにかくアンタは銃から手を離しなさい!危ないわね!」


いやいや、別に撃つ相手がいないならむやみやたらに発砲したりしないってば。


「それにしても、…さっきの奴ら、麦わらの一味を見つけたって言ってたな」


ヒトデさんが言っていた『人を捜しているらしい』っていうのは、もしかしなくても麦わら達のこと?何で人攫い集団が麦わら達を捜しているんだろう。
わからないことだらけだけど、それもきっとこれから行く場所で解決されるんだろうな。

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