驚きにも程がある


私はキャプテンが好きだ。それはもう誰よりも、何よりも大好きだ。ハートのクルーも同じくらい大好きだけど、失いたくないけれど、それでもやっぱりキャプテンは特別で。この人の為なら、この人の命なら何でもするって昔から決めている。
決めて、いるのだけれど―――…ごめん、これはちょっと頂けない。頂けないよキャプテン!!!

「うっわぁ…とても生々しい……」
「いや、触るなよお前…」
「キャプテーン!これまだ動いてる!めっちゃ気持ち悪い!!」
「誰が持ってろと言った。麻袋に入れておけ、と言ったはずだが?」

それに動いていない心臓を送ってどうする。
ベポくんと航路の確認をしていたキャプテンにそう言われてしまい、そういえば死んでいたら意味がないことを思い出した。『生きた心臓を100個、海軍本部へ送りつける』のが、キャプテンの目的。それを材料にあの人は七武海入りを目指している。…うん、手段は色々だと思うんだけど…これ効果あるの?ドン引きされて、叫ばれて終わりじゃない?心臓100個送ってくるなんて素晴らしい!七武海に迎え入れよう!!ってなる?ならないでしょ、普通。
というか、七武海への加入理由って何が重視されるんだっけ…強さとか、そういうのだったっけ?まぁ、それなら心臓100個送りつけることで検討はしてもらえそうな気がするけど、どうなんだろう。残虐性はぶっちぎりだと思うけどね。でもなー…七武海に入ることでのメリットって何なんだろう、キャプテンにとって。

「『政府の狗』になりたがるわけないのに…」

そう。七武海とは海賊とはいえ、政府に与する立場から『政府の狗』と揶揄されることが多いんだよね。それはこの海で生きている者なら誰もが知っている事実だと思う。だからこそ、七武海を毛嫌いする海賊も多いってこと。キャプテンが七武海をどう思っているのかは知らないけれど、この人は元々人に命令されることを好まない。自ら進む道は自分で決める、そういう考えを持った人だから。
だから余計にわからない、七武海に入るって宣言した理由が。キャプテンからその話をされた時、艦内は阿鼻叫喚って感じだった。驚きに大声を上げる人、大口を開けてポッカーンとする人、眉間にシワを寄せている人、表情を変えずただ静かにキャプテンの言葉を聞いている人…とにかく大騒ぎだったんだよね。私は眉間にシワを寄せて、「は?」って呟いた。だって意味がわからなかったし。
とはいえ、全員がキャプテン大好きだから口汚く罵るような輩はゼロだったんだけどさ。そして下船する人もいませんでした。最悪、そうするクルーが出てきてもおかしくない案件だからね。これ。内心、ちょっとだけ冷や冷やしたけどね。内部戦争勃発とかにならないかな、って。まぁ、それは私の杞憂だったんだけれど。あるはずもなかったよね。

『気に入らねェ奴は船を降りるといい。止めはしねェ』

静かに目を伏せ、あの人はそう言った。政府の狗になることがどうしても受け入れられなければ、船を降りろと。キャプテンの真意は誰にもわからないし、想像しきれることではない。でも何の考えもなしに発言するような人でもない…きっと何か、思惑があるんだろう。この急な話にも。
それを理解しているクルーだからこそ、今回の話に異議を唱えるものはいなかった。驚いたし、色々と疑問は投げ掛けはしたけどね。

「いいの?リズ」
「なにがー?イッカクちゃん」
「船長が七武海に入ることがよ!アンタ、政府のこと好きじゃないでしょ?」
「海賊で政府や海軍を好きな人は、多分いないと思う…」

政府や海軍の人間でも、一個人に好感を抱く人は稀にいるかもしれないけど基本は嫌いか興味がないと思うよ。まぁ、イッカクちゃんの言う通り政府も海軍も好きじゃないけど。滅びろって思ってたこともあるけど。

「思う所はあるけど…キャプテンが考えなしにあんな発言するわけはないし」
「それはそうだけどさぁ…」
「それにキャプテンが決めたことなら、私は従うよ。デメリットばかりじゃないしね」

自分の発言にハッとした。キャプテンが七武海に入ろうと画策している理由は、『それ』なのかもしれない。七武海に入るメリットは確かにある。あるけれど、その一般的なメリットとは別にキャプテン個人に関するメリットが何かあるんじゃないのかって。だとすれば、今回の行動にも説明がつく。何故、人に命令されることを嫌うあの人がわざわざ七武海に入ろうとしているのか。そのメリットが何なのかはわからないけれど。
これは私の推測でしかないけれど、思いつきで行動するような人じゃないし、そこそこいい線いってるんじゃないかなって思う。本人に問いかけても答えは返ってこないと思ってるから、答え合わせをしようっていう気は更々ないけどね。
正直、政府と関わりたくなんてないけれど…キャプテンの為なら、ちょっとくらいは耐えようと思う。うん、ほんのちょっとだけ。キャプテンは大好きだし、この人の為なら何でもしようっていう気持ちはいつだってある。それでも嫌なものは嫌だから、こればっかりは無理しないのだ。我慢したっていいことは何ひとつないんだからね!

「でも心臓100個か〜…道のりは長いよね」
「それも下っ端じゃなく、『賞金が懸けられてる海賊の心臓』でしょ?捜すだけでも一苦労よ…」
「まーね。けど、能力使ってるキャプテンがカッコイイからプラマイゼロどころか、むしろプラスだと思う」
「真顔で言うことじゃない」
「じゃーヘラヘラ笑いながら?」

溜息ついたイッカクちゃんにそう問いかけると、それは腹立つわねって舌打ちされました。私自身もそれは腹立つな〜って思ったからそれはいいんだけど、全然いいんだけど、舌打ちはやめよっか!さすがに傷つくから!!

「リズの船長大好きっぷりは今更だったわ。あの人がどんなことしてても、カッコイイってなるでしょ」
「それは私以外のクルーも当てはまると思うなぁ」
「ああ…それもそうか」

そう言っているイッカクちゃんだって、例にもれずキャプテンのこと好きだし。ハートのクルーは程度に差はあれど、皆キャプテンのことが大好きで尊敬していますから。
あの人に救われたり、憧れたりしてこの船に乗ってる人が大半―――いや、大半じゃないな。全員だな。キャプテンについていくって決めて、海賊になった人達ばかりなのです。そういうクルーの集まりなんだよ、ハートの海賊団は。

「リズー、イッカクー!そろそろ出港するってよー!」
「はいよー!今、行く」
「お、次の獲物の目星がついたのかな」
「かもね。行くよ、リズ」
「アイアイ、イッカクちゃん!」

嫌な予感がしていないわけじゃない。急に七武海に入るってあの人が言い出したことで、何かが水面下で動き始めているような気がして…もしかして大事なものを失ってしまうんじゃないか、って最悪の想像までしてしまっている始末だ。
でも―――嫌な予感にばかり気を取られていたら、きっとそれが本当になってしまう。大丈夫…失わない。キャプテンも、仲間も、この大好きな日常も、全て。誰にも奪わせたりなんて、しない。どんな手を使ってでも守る、守り抜いてみせるんだ。

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